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くるくる  作者: こたろー
37/50

37話 喧嘩勃発


 律との付き合いが始まって一週間。私達はずっとらぶらぶ! ……と言いたいところだけど、付き合ってすぐに喧嘩勃発。喧嘩の原因は、お土産のことだった。

 告白された次の日、私は友哉くんと美波さんにお土産を渡しに部屋へと向かった。それは特に問題なかったけれど、もう一つのお土産、榊さんのお土産を渡しに美波さんのお店に向かった時のことだ。


 仕事の帰りにでも美波さんのお店に立ち寄ってみようと思い、バッグの中にお土産を忍ばせていった。しかし仕事が少し長引き、美波さんのお店の閉店時間よりも遅い時間にジムを出た私は、渡すのは明日にしようかと思いながら歩いていた。お土産は美波さんに渡してもらっても良かったけれど、こういうものは自分で手渡したいというのもあったし、榊さんと美波さんの距離は少しでも縮まったのか訊きたいという好奇心もあって、自分で渡そうと決めていたのだ。でも、そのお土産も今日は渡せないなぁと思っていたら、思いがけず前方から榊さんが自転車でこちらに向かって走ってくる姿を見つけ、思わず大きな声で彼に声をかけた。


「榊さん!」


 私の声が無駄にデカかったのもあって、榊さんはその声に驚き、慌ててブレーキをかけた。少し前につんのめって転んでしまいそうだったけれど、なんとか堪えたようだ。


「ああ、今仕事帰りか?」

「はい。榊さんも今?」

「そうだよ。今日は閉店間際にお客さんが来て、いつもより店を閉めるのが遅くなったんだ」


 相変わらずごついアクセサリーが胸元に飾られており、ファッションもちょっと浮いているパンクスタイルの榊さん。これがポリシーなのかもしれないけれど、花屋でこのファッションはどう考えても浮いている。それでも花を傷めないように指輪の類はつけないところは、仕事熱心な人柄を思わせた。

 

「あ、そうそう。これを榊さんに」

「土産? ああ、そっか。デートしたって店長から聞いている」

「デート……とはちょっと違う気がするけど、まぁそんなものです」


 榊さんはニヤリと口端を持ち上げながら、自分の手に収まったお土産を眺めている。その手を見て、私は榊さんの手が荒れていることに気がついた私は、バッグからハンドクリームを取り出す。そのまま榊さんの手のひらにクリームを出そうと思ったのだ。だけど、クリームはあまり残っていなくて、出るように少しチューブを振ってみた。


「あまりないなら、いらない」

「いいから少し待っててください」


 ぶんぶんとチューブを振り、キャップを取って彼の手のひらにチューブを向けた。そして絞ったその瞬間! チューブの嫌な音が鳴り、空気と共にクリームが飛び散ってしまった。


「ああっ!」


 榊さんの服や顔までクリームが飛び散り、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。慌ててハンカチを取り出して、榊さんに飛び散ったクリームを拭き取った。


「ごめんなさいごめんなさい!」

「いや、そんな謝らなくても……」


 汚された本人はいたって冷静で、慌てているのは私だけ。顔にも細かく飛び散ったクリームを拭こうとハンカチを持った手を伸ばすと、後ろから私の名前を呼ぶ声がする。それは少しだけ、不機嫌そうな声にも聞こえた。


「めぐみ、何してるの?」

「あ、律」


 私は帰り道に律に会えたことで嬉しさを感じていたのに、律はちっとも嬉しそうじゃない。それどころか律の顔は明らかに不機嫌そのものだ。

 しばらく、律が不機嫌な理由がわからず、私は榊さんの顔を再び拭こうと手を伸ばしたが、榊さんはそれを遮るように自分の手で拭き取ってしまった。そして一度律をちらりと見てから私の方を向き、「じゃあな」と小さな声で挨拶だけ残して帰ってしまったのだ。

 あーあ。まだ服にクリーム残ってるのに。そう思いながら彼の後ろ姿を見送っていた私の肩を律が掴み、無理矢理自分の方に向けさせた。


「なんでこんなところで、二人でこそこそ会ってるの?」

「え?」


 その時初めて、律がとんでもない誤解をしていることに気がついた。

 律は私がこっそり榊さんと会っているのだと思っているようで、私は慌てて反論した。


「ち、違うよ! 榊さんとはたまたまそこで会っただけだもん」

「……ふーん」


 「ふーん」だって! 何よ、変に疑っちゃってさ。馬鹿じゃないの?

 やましいことなんて何もしていないのに、律がこうやって勝手に疑う態度に、私はちょっとムカついた。だって、もう少し私を信用してもいいと思う。律が好きだと告げたばかりなのに、私の言葉は彼に届いていなかったのかと思ってしまう。

 結局、私と律は並んで家まで帰ったものの、その後に続く言葉は無いまま無言で歩いていた。張り詰めた空気が重くて、隣にいるのも苦しくなる。部屋の前でようやく開いた口から出た言葉は「おやすみ」のひと言だけ。静かに律の部屋の扉が閉められ、私はその様子を見ながら思ってはいけないことを考えていた。

 私と律は、もしかしたら根本的に合わないのかもしれない……。

 ただお土産を渡しただけでこんなに律を怒らせてしまうのなら、私達は付き合っていけないんじゃないかな。他の男と喋るな! なんて言う男がいるけれど、それは絶対に無理だし従いたくもない。例え好きでも、それとこれとは話が違う。ただ従順な女には成り下がりたくないから。

 律の部屋の扉が閉まる音が、やけに耳に残った。やりきれない寂しさが心に降り積もる、そんな夜だった。


 **


 そんなことがあってから一週間が経った今でも、律とまったく会えない日々が続いている。

 大学が忙しいのか、はたまた律が私を避けているのか……どちらにしても顔をまともに見ていなくて、会えるのは携帯の待ちうけのみだ。

 部屋が隣なのだから、律が帰宅するのはわかる。でも、あの喧嘩以来、律はアパートに帰ってきていない。

 友達の家とかにいるのかな、と思いメールをしたけれど、忙しいからという答えになっていない返事しかこない。そういうこと訊いてるんじゃなーい! と携帯を壊しそうになったけれど、とりあえず怒りをおさめるように深呼吸、深呼吸。深呼吸をしてから携帯の待ち受け画面で笑っている律を見ると、どうしようもなく会いたくなって思わず携帯を抱きしめた。

 今日の夜は帰ってくるかな。帰ってきたら、とりあえず謝ろう。

 そう思いながら家で過ごしたけれど、今日もまた、夜になっても律は帰ってこなかった。

更新止めて申し訳ありませんでした。

今日からまた頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!

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