#04:文化祭の前夜
高校生編の短編連作です。
2014年 秋
いつもなら誰もいない時間の校舎。
今日は特別だ。
廊下のどこかに、まだ熱気が残っている。
鍵は開いていた。
電気は時間で落ちるらしい。
懐中電灯を点けるのも、みんな慣れた手つきだった。
真っ暗な音楽室。
懐中電灯の輪が譜面を切り取る。
床に靴底と譜面台の金属音。
窓の隙間から冷気が一筋入り、紙の端が揺れる。
「おつかれ」
袋が裂け、缶がカランと鳴る。
「ほら、陽子も」
掌で冷たさを確かめ、縁を指でなぞる。
『うん、乾杯』
カラン。唇が缶に触れる。
ピアノの低い音が静かに伸び、床の音と缶の余韻が重なる。
懐中電灯の輪が移り、譜面の白が連なる。
譜面に指を置いたまま、足先で軽く拍を取る。
誰かの鼻歌が短く漏れ、すぐに消える。
光と音と冷気が、同じ場所に集まっている。
缶をもう一口飲み、譜面の端をそっと直した。
表情がほんの少しだけ変わった。
次話:#05:文化祭の朝
2026/1/21 20:00に更新します




