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Virgin☆Virgin  作者: N.ブラック
第十四章 大海原を突っ走れ!
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第十四章 第八話

 危機的状況を脱したザイア家の双子の男の子達は、術後三日目の今日の午後には一般病棟へと移動する予定になっていた。もう普段に近い状態に戻った二人は盛大に泣いたり愛くるしい笑顔で笑ったりと、すっかりとICUの看護師達を虜にしているらしく、ジャスティンがICUを訪れる度に何時も誰かしらが二人をあやしていて、ほのぼのとした光景にジャスティンの頬も緩みがちだった。

 結局何故幼子の身体の中に銃弾があったのかは謎のままで、英国軍で摘出された銃弾を詳しく検分した結果ロシア製と判明はしたが、何らかの危害が二人に加えられた痕跡が無いのも事実でそれ以上の真相の追究は憚られて、カルテには『原因不明の異物の混入による心機能障害』と記される事となった。



 ジャスティンの実技試験はその騒動で中断されたままで、後日にもう一度試験をやり直すのかと、折角試験の重圧から解放されたというのにまだジャスティンは両肩に重苦しい荷を背負ったままで、その事を思うと天を仰いで嘆きの嘆息も出ようというものだったが、呼び出された医局長室に『再試験』を覚悟して緊張した顔で出向いたジャスティンをヒックスは斜に構えて不敵に出迎えた。

「合格だ。Mr.ジャスティン・ウォレス」

 素っ気無く言い放った後にジャスティンの目の前に英国政府発行の医師免許証を突き付けたヒックスを真上から見下ろして、何かの間違いじゃないかとジャスティンは何度も目を瞬かせた。

「って、試験中断したままなんですけど」

「緊急手術も含めて実技試験と看做された。その試験にお前は合格した。そういうわけだ」

 両手で受け取った医師免許証をまだ信じられない面持ちでじっと見入っているジャスティンを見上げて、ヒックスは何時もの無愛想な顔に僅かに笑みを浮かべていた。

「今後のウォレス医師の健闘を祈る」

 そう言うとジャスティンにクルリと背を向けてまた仏頂面で机上の資料に向き直ったヒックスの背中を唇を噛み締めてずっと無言で見つめていたジャスティンは、両足を揃え右手を挙げて誇らしげに「了解しました( イエスサー)!」と叫んでいた。

 無言のままボリボリと茶髪の頭をペンで掻いていたヒックスは、やがて振り返ると不器用な敬礼を返して「さっさと仕事に戻れ」と不機嫌顔に僅かに頬に照れの赤みを浮かべて、ニカッと笑顔を浮かべたジャスティンをシッシッと手で追い払った。



 合格した時にはどんなガッツポーズで決めるべきかなどと子供じみた事も考えていたジャスティンは、もっとこう血の滾る様な興奮が湧いてきてもいいものを、天にも昇る夢心地というのはこういう事なのかと、フワフワした頼りない足取りで拍子抜けした上の空の表情で小児科医局への戻り道を歩いていたが、赤みが注した両頬と隠しきれないにへら笑いの浮かんでいる口元で察したのか、ナースステーションに居た看護師が笑顔で声を掛けてきた。

「ウォレス先生、合格おめでとうございます」

「あ? ああ。おう。ありがとう」

 唐突に声を掛けられて夢の世界から現に戻ってきたジャスティンは狼狽しながらも安堵の微笑みで答えて、皆に声を掛けられる度に実感が沸いてくすぐったい思いがジワジワとこみ上げてくるのを、ジャスティンは充実感と共に味わっていた。




「かんぱーい! 我らの未来に栄光あれ!」

 その夜談話室に集まった十名の研修医達は誰もが笑顔で、今年は脱落者は一人もおらず全員が合格を果たし、研修医生活最後の夜を盛大に祝って盛り上がった。

「でも先輩、本当に良かったですねぇ」

 珍しく今日はかなり飲んでいるらしいアンガスは真っ赤になった顔で遠慮なくジャスティンの背中を盛大に叩いてケラケラと笑っていた。

「おうよ。俺は落ちないって言ってただろが」

 得意げに胸を張って威張り散らしているジャスティンを見上げて、アンガスは一気にエールを呷って据わった目でジャスティンに顔を近づけてフフンと笑った。

「いよいよ、夢が近づいてきましたね」

「まぁな。でもまだまだ先の話だよなぁ」

 無事に合格は果たしたものの、将来の進路がまだ決まっていないジャスティンは物思う瞳を宙に投げた。

「でもまぁ、一先ずお祝いって事で」

 機嫌良さげに一層赤らんだ顔を近づけたアンガスは、振り向いたジャスティンの両頬を両手で包んで、油断していたジャスティンの唇をチュッと軽く奪って両手を突き上げてガッツポーズをした。

「先輩のキス頂きました~!」

「おおー!」

「いいぞ、もっとやれ!」

「押し倒せ! アンガス!」

 一瞬の事で呆然としているジャスティンの周りでは酔った男達が無責任にはやし立てて、浮かれて飛び跳ねながらエールのグラスを掲げて上機嫌なアンガスと、それに応えて一斉に踊り出した他科の研修生達に囲まれて、ジャスティンは何が起こっているのかと腰の砕けた状態で呆然と座り込んでいた。

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