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Virgin☆Virgin  作者: N.ブラック
第九章 真冬のヴァージン狂詩曲
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第九章 第五話

 大人達に諭されたロドニーは父親になる自覚が芽生えたのか周囲を驚かせるほど劇的に変化した。

 それ迄は授業中は時折退屈そうな顔でボーッと外を見ていた事もあったが真剣な顔で教授に目を向けているし、これまで通り校長やビリーから空手や特殊部隊の基礎訓練を受けながらも、宿題を人に見せてくれと頼む事も無くなった。

 常にエドナに付き添って身を守ってはいたが以前の様な無愛想でギラギラとした感じは無く、他の子供達や教授達をも気遣っている様子は、一足飛びで大人の階段を登ったロドニーが、急に大人びて見えて他の子供達は逆に戸惑った。


 子供達の秘密の会合の場は天文クラブの部室と決まったようで、物事が良い方向へと向かっているのにも関わらず子供達は皆何処か浮かない顔で、舎監(ハウスマスター)の妻メリーサが作ったクッキーの入った紙袋を順々に回して摘みながら誰とも無くため息が零れた。

「最近のロドニーは木に登らなくなったよね」

「うん。遅刻だからって二階から飛び降りる事も無くなったしね」

 両手を頭の後ろで組んで背伸びをしながらキッドが呟くと、隣のアキもフゥと息をつきながら相槌を打った。

「でもまぁ、子供も産まれるんだからロドニーも大人にならなきゃだし、いい事なんじゃない?」

 回ってきたクッキーをポリポリと齧りながらサイが言ったが、妹のジェマが次に受け取った袋からごっそりと取り出して盛大に口に放り込んで一気に食べてから兄を振り返った。

「でも、ロドニーらしくないよね」

 子供達が感じているのは、その違和感だった。


 今までは無茶して突っ走りながらも皆を守ってきたロドニーが、分別のある大人らしい気遣いを見せるようになり何処か遠い存在になってしまったような気がしていたのだ。

「そりゃあそうだけどさ、でも何時かは俺達もみんな大人になる。何と無く成長して行く場合もあるんだろうけど、ロドニーみたいに劇的に変わる一線みたいな物も存在してるんじゃないかな」

 クッキーの袋の中を覗いてもうほんの僅かしか残っていないのを確認すると、ザックは自分では取らずにそのまま妹のアデラに差し出しながら言った。

「大人と子供の境界線って事?」

 そのアデラも残りの内の一つを摘んで、最後のクッキーを順番が最後のコリンに差し出した。

「そうだな。俺らもそれを越えていかなきゃならないんだ」

 ザックの言いたい事は何と無く分かったが、自分の大人になったイメージを思い描けずに皆黙り込んだ。


「ロドニーがらしくなく感じるのは、何もかも自分でやろうとして一杯一杯になってるからだよ、きっと」

 空の袋をグシャッと丸めて、コリンは器用に遠くのゴミ箱に投げ入れた。

「ナイスシュー、コリン」

 ティアの茶々に苦笑いで手を挙げたコリンは、そのまま場に居る子供達の顔をグルッと眺め渡した。

「でもさ、全部ロドニーが一人でやらなくてもいいわけでしょ? 島の再建なんて膨大な年月も人手も必要とする事なんだし、僕らがみんなで手分けすればロドニーの負担も減るんだし」

「僕ら?」

 訝しげなザックにコリンはニヤッと笑い掛けた。

「そうさ、僕も含めた『僕ら』だ」 



 島の子供達は其々が自分に向いている事を学んで島に帰りたいと願ってはいたが、元々イングランド生まれのコリンを巻き込むとは思っていなかっただけに、皆驚いた顔をコリンに向けた。

「ザックは行政や政治、経済を学んでるでしょ? だから僕は科学技術分野、サイが教育でアデラが食糧関係、キッドとアキが漁業、ってな感じで分担すればいいんじゃない?」

「でも、コリン。お父さんの跡を継がなくていいの?」

 心配そうなアデラの問いにコリンは首を竦めた。

「平気じゃない? 自分の道は自分で見付けろ。そしてその道には自分自身が責任を負え。というのが家の教育方針だから」

 コリンがしっかり者で且つサバサバとしている理由が察せられて、「ほー」とザックは薄く笑った。

「じゃあ、アタシはやっぱり海軍に入る」

 コリンの隣でティアがケタケタと笑った。

「国防並びに周辺海域に於ける海上保全事業関連を勉強して、海の安全はアタシが守るわ」

 海軍の娘ティアはそれがさも当然の様にクスクスと笑っていた。

「じゃ、あたしも卒業したら国立中央病院に入ろっと。あそこには優秀な看護師が多いらしいし」

 床に届かない足をブンブン振りながらジェマは得意げに笑った。


 それまで何と無くはそう思ってきた島の子供達の間に、進むべき自分の道筋が見えてきた微かな興奮が漂って、誰もが隣の子を肘で小突きながら小さく笑っていた。

「それをロドニーに教えてやればいいんだ。皆で島に帰ろうって」

 コリンの言葉に一人、また一人と顔を上げて頷いて、自分は島に帰る事が出来ないビアンカは皆に託す想いを瞳に滲ませて、満足げに静かに微笑んでいた。





 翌週の金曜日、国立中央病院の管理栄養士を連れてW校を訪れたジャスティンは、栄養士が校内の女性達を集めて栄養指導を行っている間、一人所在なげに校内の医務室で過去の記録台帳をペラペラと捲っていたが、背後の扉の開いた気配に振り返ると其処には予想していたビアンカでは無く、ロドニーが険しい顔で立っていた。

「どうしたんだ? 怪我でもしたか?」

 先ずは傷病の心配が口に出るようになったジャスティン自身にも医師としての成長が見て取れたが、返事もせず無愛想な顔のままでロドニーはジャスティンの目の前の椅子にどっかと腰を下ろした。

「俺さ、来年卒業するんだけど、卒業したら軍に入りたいんだ」

 唐突な申し出にジャスティンは目を丸くした。


 ロドニーは来年秋に此処に併設される予定のカレッジコースには進まずに、卒業したらどうしても陸軍に入りたいんだと至極真面目な顔でジャスティンに告げた。

「俺さ、やっぱ体を動かす事の方が得意で、今は一所懸命勉強はしてるけど頭の良さはザック達には敵わないし、俺に出来るのは体を鍛えて、鍛えて、強くなって皆を守る事だけなんだ」

「そりゃあ、それはそうかもしれないが」

 ロドニーにAASでの基礎訓練を教授している親友ビリーは常々「アイツは絶対いい兵士になるぞ」と言っていたし、建物の二階に上り強行突入して人質を奪還するという離れ業をやってのけているコイツならばそれも可能なんだろうなとジャスティンは思ったが、でも島へ帰るという夢の事を思い出して少し眉を寄せた。

「お前、島に帰らないのか?」

「いいや、何時かは帰るさ、みんなで。みんなと一緒に」

 顔を上げたロドニーは晴れ晴れと笑っていて、一瞬ジャスティンの脳裏にW校の子供達が明るい笑顔でBVIの緑燃えるあの古びた施設で笑っている姿が浮かんで、ジャスティンも自然と笑みが零れて笑顔になっていた。

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