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勇者様ご一行、前田ダンジョンハウスへようこそ  作者: 常に移動する点P


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第9話・スライムの復讐

 スライム商人の名は、レイズと言った。スライムに名があるのには驚いたが、スライムからすると人間にも名があるのと変わらないと思うだろう。俺の差別意識はファンタジーネイティブ世代の方が強く植え付けられていると思う。教える側が差別的なのだ。魔物は怖い、狡猾、噓つき、そう学ぶ。教えるのは歴戦の戦士たちだ。勇者と野営したことを一生の自慢話として話せるほどの、薄い体験談の持ち主だ。大切にしているモノが自分の中になく、他人を通じて生まれるタイプ


 俺はそんな教師たちをバカにしているし、大学では見下している。だが、俺にも彼らのような魔物を差別的に評価する自分がしっかりと根を張っているのだ。


「勇者カササギという男をご存じですか?」

 俺とススムは互いに目を見合わせた。先日ダンジョンで痴話げんかもどきの茶番を起こした盗賊だ。

「二回死んだ、あの。炭化したあの人?」

 俺はススムというよりも、勇者ガルバとスライム商人レイズに向かって発した。

「盗賊兼勇者と言うのが正しいのでしょうね。なんにせよ、勇者カササギよりあの勇者のつるぎをいただきました」

「無料で? スライムがどうやって?」

 随分と失礼な物言いだと思ったが、口から出てしまったものは引っ込めようがない。ススムが気を付けてと言わんばかりの渋い表情で俺を睨みつけた。


「物々交換ですよ、執着のしずく、と交換でね」

 聞いたことがある、【執着のしずく】。たしか、蘇生魔法が効かない魔物たちの、唯一の蘇生アイテムだ。生に執着しているものの魂をこの世に一度だけ連れ戻すという。そう教わった時、魔物にも魂があることに、俺は驚いたのを思い出した。

「副業に盗賊をされていた方でしたから、珍品もお持ちで」


 執着のしずくは、単体では使えないはず。殺害に使用された武器を依り代として魂を降ろすはず。なるほど。

「執着のしずくと、依り代となる武器・勇者のつるぎをセットで交換してもらったと。代わりに何を差し出したんですか?」

 俺の問いにレイズは少し悩んだ結果、

「復活のアンクレットです」

 超珍品だ、死亡後24時間以内に蘇生が自動発動するお宝アイテム。


 つまり、

勇者カササギは執着のしずくと勇者のつるぎ

スライム商人レイズは復活のアンクレット、

 それぞれ交換したわけか。

 だが、勇者カササギが一度目の炭化死から蘇生させたが、復活のアンクレットは身に着けていなかった。何か他のものと交換したのか、誰かに奪われたのか、与えたのか。


「スライム仲間を蘇生させたら、もう勇者のつるぎは必要なくなったということですね」

 俺の問いに、レイズは首を振った。


「目的は二つです。一つはあなたのおっしゃるように仲間を蘇生させること。もう一つは、その剣の所有者を探すこと」


 勇者のつるぎを手に入れようと挑んできた勇者たちはことごとく返り討ちにあった。それはこのレイズの手刀によるものではなく、勇者のつるぎによって両腕を落とされたということらしい。昔聞いたことがある。聖剣ログジュールの話を。岩山に突き刺さった聖剣を抜けたものが勇者だと。こうした極端な聖加護が付与された武器・防具類は、所有者を選ぶ。同時に、非所有者であるものが手にすると返り討ちにあう。怪我をするというわけだ。


 そう言う点では勇者カササギは、勇者のつるぎに選ばれた男だったのか? 俺の疑問は杞憂に終わる。勇者のつるぎには、魔法塗装が幾層にもかけられていた。この返り討ちにあうという呪いは封じられていたわけだ。


「懸念されている、つるぎの呪いは、私が一時的に解呪しました。そうでなければ、執着のしずくと一緒に使えませんから」

 レイズは続けた。

「といっても、本当に一時的で、しばらくすると呪いも強まり、いよいよもって、この勇者のつるぎの所有者探しにはうってこいだと思ったわけです」


 レイズの口が滑らかだ。スライムだからだろうか。スライムにこれほどの知性があるとは誰が思っただろうか。案の定隣で沈黙しているススムは、盛大にノートにメモを取っている。生物学者の血が騒ぐのだろう。


「でも、それってことは」と俺。

「そうなりますよね」とレイズ。

「たしかに」とススム。

「いやいや、待って待って」とガルバ。

 勇者ガルバがこの勇者のつるぎの元所有者なのか。スライムたちを惨殺・虐殺した張本人なのか。

「俺はこのつるぎの元所有者でもないし、スライムなんて数えるほどしか…」

 ガルバはやや歯切れが悪いが、言っていることは本当のようだった。

 だがどうして、勇者のつるぎの元所有者でもないガルバは、他の勇者のように返り討ちにあって両腕が落とされないのか?


 ガルバはずいぶん前から勇者のつるぎを無造作に赤土くれたダンジョン地面に置いていた。俺はガルバに、鎧下の肌着を見せてくれと頼んだ。

 肌着、あぁ、これは、記念贈呈品の肌着。リム王国誕生記念に配布された、肌着。見覚えがある、リム王国王女であり誘拐されてきた居候、アシュフォード姫が俺にくれたものだ。龍蒼もススムもモドリも、みんなもらっている。

 勇者の肌着

 自分の国の記念品をくれたわけだ。勇者シリーズの武器・装備は反発共鳴しあって、互いが破壊し合わないように設計されている。


 ガルバが勇者のつるぎの所有者でもないし、解呪できるほどの人物でもない。なのに、両腕が落とされなかったのは、勇者の肌着を身に着けていたからか。他の勇者も着ておけばよいものを。


「じゃぁ、この勇者のつるぎの所有者は…」

 スライム商人レイズは、達したかに思えた目的をすんでのところで、逃した。

 無造作に置いた勇者のつるぎが、見当たらない。レイズと俺、ススムは、すうっと示し合わしたように一点を見た。背後は大きな岩場、建設当時はなかった。ダンジョンがダンジョンを生成しているのは間違いない。

 子どもの勇者。手には勇者のつるぎを持ち、軽く振り回している。八の字に、前後ろと自在に操る。子どもなのか? 本当に?


「最悪勇者たちとの戦いを想定してたけど、このつるぎの呪いで、自滅してくれて助かったよ」

 子どもの勇者、よく見ると顔は大人びている。オッサンじゃないか。


「あれは、オッサンだな」

 ススムがそう言うと、レイズは驚きの表情を見せた。スライムを惨殺・虐殺してきた真犯人。

「勇者に、倫理観や道徳観なんて求めないでよ。僕らは、敵を殺戮するために訓練してきたんだし、そこに罪悪感なんて持ち合わせていないよ。それに…」

 子どもの勇者改め、小さいオッサン勇者は続けた。

「スライムを何体殺したとて、それが一体何の罪になるの? 害虫駆除して誰が不利益を被るってワケ?」


 口が達者な小さいオッサン勇者だ。そう言えばさっきからアシュフォード姫からの連絡が途絶えている。アッチはあっちで忙しいってわけだ。

 レイズは取り込んだ他の仲間たちを解放し、スライムたちの大群となった。ガルバは盾を構えて、俺とススムを盾の内側へと誘導した。


 スライムたちは一斉に小さいオッサン勇者にとびかかる。策はないようだ。

「拾った命、もう一度、捧げよ」

 レイズは叫ぶ。自らの手を刀に変えて、突撃する。

「あれが、手刀ってわけか」と感心するほどの鋭さ。ギリギリのところで、のけぞりながらかわす小さいオッサン勇者。同時にその反動で、勇者のつるぎで襲い掛かるスライムたちを無感情で切り捨てる。


「くぉおおお」

 ほぼ特攻だ、レイズは積もり積もった憎しみの怨念を身体全体から発する。人型に定めることも難しくなったようで、ゆらゆらとその形が崩れ始めている。


 斬撃がレイズを真っ二つにする。他のスライムたち千体ほどは息絶えている。どっちの味方をすればいいのか、本当のこと言ってよくわからなかった。


「なに、ボーッとしてんのよ」とガルバの隣にアシュフォード姫が立っていた。賢者のご到着というわけだ、相変わらず美味しいところ取るなぁと。


「あなた、勇者ロキよね。ホビット族から五百年に一度産まれるという、転生型の勇者」

 アシュフォード姫の表情に幾分かの余裕を感じる。単なる性悪さが漏れ出ているのか。


「いかにも、よくご存じで。というあなたは、龍にさらわれたはずの、お姫様ではありませんか」

「白々しいわね」

 小さいオッサン勇者改め、勇者ロキの足元はスライムの死骸でヌメヌメとしている。真っ二つに斬られたレイズが、勇者ロキに向かって最後の力を振り絞って突撃した。腕を軽く動かしているぐらいの、それは作業のような剣術。勇者ロキはレイズを粉々にサイコロ上の寒天のように細かく切り刻んだ。


 レイズをはじめとするスライムたちの死骸はダンジョンの地面にだけではなく、天井にまでこびりついていた。それが滴り落ち、勇者ロキの小さな体にもまとわりついていた。


「ったく、スライムたちはこれだから厄介なんだ。気持ちワリイ」

 たいまつに照らされる勇者ロキはヌメヌメとしている。


「あぁ、私の出番もないか。これじゃ」

 アシュフォード姫がそう言うと、天井から、鋭いロープのような繊維質の何かが勇者ロキめがけて伸び出てきた。天井を貫いてと言う言い方が正しいのか。


「なんだあれは」

 俺の問いに

「根だ」

 ススムがようやく口を開いた。

「2階のシダ科の群生植物、あれは1階のスライムの死骸の養分が滴って、成長したって言っただろ。それが、3階のこのスライムの死骸の養分を求めて、自分たちの縄張りを広げに来たというわけだ」


 植物にも意思がある。それは知っていたが。

「モンスン・ステイラ」

 シダ科の群生植物ではあるのだけど、進化しすぎたのよね、意思がある。食虫植物みたいなものよね。栄養分には貪欲。ほら、もう手遅れよね」


 勇者ロキにまとわりついた、モンスン・ステイラの根は鋭く絡みつき、縛り上げる。根の周りに生えた、さらに小さく細かい根が小刻みに動く。勇者ロキの中へと入りこんでいるようだった。


 ものの五分もしないで、勇者ロキは装備品と骨だけになった。勇者の肌着は身に着けていなかったようだ。


***

 帰還の鈴で戻った頃には、俺もススムも倒れ込んだ。のちの顛末は、モドリとアシュフォード姫から聞かされた。

 勇者ガルバは勇者の肌着の着替えをいくつかアシュフォード姫から譲り受け、勇者のつるぎを携えて、旅に出た。執着のしずくを見つけ、再びスライムたち、レイズを蘇生するためらしい。たった三枚の勇者の肌着で足りるのか? とも思うが。


 龍蒼は必要以上に群生したモンスン・ステイラを株分けして、各フロアに観葉植物のようにして配置した。同じ場所にたくさんあると、食物連鎖のバランス状よろしくないということだ。

 好奇心から、龍蒼に聞いてみた。

「スライム? 俺、五万体は喰ったかな」と。

 やっぱり、ドラゴンって野蛮だ。


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