第4話・炎に包まれ、勇者死す
拳銃を撃つと、硝煙の臭いが手につくという話は、暗いところでピンスポットを浴びて鼻声で話す刑事ドラマで知った。証拠あばきとしては、つまらないのでそれだけで、自白に追い込むにはまだ泳がせる。
魔法は使うと魔力反応が出るらしい。世界は科学・医学か魔法かの選択を迫られたのが二十年前。時の権力者たちは、魔法を選んだ。当然だ、科学的・医学的根拠や理解がなくても、重力に反することもできるし、場合によっては死者を蘇生することだって可能だ。
俺たちはファンタジーネイティブ世代とも言われて、結果的に剣と魔法の世界に全く抵抗がない。ススムやモドリたちのように、産まれた時からスマホがあったのを、デジタルネイティブというらしい。似たようなもんだ。
それゆえ、ファンタジーネイティブ世代は、教わるだけで魔法が使える人が多い。自転車に乗れるか乗れないかぐらいの感覚で、乗れない人=魔法が使えない人も一定数はいる。
それ以前の世代はほぼ魔法は使えないと言っていいだろう。ドラゴンが家に住み着いているといっても、珍しくはあるが、クジャクを飼ってるぐらいの感覚。まぁ、その辺にはいないけど、もしかしたらいる。いても、まぁ、そこまで異常じゃないし、「佐藤さんの家、クジャク飼ってるんだってぇ。今度見に行く?」ぐらいの意識。
ダンジョンがある家となると少々話は変わってきて、まず市町村の許認可が必要だ。ウチみたいな歴史環境保全エリアだと、地上に対する規制は厳しいが、地下だとズブズブ。配管だけを注意してというレベルで、役所の立ち入り検査が半年に1回ある程度。
この前立ち入り検査に来た役所の人三人がダンジョンで行方不明になり、ススムが救出した。その時に役立ったのが帰還の鈴だ。
科学・医学よりも魔法を選択した各国首脳たちは、国土・大陸の名称や国境についても考え改めを求められた。ウッドバルト王国・リム王国・オーギュスター公国、ガダルニア王国、
平たく言えばアジア・ヨーロッパ大陸をウッドバルト王国に、
アメリカ大陸を北南あわせてオーギュスター王国に、
アフリカ大陸をガダルニア王国に
南極大陸、オセアニア大陸をリム王国に。
リム王国のアシュフォード姫は元オセアニア大陸出身だ。
と、まぁ、俺がメタ的に世界の整理をするのは、「それにしても、勇者とやらはどこから生まれてきたのか」という問題にいつも遭遇し、解決しないからだ。問いただしたい。あなたたちは、誰なのか? と。
先行して潜ったあのカップルも、片方は勇者でもう片方は僧侶だ。科学・医学を捨て、魔法を選択したなかで、勇者が産まれる必然性がないのだ。
魔法イコール、魔法使いと僧侶はわかる。何のために存在するかといえば、科学と医学に変わるリソースとしてだ。それだけの話のはずなのに。
同居人のドラゴン・龍蒼がウチに来たあたりから、世界には魔物や魔王なるものが存在するようになったのではないか?このファンタジー世界の必要悪のようなものだ。それらの反対作用みたいなものに、勇者が産まれた。
ヤクザと警察官、みたいな関係だ。どちらか一方が産まれれば、どちらか一方が打ち消しのために誕生する。ヤクザが先で、警察官が後だが。警察官が先に産まれ、それにこたえる形で、ヤクザが産まれたってことはあるのか? あるかもしれないな。どっちが先で世界の描かれ方も変わるはずだ。
「牛白よぉ、オマエさぁ、思ってること、口から出てるんだけど、なんとかしてくんないか?」
ススムが周囲を見渡しながら、小声で言った。どうやら、勇者カササギと僧侶ノバラの近くにたどり着いたようだ。
「ごめん、聞こえてた?」
「あぁ、ずーっとブツブツ話してたからな、面白いから聞いてた」
ススムは続けた。
「この世界は、勇者先って言ってな、勇者の方が先に誕生したんだぞ。仕事にあぶれた警察官・自衛官、他国じゃぁ軍人だな。あと傭兵とか、たまにテロリストも転身したと」
「マジか」
「勇者って、勇敢なる者って意味だからな。いい人ってわけじゃないぞ。勇敢ってのは、無謀とも言うしな」
「勇者って、いいイメージじゃん。悪いやつらぶっ倒すってかさ。魔物も魔王も倒すんだろ。ほら、悪ってやつを」
「いったいオマエ、幾つなんだよ。正義と悪の視点が直列だな」
「だって、勇者って正義の味方だろ」
「危うい言葉使うねぇ。だいたいさ、このダンジョンの魔物、ワシが作ったけども、悪なのか?」
ススムは勇者カササギ・僧侶ノバラの探索そっちのけで、俺への教育的指導に熱が入っている。
「そりゃぁ、魔物っていえば悪だろうに」
「このダンジョンは、先住権でいえば魔物たちにあるだろ。そこに侵略・侵入してきているのは誰だよ」
ススムの語気は荒い。
「勇者たちか…」
「魔物にとっちゃぁ、勇者は悪よ。魔王は英雄ってことだ」
「わかったよ」
俺は半ば不貞腐れ気味に返事した。
ススムが俺の口を手でふさぐ。
「静かに、ほら、あのちょうど冷蔵庫の増したにあたる、あの角のところ」
「ここ地下6階だぞ、ダイニングの間取りで位置説明すんなよ」
「わかりやすいだろ、ほら。あそこにいる」
横たわる足が見える。誰だ? あの足は。次の瞬間、横たわる足が発火した。魔法だ。足がみるみる炎に包まれる。誰が燃えているんだ?危険を承知で足もとから顔が確認できる位置まで回り込む。ちょうどリビング側のソファーのある場所。勇者だ、勇者カササギが炎に包まれている。
火炎系の魔法による死亡理由第一位は、窒息死だ。火傷ではない。周囲の酸素を炎が消費し、熱風が肺に入り込み、肺を焼き切る。そのため窒息死するのだ。火事の死亡理由は火傷が一位だ。放火現場の5人の死亡理由は全て窒息死だった。直接火炎魔法をぶつけられたのだろう。
「父さん、これまずいんじゃ」
「そうだな、ワシもお前も回復魔法は使えんし」
「あの僧侶ノバラは?」
「あそこに突っ立っとるな」
「いや、あれは、回復魔法の詠唱中だよ」
ススムは魔法学を学んだことはない。俺たち世代はある。彼らが学生時代 “情報”なる科目ができたように、俺たちは中学生になると魔法を学問化して学ぶ。選択制だが、入試問題にもなっている。
「父さん、あそこほら、龍蒼」
地下10Fにいるはずのドラゴン、龍蒼が燃え盛る勇者の側、僧侶ノバラと対面する形で奥側にいる。リビングで言うと、テレビのある位置。テレビとソファー位置に対峙している。
「大丈夫か?帰還の鈴で戻れば。そうだ、アシュフォード姫に回復してもらえば」
俺の提案に耳を貸すことなく、僧侶ノバラは、回復魔法の詠唱をやめ、震えながら返事した。
「もう、手の施しようもなく。勇者カササギは亡くなりました」
「そんな」
「手遅れか」
俺に続いて、ススムが落胆する。
「このドラゴンが出会い頭にブレスを放って」
「そんないきなり攻撃せんだろうに。それに…」
ススムは龍蒼を明らかに庇っていた。それにの後が続かないのが説得力を欠く。
「出会い頭にブレスなんて吐けませんよ」
俺がそう反論すると、僧侶ノバラは
「勇者カササギが、そのドラゴンの逆鱗を触ってしまって。それで炎が」
「どうして勇者カササギだけが燃えたんだ?」
俺の問いに、呆然としていた龍蒼が割って入る。
「いや、やってねーよ。ブレスなんて」
「わかってる」
ススムは龍蒼を優しく撫でた。
俺の目の前には
・炭化した勇者カササギ、
・回復魔法で救助を試みていた僧侶ノバラ、
・ブレスを吐き勇者カササギを殺害した容疑のドラゴン/龍蒼
・前田ダンジョンのオーナーである、父/前田ススム
がいる。
炭化による死亡は、伝説の蘇生魔法でも生き返ることはないだろう。蘇生魔法の原理は、残った細胞から複製しなおすというものだからだ。出血死はもちろん、凍結死、中毒死、の類は蘇生魔法の救命範囲だが、炭化死を蘇生した例を聞いたことがない。
ススムの提案で、俺以外全員帰還の鈴で、地上階に戻ることとなった。俺は現場の証拠写真の撮影を命じられた。
回復魔法しか使えない僧侶ノバラが火炎の魔法を使うことはできないだろうし、龍蒼がブレスで炎を発現させて、勇者カササギを殺害したと考える方が正しいのだろうか。いや、龍蒼みたいなヤツが人を殺せるはずもない。龍蒼がやってないてば、と叫びまくっている。相変わらず大きな口だ。
ススムが龍蒼に「わかってる」と言って、ブレスを吐いていないと信じた理由が。それでも、僧侶ノバラが犯人ならどうやって火炎魔法を。実は賢者だったってこともないだろう。僧侶には炎はおろか、氷や雷、水系のエレメント魔法は詠唱できない。
俺は、現場の写真をいくつか撮影してから、遅れて帰還の鈴で戻った。やっぱり、僧侶ノバラが犯人だ。近隣の火事も。




