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はじまりの町 5

(半時)


はんとき。約一時間




荷物が届くのを待って、私はその日のうちにギルドへと文句を言いに行った。


さっきも応対してくれた受付のおじさんに用向きを告げると、おじさんは直ぐに調べるよう手配をしてくれた。


普通なら小娘がなんか文句つけてきたぞってな感じで、ぐだぐだとしたやり取りの押し問答で時間が潰れるものだが、わざわざ支部長さんが出て来て、私の応対をしていたのを知っているからか、おじさんは非常に腰が軽かった。


偉い人にツテがあると、こういう時に便利でいいなあ。それで、半時も待たずに事情は判明した。早い早い。


待っているあいだは、これからの段取りを考えたり、ギルドの商品の買い付け一覧表に目を通して実際在庫である分は現物を見せてもらったりとかしていたのだが、長々と待たされると思っていたのでちょっとびっくりした。


それで結論を言うとギルド側の手違いだった。支部長さんも出て来て平謝りされてしまった。


そもそも私の祖母カテジナがギルドと結んだのは、祖母所有の店舗兼住居の維持と管理に関する契約だった。


内容は町を離れているあいだギルドが建物を管理下に置き、定期的に確認をし維持をするというもの。


祖母は、契約に基づき相応の対価を支払っており、これは間違いなくギルド側の記録に記載されていた。


それに対してギルドも契約を履行し、しばらくは正しく管理されていた。


それが何年か前に台帳を整理した際のミスから、祖母の家が維持管理対象リストから洩れ、維持管理の担当者の異動の時期も重なって、誰も気付かないまま今に至ったということらしい。


つまり元の契約通りに金だけは取って、最低限の管理しかされることはなく放置していたわけだ。


最悪だ。今更だが、きちんとギルドが管理していたなら、修繕費用はあんなにかからなかったんじゃないかと思う。もしかして。


ギルドのせいで増えた借金をギルドへ返済するために、これから私は馬車馬のように働くのか。


…理不尽で泣きそうです。謝られたって、許しません。


まあ、私が捩じこんだ結果、契約が中途から履行されていないということで、その差額分は返金してくれることになった。当たり前だが。


よかったね、ばーちゃん。家は傷んだけど、お金は幾らか戻るよ。私の借金がどうなるかは、わからないけど。


ふと事情を知って怒り狂ったばーちゃんが、ギルドに捩じこむ姿が目に浮かんだ。


うちの担当地区の支部長の頭皮が心配だ。あのおじさん、ただでさえ毛根が危ういのに。


まさかこっちまで乗り込んでは来ないだろうけど、ばーちゃんのことだから向こうのギルドの遠話機越しに支部長さんを絞り上げるくらいはするだろうね。


「お金は祖母カテジナ名義のギルド口座に払い込んでおいてください」


「いえ、対象資産はあなたに譲渡されたので、ギルドの返済対象はあなたになります」


なるほど。家が祖母から私に譲渡されたため、ギルド側の契約者への返金の義務は私に移行したんだね。


「それでしたら私の口座に入金後、あらためて祖母の口座へ移しておいてください」


すぐ私の口座から無くなるお金なんて興味はない。そっちが悪いんだからやっといてね。


さて慰謝料代わりに掃除人員を借りて帰るかと考えていたら、やはり支部長さんが切羽詰まった顔で話し掛けてきた。


「サララ。カテジナには黙っていてくれないか」


「無理です」


私が即答すると支部長さんの眉毛が情けなく下がった。


「駄目かね」


そういうこと言いますか? 孫もいるような年の大人が? お金は祖母には黙って、こっそり受け取っておけと?


いやいや。私が払ったお金じゃないんだから、祖母に返すのは当たり前でしょう。


第一黙って私の懐にしまうには金額が大きすぎる。最初に返金総額の載った書面を見て、ちょっとびっくりしましたよ。軽く一財産だったから。


年間費用×年数の結果なのだから順当なものだけれど、金額の大小はこの場合には関係はない。


何度も言うが、人の金に興味はありません。身内でも財布は別。


いくら困ってもそれはいかんだろう。


うちのばーちゃんてば怖いから、支部長さんの気持ちも分からないではないけれど、却下です。潔く叱られてくださいね。


「駄目ですよ。当然です」


支部長さんに泣きつかれても、これは譲れません。これから独り立ちしようという若者をそそのかしてどうするんですか。


というよりばーちゃんが恐いので、それは無理。


「魔女は嘘を嫌います。あとで事情がわかったら、みんな支部長さんが被ってくれるんですね?」


嘘ではなく、黙っているだけだというのは詭弁だ。魔女は真理を体現するべき者だというのが祖母の持論だ。私も同意する。


嘘がすべて悪いわけではないけれど、この場合は違う。


私をねじ曲げようとする者を祖母は赦さないだろう。


本業は商人だけれども、私の根本は魔女だ。正直なところ借金も背負ってることだし、お金は欲しい。


しかしこんなふうに入ったお金なんて所詮は泡銭だ。悪銭身につかずと昔の人も言っている。


「見た目だけでなく、そういう頑固なところもカテジナそっくりだ…」


あきらめてつぶやいた支部長さんは遠い目をしていた。


…祖母と支部長さんのあいだには、まるで何らかの問題があったような口ぶりだ。まったく興味ありませんけどね。




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