始まり
「さ、行くわよ沙祐里」
「はい、お姉様!」
元気よく返事をすれば、お姉様は優しく微笑んでくださる。
最初は慣れなかったヒールやドレスも、お姉様がとても優しく着方や歩き方を教えてくれたために苦にならなくなってきた。
まあ、毎日のように着ていれば慣れていくだろうが。
「毎日毎日、ごめんね沙祐里。
窮屈なドレスの中に押し込めちゃって」
申し訳なさそうに仰るお姉様。前を歩いていらっしゃるから、残念ながらそのお顔を見ることは叶わない。
「そんなことありませんよ、お姉様。
だって私はこのドレスが好きですもの。お姉様の選んでくださったドレス、私のサイズにもぴったりなんですよ」
お姉様はこの国を治める女王様だ。
そう、私の手が届かない所にいるはずの方。けれど、私がお姉様と呼べるのは――「ありがとう沙祐里」
「いえいえお姉様」
そこで考えることを一度中止し、お姉様に微笑んで少し小走りしてドアを開く。
「お姉様、今日も頑張ってくださいませ!」
ニッコリと笑みを浮かべながら、お姉様をお送りする。
そう、毎日行われているパーティに。
お姉様はドアの向こうに見える人を目に映しながら、ゆっくりと歩いて出て行った。
それをドアの陰から見送り、全員の視線がお姉様に集中したところで、音をたてないようにゆっくりと閉める。
そして私は、あまり目立たないところから会場へ入る。
「今日も皆様ご集まりいただきありがとうございます」
微笑みを浮かべるお姉様は、気品溢れ――まさに女王様と呼ぶに相応しい。
私は、それを遠くから見るだけで十分なのだ。
「こんばんは御嬢さん」
そう、この時声が掛からなければ――。