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虫避け

(一時)

いっとき。約二時間


(大芋虫)

犬ほどの大きさの魔物でダンジョン内の掃除屋。屍肉食らい。

性質はおとなしく、自分から襲うことは滅多にないらしい。

紫色の体色で、目玉のような模様をもつという。



開店する前に、たっぷりの水に一晩つけておいた赤えんどう豆の鍋を、つけた水ごと台所から、作業場に運んだ。


作業場の焜炉こんろを使えば、台所へ行かなくても開店中に、煮炊きが出来るから便利だ。


冬には暖もとれるし、あると非常に助かる。


白と水色のモザイク模様のタイル張りと華奢な猫脚が洒落たこの焜炉は、イルクさんに案内してもらった時に覗いた店で見つけたものだ。


実用的でありながら女性的な繊細さが美しい焜炉に一目惚れした私は、その場で店主と交渉して値切った。


どこぞの氏族の嫁入り道具だったとかで渋られたが、猫脚の一部が欠けてぐらついていることと、煙突が別の焜炉のもので、繋ぎめに隙間があり合っていないのを理由に、買い叩いてきた。


それだって、煙突は鍛冶屋に持ち込んで直してもらい、猫脚は拾ってきた石を噛ませて、ぐらつきを解決したが。


若干イルクさんが呆れていたようだけど、気にしません。





「なあ、虫避けあるか」

「虫避けですか?」


開店初日に気付け薬を買っていったお客様が、再びご来店です。いらっしゃいませ。


ご注文は、虫避けだった。もちろんありますが、虫の出る季節には、まだ少し早いのでは?


「ダンジョンに出るんだ。デカイ芋虫が」


ほう、それは気持ち悪い。つまり虫の形をした魔物ですか。


うーん。魔物に普通の虫避けって、効くのかな?


殺虫だと大きさ的にかなりの薬剤が必要になるだろうけど、単に忌避剤なら問題ない…んだろうか。


でも素材となる魔物を求めて、ダンジョンに入って行くのに。肝心の獲物を避けたいなんて、その芋虫って、そんなに厄介な魔物なのかな?


「ちょっと待ってくださいね」


うーん。ダンジョン内で使う忌避剤ね。移動中に使うんだから、散布するものじゃなくて持ち歩けるものよね。


煙や匂いで虫を寄せ付けないようにするものは幾つかあるので、それらの虫除けの香と薬剤をごそごそと探しながら訊ねた。


「ちなみに虫の大きさは?」


「犬くらいだな。こっちから仕掛けなきゃおとなしい魔物なんだが。俺、虫が駄目なんだよ」


あらら。恥ずかしそうにしてますけど、馬鹿にしたりしませんよ。


犬並みの芋虫なんて、私だって嫌です。


「また色が嫌なんだ。紫で目玉みたいな気色悪い柄が身体中についてるんだぞ」


それは気持ち悪い。思い出すのも嫌なのか、お客様も顔を歪めている。


「虫除けの香はありますけど、魔物に効くかは試したことがないんですよね」


鶏卵ほどの大きさの練り香を取り出して見せたが、果たして売っていいものだろうか。


虫の魔物がいるなんて、今日初めて知りましたからねえ。


「やっぱり、これが一番いいかな。芋虫、毛虫、油虫の類いは寄せ付けませんし、蚊や(ブヨ)とかの刺す虫にも有効です。ただ、蜂には効かないんですよね」


「問題ない。肝心の芋虫に効けばいいから」


「それは問題ないですけれど、あくまでも虫の場合ですよ」


魔物相手に、保証は出来ませんね。


「見た目はまんま虫だから、効くんじゃねえかな」


うーん。いい加減だなあ。それでいいの?


「ともかく、それ貰うわ。いくらだ?」


「使った結果を教えてくれるなら、お代はいただきませんよ。腰から下げられる携帯容器も、オマケに付けちゃいます」


効き目もわからないものを売り物には出来ません。そもそもそれって、野良仕事用なんですよ。私も夏場は採取に行くときに使っています。


「お、いいのか」


「ええ。香の効き目は一時ですからね」


「短いな」


「それ以上大きくしたら、容器に入らないので。それに邪魔になるでしょう」


「たしかに邪魔になるな。ま、今回は試しってことで、いいか」


「いってらっしゃい」


報告をお待ちしております。




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