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尋問ふたたび

市場で新しいザルと麻袋を買った帰り。果たして相棒は精霊か猫かと考えながら通りがかった空地に、ヤブガラシが生えているのを見つけた。


春を過ぎると他の草を巻き込んで、地面一面を覆ってしまう困った草だが、今はまだ土から出たばかりの新芽の状態だった。


やったぁ。これなら茎も柔らかいし、丸ごと食べられる。つまり駆除をするなら今なのだが、薬の材料にする気満々の私は放置だ。そもそも私の土地じゃないしね。


ためしに蔓の先についた若い葉を食べてみた。


うん。ヤブガラシだ。少し粘りけがあって、アク抜きをしていないから舌にピリッとした刺激がくる。


しかし珍しいな。ヤブガラシは、もっと暑いところに生えているものなのにね。


まあいいや。さっそく買ったばかりのザルと麻袋が役に立ちますよ。では回収回収。


ヤブガラシの若葉をブチブチと摘み取りながら、他にも無いかと空地をぐるりと見回せば、タンポポやナズナやハコベなど食べ頃の食草が、ちらほらと生えている。やはり春はいいなあ。


そうして嬉々として点在するヤブガラシやタンポポの若葉やらを採取していたらば、先日職務質問をしてきた騎士さまに遭遇してしまった。今日は初めて見る騎士さまも一緒にいる。


「また草を採っているのか」


ちゃんと頭を下げて挨拶をしたのに、騎士さまにまた胡乱そうな目で見られてしまった。失礼な。

だから草じゃなくて薬草ですってば。


今日は食材目的ですが、ヤブガラシもタンポポもナズナにも、立派な薬効があるんです。これだけはびこっていたら雑草としか思えないだろうし、ありがたみも感じないでしょうがね。


「そうおっしゃられますが、使い道は多いんですよ。よくある草ですけれど」


あなたも知らず知らずのうちに、きっとお世話になっているはず。雑草だなんてとんでもないです。


原形を留めてないから分からないのかも知れませんが、とくにタンポポの若葉はサラダでよく食べられていますよ。


騎士さまともなると、自分で料理を作ったりはしないでしょうから、ご存知ないのでしょうが、市場に行けば、普通に売ってますもん。



「この草なら宿舎の庭にもあるが、こんなものが薬になるものなのか?」


連れの年長のほうの騎士さまが、ヤブガラシの新芽を手に取って、しきりに首を傾げている。


おや、騎士さまがお住まいのお庭にですか。早いうちに駆除しないとお庭がヤブガラシで大変なことになりますよ。いや、宿舎なら、庭の手入れをする下男もいるだろうから、大丈夫か。


「なります。この辺りの植生では珍しいですが、よく知られた薬草です」


ええ。ちゃんと薬学書にも載っていますとも。虫刺され薬や解毒剤になるんですよ。


今回の私の目的は薬としての利用じゃなくて、食べることですがね。


しかし本来はこの辺りの植生にないはずと思ったら、案外騎士さまたちが荷物と一緒に南から種を運んできたのかも知れませんね。


うーん。これって薮を枯らすほど増えて困るからヤブガラシって呼ばれるくらいだから、駆除するのが大変なくらいにワサワサ増える草なんですけど。下手したら数年後には、この町中がヤブガラシだらけになるかも知れませんよ。


いや。この辺りの気候はそんなに暑くはならないから、大丈夫なのかな? まあ、どのみち有り難く利用させていただきますね。


ヤブガラシは茎が少し辛いけど、私はそれも美味しいと思う。シャルペロも好きで喜んで食べてくれるし、帰ったらすぐに灰汁抜きしないとね。


油で炒めるか、スープの具材にするか。どうしようかなー。


ヤブガラシを見ながらついぼんやり考えていたら、年長のほうの騎士さまが話しかけてきた。


「あー、たしか薬屋とか。私はコートニー=ミーガン。この町を預かる騎士隊の副隊長だ」


薬屋……。ああ。一応薬屋になるのか、私って。


職業商人の魔女が営む薬屋かあ。なんだか怪しい響きだな。


「はい。私はサララと申します」


私は年長の方の騎士さまに向かって、頭を下げた。


副隊長だという茶色の長髪を後ろで結わえたちょっとおじさんの騎士さまは、たぶん三十をいくつか過ぎたくらい。私の母より、少し若いくらいだろうか。


こんな小娘にもきちんと名乗ってくれるあたりが、さすがは副隊長だな。若い騎士さまよりも人間が出来ている。なかなかの男前だし。


「クリオン=エヴァンスだ」


私の考えていたことが分かったかのように、若い騎士さまが不機嫌そうに名乗った。あらら、顔に出ていたかしらね。


若いほうの騎士さまは、たぶん兄と同じくらいで二十歳前後かな。前も思ったが、騎士にしては少し線が細いように見えた。


古着屋で会った騎士さまは副隊長さまより縦も横も大きかったが、この人は上背は副隊長さまとそんなに変わらないのに、横幅が小さい。というか細い。


だからだろうか。横幅がないぶん縦長に感じられて、どこか物足りない気がする。



とくにこの人が華奢というわけではないのだけど、騎士というとやたら大きくてごつい印象があるので、そう思うのだろうか。まあ、若い女性には持てはやされそうではあるけれど。


金髪碧眼だし、女顔だし。美青年と言っても構わないのではないだろうか。どうでもいいけど。


しかしせっかく名乗ってもらったのに悪いが、もう名前を忘れてしまった。ちょっとぼんやりしてたから。


ちょっとおじさんの男前の副隊長は、コートニー=ミーガン。あれ?ミーハンだったかな。


それから平のほうの、細い無愛想な騎士さまは……。クレオ? いや、クリオ?


姓はエガンス。いや、ヴァンガスだったっけ?


もう一度聞くわけにもいかないし、面倒だ。引っくるめて《騎士さま》でいいか。


どうせ名を呼ぶ機会なんてあるわけがわけないし、平民が士族の名を呼ぶなんて、無礼千万な事態になんて遭いたくもないし。


それにしても何故か転居してから、やたら騎士さまと縁がある。出来ればこれきりにしたいところだわ。




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