天使のおまじない
浜田は一人、誰もいない海辺の小道を散歩していた。
彼は30歳。妻子を持つサラリーマンだ。
海に面した空は薄くオレンジがかっていて、彼はそれをゆっくりと眺めながら歩いていた。
そのため、歩道の真ん中に置かれた何かに気づかず、それに躓いてしまった。
「いてて...何だこりゃ?」
拾い上げてみると壺だった。変な模様が施されている。
「全く酷いもんだ。ぶっ壊してやる。」
浜田はそう独り言を言い、壺に手をかけた。
その時、いきなり壺から煙が噴き出すと、中から何かが飛び出した。
「わわわっ!」
見ると、そこに子供が立っている。子供は背伸びをしながら言った。
「ふああ、よく寝た。あれ?ここはどこだ?」
そして子供はこちらに気づくと驚いた顔をした。
「あれれ、なんでこんなところに人間がいるんだろう?」
何を言っているのだろう。よく見ると、その子供の上には光る輪が浮いていて、白い着物をまとい、
背中には羽が生えている。
「もしかして、天使か?いやいやまさかな...」
寝ぼけた様子の天使は答えた。
「何を言っているんだ、僕は正真正銘の天使だぞ!いったいここはどこだ?」
「ここは○×市▼区だが...?」
「え?え?...あ、本当だ!やばい、人間に見られちゃった、どうしよう...」
どうやら本物の天使のようだ。
「今日は天気がいいから天使のベッド(おそらく壺のことだろう)で寝ていたら、
誤って地上に落ちてしまったんです。」
天使はそう言うと続けた。
「天使の姿を見られたことが神様に知られたら大変です。お願いですから私のことは忘れてください。」
浜田はここで天使に言い寄った。
「なんだい。いきなり出てきて忘れてくれなんて。ちょっと虫がよくないか?なんなら今ここでその神に報告してやってもいいんだぜ?」
もちろんどうやって報告するのか知ったこっちゃないが、その一言で天使は更に慌てた。
「や、やめてください!!わ、わかりました、あなたの言うことをなんでも一つ、叶えさせてあげますから」
浜田はにやりとした。その言葉を待っていたのだ。
「いいか、俺を金持ちにしろ。俺の家族が一生楽して暮らせるお金をよこしな。」
「うーん、仕方ない、わかりました。」
しょげた天使は浜田に向かって呪文のようなものを唱えた。
「何だそれは?」
「魔法の言葉です。これで数日以内に家族は大金を手にできるはずです。」
「まさかいわく付きのお金じゃあるまいな。」
一応念を押した。
「まさか。では、さようなら。約束は守ってくださいね」
「ああ、守るよ。」
天使はきらきら光りながら、消えた。
浜田はしばらくしてまた歩き始めた。
今は特に何も起こらない。数日以内と言っていたからゆっくり待つとしよう。
どのような方法でお金が手に入るのだろう。
この前買った宝くじが当たるのかな。
社長にいきなり昇進するのかな。
そう考えるとわくわくしてきた。
そのためか、後ろから来たダンプカーに気づくのが少し遅れた。
数日後、浜田の家に電話がかかった。
「もしもし、○●保険会社のものですが。ええ、この度は...はい、ご主人の死亡保険についてです...」
特にありません。
楽しんでくれたら嬉しいです。