第7話・勇者の中に犯人がいる
ススムはその名の通り、前へ前とダンジョンを突き進む。途中に魔物とも出会うが、生物学者だけあって、その距離の取り方に安心感がある。スライム系の不定形魔物は、自身より高い「熱源」に反応する。
スライム系の戦闘流儀は相手の呼吸を止める、とわかっている。だから、まず呼吸を止める。次にたいまつを熱源に、囮として、戦わずに逃げるというものだ。
「どうして戦わないのか?」とススムに聞くと、「おまえはワニと遭遇したら戦うか?」とわかりやすい返事が返って来た。
ちなみにスライム系の最弱層であっても、強さで言うと、ドーベルマンクラスらしい。危ない、怪我せずに勝てるとは思えない。場合によっては、簡単に死ぬ。
俺とススムはエンカウントをできるだけ避けつつ、地下2階にたどり着いた。我が家の下にあるとは思えない。湿気が充満し、レンガ張りの壁には見たことのないシダ系の植物が群生している。
「触れるなよ、かぶれるから」
ススムがそう言いながら、手持ちのダガーで斬りながら、前進する。
15名の勇者のうち、帰還の鈴で戻って来たのは合計12名。俺たちが出発してからさらに、11名の勇者が満身創痍で帰って来た。俺のスマホはアシュフォード姫からの連絡であふれかえっていた。まだ、10件近く未読のままだ。11名とも両腕を失っていると。
地下2階、建屋と変わらない広さのはずなのに、どうしてこんなに迷うのか。同じ道を回っている感じがする。途中、残りの3名の勇者の無事を祈る。
地下3階へと続く、階段をススムが見つけた。ポツリと「いつもと場所が変わってるな」呟いた。施工会社からもらったマップが頼りにならないのだ。ダンジョンがダンジョンを生成しているのか。
地下3階は湿気が低く、むしろカラッとしている。このフロアに、商人がいるのか。勇者のつるぎを目指した勇者たち15名のうち12名が両腕を失い帰還。残り3名はこのフロアで見つけられるはずだ、俺は慎重にススムの後ろにピタリとついて進む。
殺気が地を這うように忍び寄ってくる、ただの大学生の俺にもわかる。
前方に巨体の男。巨大剣を地面に突き刺して、無言で威嚇している。後方には髪が長く、華奢ながらも、大ぶりの盾を構えている。しゃがめば、全身が隠れるほどの大盾だ。
俺たちがダンジョンオーナーだと説明する暇はあるのか。襲い掛かられたら、確実に死ぬ。
「シュレイン氏、ガルバ氏、ご両名かな?」
ススムはスマホを片手に、質問した。画面には両名の顔写真と名前が映っていた。
どっちがシュレインでどっちがガルバだ。デカい方がガルバっぽい。この二人、勇者なのか。巨体の勇者が巨大剣を振り上げたとき、
「シュレイン、よせ」と長髪の勇者が制止させた。
「仲間の不躾なふるまい、ご容赦を。なんせ、戦闘つづきなものでね」
この華奢で長髪の方がガルバか。名前と雰囲気の印象が逆だ。
「モンスターが手強いのですか?」
ススムが聞いた。
「いや、例の商人だ。私たち勇者を、あのつるぎでおびき寄せている」
あのつるぎ、勇者のつるぎのことだ。
「それで?」
「商人が襲ってきてね、めっぽう強く。元武闘家とは聞いていたが、これほどとは」
ガルバは商人との戦いを振り返っていた。
「勇者に恨みでもあるんでしょうか?」
俺はガルバに戦闘の意思がないことをより強く示すために、敬語で話した。
「わからん、初めて見る顔だからな。だが、私たちよりも先に潜った勇者たちはことごとく倒されている。その戦利品なのか、両腕を倒した後に、手刀で落とすのだ」
俄かに信じがたい。歴戦の勇者たちが、いち商人、たとえ元武闘家だったとはいえ、合計12名も打ち倒せるものなのか。
「ガルバ氏・シュレイン氏は、逃げて来たと?」
と聞くススムに
「いや、討伐命令は出てはいないが、勇者の権限で、倒してきた。この先に、商人の亡骸がある」
「勇者のつるぎは? 手に入れたのですか?」
おびき寄せるために使われたとされる勇者のつるぎ。商人は勇者たちを倒し、両腕を落とし、何をしたかったのか? 疑問が残る。
俺の問いかけに、巨体の勇者シュレインがやっと口を開いた。
「そもそも、そのようなつるぎは、なかったのだ」
シュレインは巨大剣を所在なさげに再び地面に突き刺して言った。
「それは、妙ですね。商人の持ち込みリストには確かに、勇者のつるぎ、が記帳されていますが」
ススムはスマホをスワイプしながら、商人が提出した持ち込みリストを表示させた。
「そんなもん、ウソだってつけるだろうに」
さっきまで寡黙だったシュレインが、やたらと口を開く。打って変わって、ガルバは沈黙している。
地面を這いながら、うめき声をあげる男の姿があった。俺はその声の主に近づいた。
「あの男を、、、信じては、、い、けない」
消え入りそうな声、俺にははっきりと聞こえた。背面の鎧が裂けている。斬撃。見たところ、硬そうで魔法塗装も施されているほど。そうやすやすと、割れたり、斬れたり、裂けたりするような代物ではない。「最後の勇者か、15人目の」
ススムがそう言いながら、手当に向かう。出血がひどい。止血を試みるも、鎧がぬがせられない。ススムは帰還の鈴で転送の手はずを整え、送り出した。
「ガルバ氏・シュレイン氏、あの勇者と面識は?」
「私たちが商人を倒したときには、いませんでしたね。商人に斬られて、どこかに身を潜めていたのかもしれませんね」
今更このタイミングで出てくるか? しかも、あの男? あの二人、あの男たちでもなく。【あの男】とは?
商人と思わしき男が倒れている。首を落とされている。首は見当たらない。魔物が食ったのか。切断面は鋭利だ。向かって左から右へと斬られている。斬りおわりに、テール?なるほどそうか。ここにきて、ロールプレイングゲームの知識が役に立った。
ガルバ、シュレインのどちらかが、あの勇者の背を斬り、商人の首を落とした。俺は、アシュフォード姫に商人の首切断面の画像を送り、さっき転送された最後の勇者の斬撃の痕と照合するように頼んだ。ものの1分もしないうちに
《同じ剣で斬られた跡だね》と返事が来た。
ということは、アイツが犯人か。というか、ミステリー要素が強まっているのが癪にさわる。ガルバかシュレイン、どちらかが犯人で、どちらかが脅されているというわけか。




