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プロポーズからはじまる盾と魔法とおまじないの物語

作者: アブラゼミ
掲載日:2026/05/08

 黒髪で短髪、体格のいい男が城下町を歩く。

その身体は見るからに鍛えられており街のゴロツキ達も一見しただけで目を逸らす。

男は長年勤めていた仕事を辞め、田舎に行こうとしていた。

命がけの職業だっただけに給金は高く、退職金もたんまり頂けた。どこかの田舎で家と農地を買ってのんびり暮らしていくには十分すぎる金だ。

同じ仕事をしていた連中もお役御免になり、すがすがしい顔でそれぞれ故郷に帰って行った。

住み慣れた街を歩くのも今日で最後。

感慨も何もない。覚えたのは空腹だ。


「ねー、フブキー。おなかすいたー」


 それは隣に歩く少女も同じだったようで、フブキの服を引っ張る。

年の頃は12歳ほど、茶色い髪を三つ編みにした少女だ。

フブキが、少女の頭を撫でる。


「ミミ、おなかすいたかー。それじゃご飯食べに行くか」

「やったー」


 見た目の割に中身が幼い少女、ミミの頭を撫でてからフブキが食事をする事に同意する。

親子というには歳が近すぎ、兄妹というには見た目が違いすぎる。

傍目には不思議な関係の2人は、手を繋いだまま食堂に入っていった。




………

……



「聞いたか。第二王子の奴、また縁談を蹴ったそうだぞ」

「またか? もうこれで何度目だ?」

「20超えたあたりからもう数えちゃいねえよ。国王はご立腹らしい」

「あれじゃないか? 前についていたお付きの女と何かあるんじゃないか?」

「お付きの女? ああ、今第二王女についてる女か。ありゃべっぴんだもんな」

「しかし世継ぎはどうなるんだ? 国王はそろそろだろうし。第一王女はアレだしなあ。後残ってるのは……第二王女か?」

「まだ17歳だろ? 早すぎるだろ」


 食堂の中で聞こえてくる噂話に、ピクリと耳を動かした男だったが何事もなかったかのように皿の中のシチューを完食する。

男にはある未練があった。

本来であればもっと早く、この城下町を出る事ができたのに今日まで出てこなかったのには未練があったからだ。

しかしもう振り切ると決めた。

これからどうするか。

命がけで10年近く働き、何度も命の危機に遭い続けてきた。

目の前で命が失われた事も一度や二度じゃない。


「ごちそうさまでしたー」

「ミミ、口元汚れてるぞ」

「ふいてー」

「はいはい」


 シチューでベタベタのミミの口元をハンカチでやれやれと拭いながら、フブキが苦笑いする。

フブキとミミは、ミミを彼女の故郷に帰すという約束をしている。

ずっとその約束を果たせていなかったが、ようやくその約束を果たしに行けそうだ。

その場所に行くためには厄介な存在がいるが、まあどうにかする方法を見つければいいだけの話だ。フブキはそう考えていた。


「それじゃ行くか」

「はーい」


 食事を終えたフブキとミミが立ち上がる、その時だった。

ローブをまとった女達が食堂に駆け込んできたのは。




 自らの意志で食堂に駆け込んできたのではなく、走って逃げている最中にたまたま食堂に逸れてしまったらしい女達がテーブルや椅子にぶつかりテーブルの上の皿やコップが床に落ちる。


「もう逃げられんぞ!」


 女達を追って黒い鎧をまとった騎士団が駆け込んで来たのを見て、店内が騒がしくなる。


「なんだなんだ?」

「あれって王子直属の暗黒騎士団じゃないか?」


 お揃いの黒い鎧を見に纏い、剣や盾などを持った暗黒騎士団は第二王子・リオンの直属軍隊。王国軍の中でもエリートと呼ばれる存在だ。

ローブをまとった女の1人が、暗黒騎士団に向けて杖を構える。


「姫様! いけません!」


 しかしもう1人の女がそれを止める。


「メアリ! でも!」

「人を巻き込んでしまいます! それに姫様の魔法は…」

「ぐっ……」


 女に諭され、姫様と呼ばれた女が杖を下ろす。


「やっと大人しくする気になったようだな」


 暗黒騎士団の1人が近づき、2人が目深に被っていたフードが上げてその顔を晒した。




 その瞬間。

男は弾かれたように動いていた。

女達の顔を晒した兵士を殴り飛ばし、その人の前に跪きこう言った。


「俺と、結婚してください!!!」


 フブキ・クロイツは運命だと思った。

この人だと思った。

この人に巡り会うために生まれてきたのだと本気でそう思った。


 町のはずれの寂れた食堂の前。

周りを取り囲むのは鎧を着て剣と盾を持った物騒な連中。

およそもっともまったくもってプロポーズに相応しいシチュエーション。

けれどもフブキに迷いはなかった。

運命だ。

それに彼女は、少し困った様子ながらもはにかんだ笑みを浮かべ…




「冗談じゃないわよ! 誰があんたなんかと結婚なんてするもんですか!」




 フルスイングのビンタが頬を叩いた。

衝撃の展開にフブキは頬を押さえて自分をビンタした相手を見る。

背丈はフブキより頭1つ分ほど低い、160cmほどだろうか。背中ほどにかかる金髪の整った顔を真っ赤にした少女だ。

フブキは、その顔に見覚えがあった。


「あれ? もしかして、第二王女様?」

「そうよ! 私が第二王女アリサよ! 頭が高いわ! 控えなさい!」

「へへー!」


 フブキが第二王女の前で這いつくばって土下座をする。

しかしこんな事をしている場合ではないと気づき、顔を上げ疑問を投げかける。


「なんで第二王女様が王子直属の暗黒騎士団に追われてるんだ?」

「そんなの貴方に関係ないでしょ!」

「確かに関係ないっちゃ関係ないな。でもよ…」


 フブキは殴り飛ばして気絶させた兵士の手から剣と盾を取り、第二王女と連れの女の前に立つ。


「事情は知らないけど、レディの危機を見過ごすのは騎士道に反するんでね。関係させてもらうぜ」


 フブキがやる気だと気付いた暗黒騎士団が、警戒を露わにしながら剣と盾を構える。

そんな騎士団を見ながら、フブキが挑発的な笑みを浮かべ剣と盾をくるくる回す。


「軽いな~。暗黒騎士団はこんな軽い剣と盾しか使えねえのか」

「何っ!?」


 フブキの挑発にいきり立つ暗黒騎士団の面々。

その中の1人が、剣を振り上げ襲い掛かる。


「フンっ」


 フブキは振り下ろされた剣を盾で受け止め、持っている剣の柄で暗黒騎士の頭を叩き気絶させる。

その洗練された動きに只者ではないと気付いた暗黒騎士団の隊長が部下達に注意を呼びかけようとする前に、フブキが動き出す。

目の前にいた暗黒騎士に盾を前に構えながら体当たりし体勢を崩し、剣を握る右手の指を立て相手の顔の前にかざして呪文を唱えた。


「『スリープ』」


 白魔法の基本の魔法の1つ。眠りの魔法が相手を無力化する。


「このっ!」


 目の前で仲間がやられ、暗黒騎士の男が剣を振り上げながらフブキに襲い掛かる。

けれどもこれも盾であっけなく防がれ、回し蹴りで蹴り飛ばされ壁に叩きつけられ気を失った。


「バラバラに襲いかかるな! 囲め! 一斉にかかって仕留めろ!」


 隊長の呼びかけに応じ、暗黒騎士達が男を扇状に取り囲む。

しかし本命は男ではなく第二王女。

囲んだのは男の集中を分散させ目を逸らさせるため。

暗黒騎士の1人が男の目線が逸れた隙に王女を確保しようと動き出す。


「甘いな」


 しかし。

見えない壁に弾かれたように、王女の確保に動いた暗黒騎士もろとも暗黒騎士達が吹っ飛ぶ。


「『見えない盾』。俺を無視しようなんざ、100年早いんぜ」


 盾を振りかざしただけで、『見えない盾』をその場に出現させたフブキが気絶した兵士に言う。


「か、かかれ! かかれー!」


 隊長の呼びかけに、残った部下達が一斉にフブキに襲い掛かる。

フブキは簡単に、暗黒騎士達をいなし、弾き、叩きのめして気絶させていく。

しかし部下達が敵わないのは隊長にとって織り込み済みだった。

部下達は自分の切り札を発動させるための時間稼ぎ。

闇の力をまとった魔槍に魔力を込め、部下達を全て無力化させた男に向けて突き出す。




「サンダースピアー!!!」




 ドオオン!!!

すさまじい音を立て、魔槍から放たれた一撃が男を襲う。

定食屋の店内が衝撃で揺れ、男のいた所には煙が立ち込めている。


「やったか!?」

「……やってねえよ。ちったあ驚いたが」


 煙が晴れた先には、盾を構えたフブキが無傷で立っていた。


「『盾のおまじない』にはどんな攻撃も通じねえんでな」


 間合いを詰めた男の鋭い手刀が隊長の首を襲う。

強烈な一撃。防ぎきれなかった隊長が横倒しに倒れる。


「…『スリープ』『見えない盾』『盾のおまじない』… き、貴様…『鉄壁』の…」


 何かを言いかけた隊長が、気絶する。

それを見下ろしたフブキがフン、と鼻を鳴らす。

明らかに只者ではない男。

そんな男に第二王女がおそるおそる声をかける。


「あ、貴方一体…」

「改めてご挨拶を、第二王女様。それと……」

「あっ……、私はアリサ様の侍女メアリです」

「よろしくメアリ」

「は、はい。よろしく……」

「挨拶なんてしてる場合じゃないでしょメアリ! 貴方一体何者なのよ!」

「……まいったな。これでも一応ナイト隊のリーダーしてたのに覚えられてないのか」


 王族の護衛も担当した事がある男が、頭を掻いた後2人に向き合い自らの名前を告げる。


「フブキ・クロイツ。ナイトだ」




****************************




「……とーうとうここまで来たねえ。フブキ」

「……ああ」


 『盾のおまじない』と『魔法が使えなくなる呪い』をかけられた2人。

フブキ・クロイツと、ロイ・ローゼンハイドの2人が『蜃気楼の塔』の前に立つ。


「姫様はこーこにいるのかなあ?」

「いる。間違いなくここだ」


 “魔女のおもちゃ”の2体、『国斬くにぎり』と『人形にんぎょう』のクリスタルを手に、フブキとロイが塔を見上げる。


「……魔女の気配がするな」

「するねえ。プンプンする」


 2人にとって、いや王国にとって因縁の存在である“魔女”の気配を感じながらフブキが盾を、ロイが杖を握りながら『蜃気楼の塔』へと進む。

『国斬』と『人形』のクリスタルが光り、『蜃気楼の塔』の門が開く。


「左から強い魔力がするねえ」

「右から強い剣気がするな」


 第二王女の身を狙う2人、『魔導王』と『剣聖王子』2人の気配を感じ、フブキとロイがそれぞれ左と右の光る魔法陣を見る。


「俺は右だ」

「じゃあ僕は左だねえ」


 『剣聖王子』に敗北した事があるフブキ、『魔導王』に敗北した事があるロイが、それぞれの戦いへ挑む決意を固める。

フブキが、ロイに向けて右の拳を差し出す。

ロイも、左の拳を伸ばし2人の拳が合わさった。


「死ぬなよ」

「そっちこそ」


 フブキが『剣聖王子』が待つ先の魔法陣に、ロイが『魔導王』が待つ先の魔法陣へと足を進める。

最後の戦いが、始まろうとしていた――――――。

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