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Virgin☆Virgin  作者: N.ブラック
第九章 真冬のヴァージン狂詩曲
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第九章 第四話

 学校側の許可を得たロドニーは、天にも昇る心地の上機嫌で始終ニヤニヤと笑っていたが、一方ではエドナを守る強い決意に拍車が掛かったらしく、移動の際には常にぴったりと付き添って駆け回る男子生徒を近寄らせないよう険しい顔で追い払っていたし、何処で聞き齧って来たのか「妊婦にはカルシウムってのが必要なんだ」とエドナの三度三度の食事には必ず新鮮なミルクを付けろと要求し、寄宿舎( ハウス)の食事を担当する舎監(ハウスマスター)の妻達を苦笑させていた。

 病院の管理栄養士や、栄養学でもプロ並みの『アルカディア』の家事担当リンダの知恵も借りて、学校内でのエドナのバックアップ体制が次第に整えられていった。



 だが、彼等二人にはもう一箇所、許可を取らねばならない場所があった。現在の彼等の親権者代わりである聖システィーナ修道院だ。

 しかし、厳格だが穏和な尼僧マクニール院長代理(シスター・マクニール)は二人の結婚に反対する気は無さそうだったので、翌週の週末修道院に帰って報告する事になったロドニーは暢気に構えていた。

「マクニール先生、俺ら赤ちゃんが出来たんで来月には結婚しようかと思うんだ」

 出迎えたマクール尼僧に、ケラケラと笑いながら気軽に報告したロドニーの顔を、柔和な笑顔を崩さずマクニール尼僧はじっと見上げていたが、尼僧がずっと黙ったままなのに気付いたロドニーは、気まずそうにボリボリと頭を掻いた。

「二人とも後で礼拝堂までいらっしゃい」

 直ぐに笑って許してくれると思っていたロドニーは拍子抜けして、「はぁ」とエドナと顔を見合わせた。




 昼の礼拝の後、院内の小さな礼拝堂で二人並んで座っている前に静かに歩み寄ったマクニール尼僧はまず祭壇で祈りを捧げ、それに合わせてロドニーとエドナの二人も目を閉じて祈りを捧げた。

「私は以前、二人が共に生涯を歩む準備が整ったら私に告げなさいと言いました」

 顔を上げたマクニール尼僧は、そのまま空を見上げじっとマリア像を見ていた。

「しかし、その前に子供が授かってしまった、そうですね?」

 問われたロドニーはどう返せばいいのか戸惑って隣のエドナの顔を盗み見た。

「子を産み育てるという事は、己の命をも削って成し遂げなければならないのだという事を、貴方がたは学びや日々の暮らしの中で己に強く教え込まねばなりませんでした」

 そうは言われても学校で其処まで教える教科は無かったしと困惑の交じった瞳を泳がせているロドニーをマクニール尼僧はゆっくりと振り返った。

「それには心の成長が必要だ、という事です。ロドニー」

 老齢の尼僧の表情は穏やかだったが、何時も笑みの浮かんでいる瞳には今は険しさと厳しさが浮かんでいた。




「僅か数年前まで、人類に子が産まれないという危機が現実として存在していました。それが人類の破滅を意味していたのは二人とも良く分かっているでしょう」

「はい、マクニール先生」

 ようやくエドナもロドニーも返事をして頷いた。

「子を産み育て、それを財として人が人を支え合って生きていく、これからの世界に求められているのはその一点に他なりません」

 マクニール尼僧は祭壇を下りて二人の元へ静かに歩み寄った。

「ロドニー、エドナ。共にエドナのお腹に手を当てて御覧なさい」

 ロドニーは困惑してビクッと肩を小さく震わせたが、二人共言われた通りにまだ膨らみの無いエドナのお腹に手を当てた。

「命の存在が分かりますか?」

 小さな声で語り掛けられているのに、礼拝堂中に響いている様にも感じる尼僧の低い静かな声が頭の中で反響して、温もりを感じる掌が熱を帯びて真白の光に包まれているのを、ロドニーもエドナも呆然と口を開けて見下ろしていた。


「貴方がたは、互いに助け合って過酷な島を生き抜いてきました。そして此処英国では多くの人々に助けられて生きてきました。これからは貴方がたがその小さな命を守るのです。これまで貴方がたが小さな妹や弟達を守ってきたように、新しい世界を作る命を、己の命を賭して守るのです。出来ますね? 二人とも」

「はい、マクニール先生。俺、俺絶対守ります。その為には、俺はどんな高い木にだって登ってみせます」


 ロドニーらしい例えにマクニール尼僧が小さくクスッと笑って、もう母親の顔付きで聖母の笑みで微笑んでいるエドナには、自分のお腹の中の赤ちゃんが笑っているような気がしていた。

「はい、マクニール先生」

 微笑んで顔を上げたエドナに、同じ笑顔を浮かべているマリア像が乳白色に輝く柔らかい慈愛の光を静かに投げ掛けていた。

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