第3話・怪しい勇者カップル
ダンジョンは意図してか、ススムの好みも反映して仕掛けが多い。15坪の家、その地下にあるダンジョン。隣家の地下に延ばしてはいけない。
ススムと二人きりでダンジョンに潜るのは初めてのことだ。高校二年生あたりから会話も少なくなった。そのススムが誘ってきたのだ。そもそも親子でダンジョンに潜るなんて、「潜る」「ダンジョン」で調べても用例として出てこないだろう。辞書の話だ。
10Fのダンジョンなんて、誰が考えたんだよ。と文句を言いだしたのはススムだった。
「牛白、今どこだ?」
今どこだ?と言われても、3Fとしか言いようがない。地下3F、魔物が勝手に住み着いている。そもそも論だが、魔物ってなんだ?ドラゴンを平気な顔して受け入れたものだから、姫がさらわれてこようが、勇者が息巻いて奪還しに来ようが、あまりきにしてなかった。が、魔物ってなんだ。ゴキブリみたいなものとも言えない。ススム曰く
「魔物のタネ、ほら、水に溶かして、アレ」
本当に生物学者なのか。「シーモンキー」と俺が吐き捨てるように言うと、そうそうそれ、と記憶にヒットしてススムは喜んだ。
「あの水に溶かすみたいなのをだな龍蒼の唾液から生成してだな…」
ススムが語り始めると長い。要は、龍蒼のドラゴンの唾液、龍唾を石灰化して、そこに含まれる微生物を抽出して、魔物を生成したらしい。できるのか? できたようだが。
「独自の進化を遂げたというわりには、さっきから随分とゲームチックな魔物ばかりだな」
暗いダンジョンで俺の声がやけに通る。
「それよりもだ、あの勇者カップル、どこまで行ったんだろうな」
「どうして、あとをつけることにしたんだよ」
俺の問いかけにススムは、
「そりゃぁ、あの二人のうち、どっちかがヤバいやつだからだ」
「ヤバいヤツ?」
「そう、この辺一帯で起こってる、事件知ってるだろ」
ススムは俺たちの住むキサラギ市で起こっている放火事件について話し始めた。明らかに放火と思われる事件が、毎日のように起こっている。それも、最近リノベーションをした家ばかり。俺たちの家も、放火のターゲットになりうるということらしい。
その放火魔が、あの二人のうちのどちらかだと言うのだ。そんな馬鹿なことがあるだろうか。勇者パーティー、といってもカップルみたいなものだが。
火をつけた痕跡がない、おそらく「魔法」によるものではないかというのがススムの見立てだ。この放火では9件の家が全焼しており、うち5人が亡くなっている。
地元警察だけでは手に負えなくなり、広域での指名手配ということで、隣県の県警も放火魔逮捕に向けて、捜査にあたっている。
「突拍子もなさすぎるだろ。魔法をつかって放火だなんて、警察じゃぁ手に負えない」
「もちろん、だから、このダンジョンという罠でおびき寄せたんだよ」
「どういうことだよ」
「勇者一行ってのはな、名誉・金・経験値まぁ強さだな、を欲する。飽くなき渇望者だ。あいつらは水筒を持たない。比喩だぞ。手で水を掬って、旅に出ようとする」
「零れ落ちるだろ」
「そう、手が濡れるだけとも言う」
ススムは続けた。
「だから、いつまでもいつまでも、水を手で掬う」
「つまり、行動を改善しないということ?」
「その通り、固執するのさ。奴らは」
方法に囚われる? 確かにそうだ。リフォーム前にも何人もの勇者が来たことがあるが行動パターンが決まっているのだ。彼らは、探索し、調査し、すみずみまで歩みを進める。それは、地図を作っているかのようにも思える。未踏の地をつくらない、勇者たちのその定型行動パターンで、これまでは撃退にも成功してきた。
ダンジョンを自前でつくるにあたって、勇者からは入ダンジョン料をせしめて、まるで山の管理人のようにふるまっているが、その実は勇者たちの中に紛れ込んだ犯罪者を見つけ出すつもりのようだ。
よく考えてみろよ、とススムは言う。魔物とて、殺していいなんて法はないからね。
生物学者である前に、人道を追求すると言うススムに、そもそも魔物はアンタが作ったものであり、魔物は人ではないからね、と言ってやりたいがどうにも逆鱗に触れそうでやめた。
逆鱗と言えば、龍蒼の首下の柔らかいところ、顎下にある。モドリがうっかり触れたら、怒髪天を衝くかのごとく、激怒したらしい。そのあと、モドリはいくらなんでも母親に!と龍蒼の五倍は怒ったという。




