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没落令嬢の大逆転〜天才弟の未来を掴もうとしたら、推しの様子がおかしいのですが〜  作者: たんぽぽ


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02

 「ただいまー」


 状況が状況なので貴族らしさは一旦お休みして、疲れに任せた砕けた口調で屋敷に入る。


 「姉上!お帰りなさい!」


 3歳から6歳の幼い弟妹達が、小走りで駆け寄り抱きついてくる。

 両手に持つ夕食を一旦置き、3人まとめてぎゅっと抱擁し頭を撫でた。


 「姉さん、お帰りなさい。お疲れ様」


 労わるような笑顔で出迎えてくれたのは、3歳下の天才児、弟のルイだ。

 来年学園入学予定のルイは、領地の仕事で手が回らない母や屋敷の家事全般をひとりでこなすメイド長の代わりに、今は幼い3人の貴族の礼儀作法やお勉強、運動等の教育を含む子守り全般を引き受けてくれている。


 6歳の弟イアンと5歳の妹チオーナは競い合ってケンカばかりしているし、3歳の弟クインは全力で走り回る年頃だ。

 3人の世話を引き受けてくれているルイこそ12歳でまだまだ子供なのだが、私より余程将来を見据えてしっかりとしている。元々の才能に驕らず努力も惜しまない彼が、早朝に剣の鍛錬をしたり、合間合間に私の古い教科書で学園の勉強をしたりしている事も知っているのだ。


 そんな頑張り屋の弟も、ぎゅっと抱きしめて頭を撫でた。いつも大人っぽい落ち着いた表情をしているルイが、年相応のはにかんだ笑顔を浮かべた。



 皆で、ファナリス食堂から持ち帰った料理で夕食を取る。

 今日のメニューは、ソースに混ざったキノコと人参、玉ねぎも美味しそうな煮込みハンバーグ、チーズとハム入りのサラダ、香ばしく焼けている食堂手作りの丸い手ごねパンだ。

 ファナリス食堂の料理はどれも美味しく家庭的な味がして、皆大好きなのだ。

 料理を大皿に載せてテーブルの上に置き食事の挨拶をすると、弟妹達が取り合うように食べ初めた。


 執務室や王城との行き来で仕事漬けの母や、学園と仕事で中々家に居ない私も、朝晩の皆との食事の時間は大切にしている。

 効率重視で、食堂はキッチンの横にある使用人の食堂だが。


 「今日ね、今日ね、僕達の領地のお勉強をしたんだよ!」


 「小麦がいっぱい取れるんだよ!涼しくてしっけが少ないとそだてやすいんだって!」


 「こむぎからパンができるんだよ!」


 幼い弟妹達が、今日ルイから教えてもらったお勉強の成果を教えてくれる。ルイは満足そうにそれを見ていて、才能溢れる弟は教師にも向いているのかと思った。

 母は今日行った王城の様子を話してくれて、私は学園とライナス殿下•スウェン様の話をした。


 食後、執務室に戻る母を見送り後片付けをメイド長に任せて、私とルイで弟妹達の寝支度を手分けする。

 ルイが、イアンとクイン、弟2人をお風呂で洗い、私は妹チオーナをお風呂に入れた。

 幼い3人を子供部屋で寝かしつけると、やっとひと段落だ。


 ルイの部屋にお邪魔して、今日一日頑張った弟の髪を乾かし櫛でとかす。肩で切り揃えられている金髪は、ランプにキラキラ反射していてとてもキレイだ。安いものだけど、香油を少しずつ使って手入れしていく。


 「姉さん、香油は僕じゃなくて姉さんが使ってよ。僕は男だし、姉さんの髪がキレイな方が絶対いいよ」


 少し困ったような顔で弟が言う。

 優しい弟が気を遣ってくれていることは分かっているんだが、私が弟を労わりたいのだ。

 本来なら、家庭教師に勉強や剣術を習い、その才能を伸ばしながら学園入学の準備をしているはずだったルイ。才能溢れる彼が、こんな風に一日中弟妹の子守りをしているはずではなかった。


 ルイは、容姿もとてもキレイだ。肩で切り揃えられた、明るいサラサラとした金髪、雲ひとつない青空をもう少しだけ濃くした澄んだ碧色の瞳、目鼻立ちが整った美しい容姿をしていて、声変わり前の少年独特の中性的な雰囲気は、さながら天使のようだ。


 学園にさえ入ることができれば、家が没落していようが関係なく、彼自身の手で素晴らしい未来を掴むことが出来る。

 そんな将来有望な弟を、私が磨いておきたいのだ。


 「姉さんはいいの。家が没落していて15歳の婚約者無しなんて、もう結婚は望めないもの。目指す文官に容姿は必要無いわ。」


 優しいルイは、悲しそうな顔をする。そんな彼の今整えた頭をぐしゃぐしゃになでて、おでこにおやすみのキスをする。


 「夜更かしもほどほどにして早く寝るのよ。勉強も大事だけど、子供には睡眠も必要だわ。」


 ぐしゃぐしゃになった髪を押さえて、子供じゃないもんと言いたげにむくれた顔を視界に入れつつ、彼の部屋を後にした。


 さて、今日も一日疲れたけれど、明日の学園の予習復習はやっておかないと。凡人は努力しないと、成績を維持できないのだ。



 翌日、皆で食堂で朝食を食べて、弟妹達の朝の支度を整えてから学園に登園した。

 学園はほとんどが貴族なので基本は馬車に乗って来るのだが、現在の我が家の財政では御者を雇うことも馬車の維持も出来ない。馬車の行き交う中、せめて堂々と徒歩で門をくぐった。


 学園は、13歳から16歳の4学年あり、単純に1階が第一学年、2階が第二学年と続き、校舎は4階まである。クラスは成績順で分けられている。

 私は第三学年なので3階で、一番成績の良いクラスだ。どうしてもお金の稼げる王城の文官になりたくて、成績維持を頑張っている。

 以前までは友人もいたが、家が没落してからは皆疎遠になった。没落の噂が出回るのも早く、付き合うにはメリットよりもデメリットの方が大きいと判断したのだろう。貴族なのだから当然なのかもしれない。君子危うきに近寄らず。


 時折ひそひそと何やら聞こえるが、もう慣れっこだ。文官になる為に学びに来ているのだから、授業以外は必要ない。

 必要なのは、授業と、心の栄養スウェン様である。


 クラスの私の席は右の一番後ろ。スウェン様は、ライナス殿下と隣合わせで、左の一番後ろで窓際だ。

 窓からの陽の光で、今日もスウェン様のプラチナブロンドがキラキラ光を反射している。さながらその美しさにキラキラ効果がかかっているようで、窓際の席は彼の美しさを引き立てる為にあるのではないかと思わせるほどだ。


 スウェン様が、ノートを取るために下を向く。その伏せ目に同じくプラチナブロンドの長いまつ毛がかかり、瞳に影を落とした。

 まさに、芸術品。今この瞬間を切り抜いて絵画にし、永遠に眺めていたい。まさに、私の心の癒し…!!

 今日屋敷に帰ったら、この感動をルイに聞いてもらおう…!!

 絶対、聞き飽きたと言いたげな呆れた顔をするだろうが。



 昼食はお弁当を持って、中庭の特等席に移動する。

 中庭のガゼボで、ライナス殿下とスウェン様がいつも昼食を取っていらっしゃるのだ。それをこっそり見ることが出来る、校舎脇のベンチが私の特等席だ。ちょっと影になっていて人気もあまり無いので、場所の取り合いになる事もない。

 食事をするスウェン様を視界に収めながら、質素なお弁当を口にした。



 午後の授業が終わってから食堂の仕事まで少し時間が空いたので、勉強しようと1階の図書室に向かった。昼までは元気だったのだが午後の授業から集中しづらく、何だかクラクラする気がする。

 今日も学園の後に仕事があるし、一日はまだまだ長い。

 集中!!と心の中で気合いを入れ直し、いつもより少しだけ足元に注意して階段を降り始めると、美しいスウェン様の姿が視界の端に入った。


 こんな所で、何という偶然!!と歓喜した瞬間、ぐらりと視界が揺らぎ、そのまま足を踏み外した。

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