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ひらひらとキラキラ

私が身につけているシャツとスカートは平民女性の一般的な服装だ。あえて特筆するとしたら、スカート丈が短いことだろうか。


童女の頃ならばともかく、成人に近づくとスカートは長くするものだから、ふくらはぎまでの丈までしかないとなるとかなり短い。ただ童形と違い、素足を露出したりはせず、脚絆(きゃはん)を巻きつけてはいるが。


短いスカートに脚絆姿。これは決して特異なものではなく、一般的に農業などの労働に従事する女性がする服装だ。


農村部では珍しくもないが、町中でも市場に行くと露天商の農家のおばさんが身につけているのを見かける。


この短いスカートは動きやすく、脚絆も巻いていると足が疲れにくい利点があるのだが、私がすると童形にしか見えないのが難点だ。


先だってイルクさんと行った小間物屋の姿見で、どうにも子供っぽい自分の見目を確認して愕然としてしまった。


これは背が低くく、体型も肉付きが薄くて貧弱なのが原因だ。せめて胸や腰に、もう少し量感があれば、見映えしたのだが……こればかりは将来に期待するしかない。


とにかく実生活には便利なこの姿だが、店主が見るからに子供では体裁が悪かろう。これからは町中でも長いスカートを履いた方がいい。


……この際、子供が無理に大人の身なりをしているように見えないか、ということは考えないことにする。


そういう訳で、買い物をしながら数人の女性に聞き、遠いが一番評判がよかった古着屋に向かった。





この町は自然に発展したわけでないため、整然と区分けがされている。


私が店を構える町の中心部は、ダンジョン探索関連の施設や業種の商店が《魔封じの塔》を中心にぐるりと集まっている探索者のための区画だが、この辺りは町の住人の居住区に隣接した生活区画になる。


市場も食料品や日用品を扱う小売り店が軒を並べているせいか、歩いている人も一般の住人ばかりで、探索者の姿はほとんど見かけない。


まあ探索者は、宿と塔周辺をウロウロとするくらいなので、こちらにあまり用はないのだろう。


イルクさんに案内してもらった市場周辺を外れた横丁に、目当ての古着屋はあった。


その店は店主が女性で、女物が充実しているという。なんでも、ただ古着を手直しして並べているだけでなく、新たに仕立て直して販売しているらしい。


主は若いが腕のいいお針子でもあるという、そのこじんまりとした店の扉を開けたら……そこは混沌たる別世界だった。


私は店に入った途端に入ったことを後悔するという経験を、再びしてしまった。





「うわあ……」


そこは私が知っている古着屋とは、あまりに違っていた。違いすぎて異空間としか思えなかった。


一言で言うと色彩の洪水。あまりにも多彩過ぎて、目に痛い。


欲しかったシャツとスカートなどの庶民の普段着は一見しただけでは見当たらず、ローブのような晴れ着やら服飾小物、ビーズや刺繍に凝ったいつ着るのか疑問に思うような派手なもの、さらには時代がかった芝居の舞台衣裳染みたものばかりが目に入る。


店内に吊された様々な衣装はすべて女性物だったが、いかにも綺羅綺羅しくて私の嗜好とは掛け離れており、欲しいものはない。


女の子がみんなキラキラひらひらとしたものを好きなわけじゃない。


私の母はこういうのが好きだが、私はもっとあっさりと簡素なものが好きなのだ。


たとえ晴れ着でも刺繍は少なめ、ビーズも控えめでお願いします。色も地味だと言うことはありません。


……なんというか、ここにずっといると頭が痛くなりそうだ。そうそうに退散したいです。


この店は遊里区画に隣接しているから、花柳界のお姉さん方が得意客なのかもしれない。そう思えば華やかな衣装ばかりなのも納得がいく。


しかしそういった派手派手しいものには用はない。私が欲しいのは普通のスカートだ。


落ち着いた店の外観に期待が膨らんでいただけに、裏切られたような気持ちになって、げんなりとしてしまった。


これはまた外したなと思ったものの、すぐに帰るのも面倒だ。気は進まなかったが、ざっと店内を見てまわることにした。


そうして見回すと、陳列台の隅に地味な一角を見つけた。


オアシスを見つけたような気分でほっとして近づけば、そこは普段着るような普通の服が畳まれて並んでいた。その手前には、『どれでも50スー』との札がついた大きなカゴが置かれている。


覗いてみるとカゴの中には、地味だったり逆に派手過ぎたりとあまり一般的でない服ばかりが入っていた。


値段が安いこともあり、期待しないでいたが、手に取って見て驚いた。


どうせゴワゴワとした麻や毛羽立った毛織だと思ったらとんでもない。使われている生地はどれも上等の亜麻布や、さほど傷んでいない毛織物だったのだ。


これなら50スーは、決して高くない。


私はカゴを物色して、毛織のくすんだ赤いスカートを見つけ出した。これなら生地が薄いので、これから暑くなる季節でも大丈夫だろう


スカートを手に取って当ててみると、ちょうど足首まで隠れるくらいの長さで、私には丁度いい。


私に丁度いい長さということは、一般的には短いということなので、ちょっと複雑な気分だが、売れ残っていてよかった。


多少ウエストが大きいようだが、これくらい直せばいい。そう思っていると店員に声をかけられた。


「気に入ったのは、あったかしら」


たぶん私より一つか二つ上だろう、愛嬌がこぼれるようなかわいらしい女の子だ。


「そこのはみんな半銀貨一枚よ。手直しするなら、さらに30スーね」


合わせて80スーか。手直し分を入れても新しく仕立ててもらうより、だいぶ安い。


「このままでいいわ」

「いいの? あなた華奢だから、それ胴回りが大きいと思うけど」


私は背が小さい。


店員の女の子も小柄な方だが、私は彼女よりさらに頭半分くらいは背が低い。


それに彼女も言う通り骨格そのものが細いので、胴回りも比例して細い。


「これくらいなら、自分で直すから大丈夫よ」


直し賃に銅貨30枚を追加で払うくらいなら、夜なべする方がマシだ。


そもそも嫁入り前の娘が、スカート一枚の手直しすら出来なくてどうするのだ。オマケに裾に刺繍だって入れちゃうよ。いや、普段着に刺繍はもったいないか。


それから一枚だけでは心許ないので、畳まれて並んでいる中から焦げ茶色の薄手のスカートを選んだ。


それは見るからに丈が長かったが、単に詰めれば済むことなので迷わなかった。


切り落とした裾も端切れとして取っておけば、何かの役に立つかもしれないしね。



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