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厄介事の予感

イルク視点です。

サララに井戸端へ追いやられたイルクは、短く刈られた頭を掻きながら溜め息をついた。


(まいったな)


年頃の女性の家に長居するのは気まずくて外に誘ったのに、結局サララに押し切られて昼食を食べていくことになってしまった。


休みの日なのに、つき合わせて申し訳ないという顔をしきりにするものだから、イルクも断るに断れなかった。どうもサララは可憐な見た目にそぐわず、抜け目のない性格をしているようだ。あの有無を言わさない笑顔の行く末が恐ろしい。


(断れなかった…。かわいいのに、あの押しの強さは怖いぞ)


かわいい…そう。サララは可憐な少女だ。多少の性格のアラくらい帳消しになる程度には、愛らしい容姿をしていると思う。


少し下がり気味の濡れたように黒い大きな眼にじっと見つめられると、実のところ胸がざわつく。


(うーん。どうも妙な色気があるんだよな…)


未成年の幼い相手に色気を出すのは本意ではない。むしろそんな趣味嗜好の輩は去勢して放逐してしまえばいいと常々思っているのに、まさか自身も同類だとは思いたくないし、認めたくもない。


(気の迷いだ。たしか十四になったばかりだと言っていたじゃないか。…一回りも歳が違うんじゃないか、正気に返れ)


そう自分を説得して冷たい井戸水で手と顔とついでに頭を洗い、サララに渡された手ぬぐいで顔を拭いていると彼女が呼びに来た。


(………前と同じだな)


「イルクさん。もうすぐスープが温まりますよ」


最初にこの家に来た時もこうして顔を洗っていて、サララに声をかけられた。そしてスカーフを外して髪色を露わにした彼女を初めて見て驚いたのだ。


(魔女とは聞いていたが、まさか精霊の愛し子とは知らなかったんだ)


声をかけてきたサララに視線を向けると、前と同じように彼女はショールを外していた。違うのはいつもは一つにまとめて後ろで結んである髪が、今日は頭の後ろで結い上げられていること。


露わになった、陽の光にきらきらと煌めく美しい光沢の鮮やかなピンクブロンド。その不思議な色の髪に縁取られた乳白色の卵形の輪郭に、濡れたようなアーモンド形の黒い目と小さな鼻、桃色の小さな愛らしい唇が配置よく置かれている。


優しげな整った容貌に小柄で華奢な姿という組み合わせは保護欲をそそり、可憐としか思えない。


不本意にも実に将来有望だとも思ってしまい、思わず顔をしかめた。


(…魔女の掟だか知らないが、こんなものを野放しにするなよ。自分が親だったら、絶対外になぞ出さないぞ)


ただでさえ若い娘なんて虫がつくものだ。独り立ちして一人で立てるようになる前に、あっという間に虫喰いだらけにされるに決まっている。


(身内でもない男を気軽に飯に誘うなよ。勘違いするぞ)


いくら支部長の紹介で頻繁に顔を合わせている相手でも、若い娘の独り暮らしの家へ簡単に招き入れるのは警戒心が足りないのではないだろうか。


何度も顔を合わせているからといって、相手が信用出来るとは限らない。特に男と二人きりになるのは避けるべきだろうに。


(ここは注意すべきか?)


年齢よりしっかりしたサララだが、そういったことには疎いようだ。未成年の幼い娘と承知の上で食指を伸ばそうとする馬鹿者は、それこそどこにでもいるというのに。


彼女のその髪が、果たしてどれだけ守りになるのだろうか。果てしなく面倒事の予感しかしないのは、きっと気のせいではないだろう。


出来ることならイルク自身、サララとはあまり関わりを持ちたくない。しかし彼女の店の営業が軌道に乗るまでは、それとなく支援するよう支部長に言われているので、距離を置くのも難しい。全く面倒なことだ。


サララは支部長の知人の孫で有力者の娘。またよりによって精霊の愛し子だ。血迷って手出ししようものなら、どう考えても厭な予感しかしない。


無論そんな厄介でしかない相手に手を出す気なんてない。何度でも言うが、誓ってイルク自身に少女嗜好はない。彼女は子供だ。


とにかく深入りしないよう気を引き締め、注意を払わなくてはならない。


(厄年はまだ先のはずなんだが…)


テーブルに置かれたスープのいい匂いに胃壁を刺激されながらも、面倒事の予感に胃が痛くなりそうで、イルクは知らず知らず手で押さえていた。




本人が思っているほど、周囲は子供と思っていない様子。



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