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冷やかし大歓迎

「よお。暇そうだな」


「いきなりなんですか」


店番しながら編み物をしていたら、急にかけられた言葉がこれだった。


たしかに、今は暇です。時間的に探索者は、ダンジョンでお仕事をしている時間ですからね。


こんな昼日中に、町中をふらふらしている探索者のほうが、おかしいでしょう。あなた方みたいに。


ザリガニのお兄さんが、連れの大きいお兄さんとご来店です。いらっしゃいませ。


でもこの人たちは、ダンジョン探索のみで生きているわけじゃないようだ。


彼らの今日の服装は、開店前日に着ていた探索者仕様ではなく、農民がよく着る野良着だった。


たぶん周辺の農村の住人なのだろう。


「今日は、市場のほうのお仕事でしたか。お兄さん」


「ああ、買い物にちょっと抜けてきた」


探索者といっても探索だけに専念する人もいれば、この人たちのように、兼業している場合もある。


「この前の傷薬が欲しいんだ」


「ありがとうございます。半オンスで、60スーになります」


「ああ、入れ物なかったわ」


「じゃあ、ビン入りですね。1ランです」


「仕方ないな」


お兄さんは渋々、1ラン銀貨を出してきた。


うかつですね。ビンや壺などの容器は、洗って何度でも再使用するのが当たり前でしょう。


量り売りが当たり前のものをいちいち入れ物ごと買っていく人って、お貴族様みたいに、一度着たものや使ったものを捨ててるんだろうか。


なに考えているんだろうね。いくら稼いだって、ムダ金使ってたら意味ないよ。


「そういえば、評判になってるよ。その髪」


「でしょうね。買い物客より、冷やかしが多いです」


愛し子なんて滅多にいないから、気になるんでしょうね。噂を聞いた人が人を呼び、初日に暇を持て余していたのが嘘だったように、人が来ます。


「探索者ってのはやくざな商売で、縁起をかつぐからな」


ええ、御守りでも置いたら、よく売れそうですよ。


危険に飛び込んでいくんだから、それは分かります。だからといって、御利益を求められても困りますけどね。しょせん自力で頑張るしかないんですから。


そのうち落ち着くでしょうから、今のうちに固定客を掴みたいと思います。


「ほんとにピンクなんだな。びっくりしたよ」


「滅多にいませんからね」


いや、私の身内にしかいませんよ。多分。


「色なしの愛し子なら、ここの神殿にもいるらしいけどな」


ああ、愛し子は精霊の恩寵の証しですから、神殿の飾りにはうってつけですもの。お布施集めに、さぞかし重宝がられているでしょうね。


そういえば、神殿では売ってるなー。御守り。


その色なしの愛し子が売り子だったりしてね。





虫避けを渡したお客様は、閉店間際に、ご機嫌で現れました。


「アレ効いたわ。ありがとな」


「効きましたか」


ただの虫避けが、魔物に。

…魔物って、いったいなんなんだろう。


「遠巻きにはしていたが、寄っては来なかったな」


遠巻きってことは、


「例の芋虫って、群れで現れるんですか」


「ああ、たまにな。しかし気持ち悪いぞー。鳥肌たったな、アレは」


あのー、魔物の群れに遭遇して、恐怖や危機感より先に感じるのが嫌悪感って…、おかしくないですか?


探索者は命知らずばかりって聞きますが、恐怖心がないと無茶苦茶やらかして、自滅しないですかね?


「…大変でしたね」


としか言い様がないです。やっぱり堅気の人とは、感覚が違うんでしょうか。


でもそういうことなら、虫避けは必要ですね。わかりました。在庫を切らさないようにしておきましょう。


「他にも虫に似た魔物って、いるんですか?」


「ああ、他にもムカデやら蜘蛛やらナメクジやらな。見たことあるのは、芋虫と団子虫とナメクジだけだが」


うーん。その取り合わせって、菜園の害虫シリーズみたいでおかしい。


団子虫やワラジ虫も無害そうにみえて、油断すると夜中に苗によじ登って、新芽や実を食べちゃうんだよね。


ナメクジなんて、葉を食べてる音がするんだよ。夜中だと周りが静かだから、ほんとにショリショリと聞こえるの。


ナメクジは葉物の天敵ですよ。うっかり素手で触ったら気持ち悪いし。


「ナメクジは嫌かも」


「虫の姿の魔物は大概おとなしいが、ナメクジは俺も嫌だな。体液で刃物がぬるぬる滑って、切りつけにくいんだ」


私が眉根を寄せるとお客様が笑った。そういう苦手ですか。でもたしかに、刃物は効きにくそう。


「しかし虫系は倒しやすいし、食材として買い取り額もいいから、探索者には人気なんだぞ」


「まさか、ナメクジも食材に?」


「いや、ナメクジは粘液採取だな。食材は芋虫と団子虫だ」


ああ、魔法使いが欲しがる魔力を高める素材ってやつですね。魔力のためなら、虫も食べちゃうんだ。


虫を食べるなんて、悪食の帝国人くらいだと思ってましたよ。


「しかし、蜘蛛は食材だ」


「え」


やだ、気持ち悪い。


「俺は食いたくないが、けっこう肉が美味いらしい」


魔力の籠もった強靭な糸と、軽くて堅い脚が素材なのは知ってましたが、まさかの食べられる情報です。聞きたくなかったー。





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