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Virgin☆Virgin  作者: N.ブラック
第十三章 May storm(五月の嵐)
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第十三章 第一話

 季節も五月になると穏やかな日が多くなり、特に晴れ渡った日に屋上へ上がると降り注ぐ日差しも暖かく、吹き過ぎる風にも何処と無く緑を含んで胸を大きく膨らませて目一杯吸い込むと、それだけでも力が漲ってくる感覚にジャスティンは自然に微笑んでいた。

 先程病院を出発した車はもう順調にロンドンを出た頃だろうかと、北へと向かってひた走っているその車が此処から見える筈も無いのだが、ジャスティンは風の吹き過ぎる方向へと潤んだ瞳を向けた。




 昨秋から手術の為に入院していたヘザーは、今朝早くに無事退院となり、すっかりと元気になった明るい笑顔を見せていた。

「ジャスティン、本当にお世話になったわ」

「ウォレス先生、何から何まで済まなかったな」

 薔薇色の頬で微笑むヘザーの隣で、何時もより僅かに顔が綻んでいる夫ネルソン・アトキンズ大尉もジャスティンに向かって笑顔で右手を差し出した。

「いえいえいえ。俺なんか何も」

 照れながらもその手を握り返したジャスティンの掌には、大きな手から伝わるネルソンの感謝の気持ちが感じられて、身体の奥から湧き出る安堵と充実感に押し上げられるように、何度もネルソンに頷き返していた。

「お前さん、まだまだ半人前なんだから、しっかりやる事だね」

 此方は相変らずの睨みを効かせた顔のハナは顎をグイッと突き上げて大柄なジャスティンを見上げて、その背をぶっとい手で遠慮も無く盛大に叩いた。

「それに、上腕と背筋の筋肉が落ちてるし、随分しまりの無い体になっちまって。しっかり鍛え直す事だね」

「ちょ、待ってよ、ハナ。俺もう軍人じゃないし」

 厳しいハナの言葉にジャスティンはうろたえて瞳を泳がせたが、フンと鼻息も荒いハナは、腕組みをしてジャスティンをじっと睨み上げていた。

「自分の身体にちゃんと向き合えって事さ。医者だって不死身じゃ無いんだからね」

 睨んでいる筈のハナの瞳が微かに潤んでいて、ハナが心配している気持ちが痛い程伝わってきたジャスティンは、その思いを噛み締めながら「ああ」と頷いた。

「そうだぞ、ジャスティン。何なら何時でもエディンバラに戻って来いよ。軍医殿が好待遇で出迎えてやるっておっしゃってたからな」

 ケタケタ笑っているのはハナの夫ルロイで、二人はこの後直ぐにはエディンバラには向かわずに行く所があるのだと言う。

「ポーツマスへ、ちょっとな」

「え? もしかして班長殿の処?」

「ああ。レオが任務でフランスへ出向くらしいでね。マリア一人で双子の世話はしんどかろうでな」

 そう言って豪快に笑ったハナは、最後にもう一度ジャスティンを振り返って笑った。

「南の不味い物でも残すんじゃないよ、ジャスティン」

 去って行く二台の車が見えなくなるまで敬礼を返して、口を真一文字に結んだジャスティンは、朝の涼風に吹かれながら何時までも病院の玄関前に立ち尽くしていた。








「で、校外学習って何さ、ビリー」

 寄宿舎( ハウス)の食堂で、エドナが困惑しているにも関わらず皿に温野菜サラダをこれでもかと山積みにしているロドニーが、皿から零れた野菜をポイッと口に放り込んで目の前で苦笑いしている外国語教授を振り返った。

「あー、Mr.ロドニー・ワイズ――」

「あー、校外学習って何ですか、ローグ教授」

 慌てて言い直しながら自分の席に座ったロドニーを軽く睨んで、コホンと小さく咳をしてからビリーは徐に告げた。

「聖システィーナの直ぐ近くにサウスダウンズ国立公園があってな。丘や森が広がり、貴重な植物や野生生物も多い。其処でキャンプをしながら自然観察を行うのを目的として――」

「って事は、外で遊べるんだな?」

 ビリーが滔滔と説明している途中なのに、瞳を輝かせたロドニーは顔を突き出して嬉しそうに叫んだ。

「遊びじゃないぞ、Mr.ロドニー・ワイズ。生物学及び天文学のレポートは必須だ。怠けると進級の単位が足らなくなるぞ」

 仏頂面の教授に諭されて途端に口を尖らせたロドニーだったが、ハッと思い直して隣に居るエドナを振り返った。

「でも、エドナはこんなにお腹が大きいんだぜ? キャンプなんて無理なんじゃないのか」

「Ms.エドナ・ワイズはその間聖システィーナ修道院で休養する予定だ。エドナ、残念だが、また今度子供と一緒に参加してくれ」

 済まなそうに顔を向けたビリーにエドナは穏やかな表情で頷いて「はい、ローグ教授」と微笑んだ。

「ちぇ、じゃあ俺も行かない」

 不機嫌顔のロドニーは一層口を尖らせたが、エドナは咎める視線でロドニーを横目で見た。

「ロドニー、進級の為の単位がまだ十以上残ってるのよ。来年卒業出来なくなってもいいの?」

 それを言われると返す言葉の無いロドニーは、まだ不満げながらも不承不承愛妻に頷き返した。


「テレサとメアリー=アンも行くのか?」

 エドナがようやく山盛りのサラダを食べ終わった皿に、もう一度野菜を載せようとしてエドナに手を叩かれたロドニーが右手を擦りながらビリーを振り返ると、ビリーも温かいポテトを頬張りながら「ああ」と頷いた。

「シェリダン教授は息子さんの診察の為に残られて病院に滞在される予定だが、他の教職員は家族と共に皆参加だ」

「すっげぇ、賑やかでいいね」

「うんうん。楽しみだよね」

 キッドとアキが嬉しそうに頷き合って、翌週の週末に行われるというキャンプが皆待ちきれなくて、子供達は期待の篭った顔を見合わせて誰もが笑顔だった。 

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