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『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~ハーメルン編~  作者: バニラ味一択


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8/10

第八話:高速バトル

【訂正のお知らせ】

・「第六話:略取」内の、拳銃使用理由を、緊急避難から正当防衛に訂正しました。



 派出所から最も近い転送ポイント。そこから実体化した黒鉄のバイクが、エデンの静寂を切り裂いて飛び出した。

 ジンの荒々しいアクセルワークに応え、エンジンが咆哮を上げる。時速200キロを超える世界。

 流れる景色は光の線となり、凄まじい風圧がルナの体を押し潰そうとする。


「いた……! あそこよ!」


 ルナが叫ぶ。前方、火花を散らしながら執念でワイヤーを離さないワク。そしてその先で猛スピードを維持する異形の塊――ヤリス。


「真後ろはヤバい、奴の毒(排気)をまともに食らう! 横から並ぶぜ!」


 ジンが巧みに進路を変え、ヤリスの斜め後方へと肉薄する。走行風によってヤリスの放つ不快な不協和音と煙は後方へと流され、ルナたちの意識は辛うじて保たれていた。


 ボロボロになり、アスファルトを削りながらも、ワクはジンたちの接近を冷静に視認していた。


「……ルナ!拳銃はあるな!?」


 通信を介さず、風の合間を縫うようにワクの声が届く。


「……ヤリスを撃て!」


「えっ……私、私が撃つの!?」


 ルナは震える手で、ポケットからワクの拳銃を取り出した。両手で必死に構え、ヤリスの気筒がうねる背中に狙いを定める。


「当たって……!!」


――乾いた銃声が三回、夜の高速道路に響いた。だが、弾丸は虚しく空を切り、ヤリスの周囲の路面を跳ねるだけに終わる。


「ルナ! 一度に撃ちすぎだ!!」


 データ損傷を続けるワクの声が鋭く飛ぶ。


「……弾は五発だぞ! ……残りはあと一発だ!」


「えっ、あ、あと一発……!?」


 ルナの背中に冷たい汗が流れる。たった一発。失敗は許されない。


「ハハハ! 射撃訓練はしていないのかな!?」


 ヤリスが嘲笑い、背中の気筒をルナたちへ向ける。


「お返しだよ、……これを喰らいたまえ!」


 気筒の先端から、圧縮された排気と共に生成された黒い結晶の礫が散弾のように放たれた。


「クソッ、走行中のポイ捨ては駄目だろ! それでもお前教師かよ!」


 ジンはバイクを左右に激しく倒し、飛来する結晶の弾幕を神業のようなハンドル捌きで回避していく。

 高速道路の分岐点、工事用のスロープが目に飛び込んできた。ジンは迷わずアクセルを全開にする。


「ルナ! チャンスを作る……外すんじゃねえぞ!!」


 バイクがスロープを駆け上がり、重力を振り切って宙を舞った。月を背負い、ヤリスの頭上を越える放物線を描く。

 着地と同時にタイヤをスライドさせ、バイクはヤリスの真正面――文字通りの「逆走」状態でヤリスと正対した。


「ルナ! 今だ! やれ!!」


「ええ! ……当たれぇ!」


――ドンッ!!!


 ルナは祈るように引き金を引いた。最後の一発。







 しかし――無情にも弾丸はヤリスの肩を掠め、夜闇の向こうへと消えていった。


「ハハハハ!! 外れだ! 全て外れだ!!」


 ヤリスの狂ったような高笑いが響き渡る。


「私の勝ちだ! 運命は、完璧な私に味方した! 皆さん、ごきげんよう!私はミカさんを連れて、このまま――」



 ヤリスが勝利を確信した、その瞬間だった。


 遥か上空、エデンの月を背負い、一筋の銀色の「線」が降臨した。

 それは、巨大な、あまりにも巨大な金属製の槍だった。

 重量感のある大槍は、音速を超えてヤリスの進行方向、わずか数メートル先のアスファルトに垂直に命中した。




――ドゴォォォォォン!!




 衝撃波が高速道路を粉砕する。アスファルトが巨大な花のように捲れ上がり、ヤリスの巨体を容赦なく跳ね飛ばした。

 直後を走っていたジンのバイクも、その爆風と瓦礫に巻き込まれ、猛烈な回転と共に吹き飛ばされていく。







 視界が白く染まる中、ルナが最期に目にしたのは――。

 大地に深く突き刺さった銀の大槍が、青白い光を放ちながらドロリと溶解を始め、まるで最初から存在しなかったかのように消えていく姿であった。



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