閑章
「嬢ちゃんは、どんな服が好みだ?」
コンクリートでできたマンションの一室は、標準的なものだろうが、少年はいつまでも珍しそうな顔をして眺めていた。寝に帰るだけでなにもないタケミの家は殺風景で、必要最低限の家具家電しかない。缶ビールしか入っていない冷蔵庫に、少年は目を見開いたものだ。
「服なんて、わかりません」
眉を寄せて首をかしげる。少年は衣服を身につけておらず、すらりとした肢体をむきだしにしていた。しかし、その肌の色に生気はない。
「タケミさん、メンテナンス中ですよ」
服よりこちらの方が重要だろうと、少年がとがった声でたしなめる。タケミは少年の顔を見ないまま通販カタログのページをめくった。
機械に侵されすぎた彼の人形めいた身体と、向き合いたくなかった。
「お前の顔は綺麗なんだから、綺麗な服を着るべきだろ。もったいねえ」
わざとらしくふざけた調子で言うタケミに、少年も苦笑する。
金に余裕のないマスターがサイボーグにしてやれることなど限られている。いつかのようにタケミと共に死線に立つことなどもうできない。戦闘用のサイボーグはもうそこにいなかった。ただかろうじて歩行と会話ができる程度の、人形のような少年が横になっているだけだった。
タケミさん、と少年が声をあげる。その声色でタケミは次に言われることがわかってしまって、目を閉じて大きく息をつき、ゆっくりと少年を見た。
いつか見た、寂しそうな笑みがあった。
「ねえ、タケミさん。僕の体はもういよいよ、ダメです。人間の部分はほとんどないし、タケミさんの仕事をお手伝いすることももうできない。タケミさん、もう一度、お願いします。少しでも人間であるうちに、僕を殺してください」
ああ、そうだな。
タケミは目を閉じてため息のように呟いた。
彼がここに死にに来たのだということを、忘れていたがった自分をわかっていた。




