第三話:学園内での捜査
派出所を拠点に、学園内での本格的な捜査が始まった。だが、その足取りは重かった。
ルナとワクは、エヴァから与えられた特権IDを使い、行方不明になった少女たちの周辺を洗っていた。彼女たちが座っていた机、使い込まれたロッカー、そしてクラウド上に残された学習ログ。
「……何も出ないわね。みんな、まるで最初から存在しなかったみたいに綺麗に整理されてる」
ルナが溜息をつく。聞き込みをしても、友人たちは「あの子? 急に退去しちゃったみたい。残念だけど、エデンの外で元気にやってるんじゃないかな」と、AIに調整されたような無機質な回答を繰り返すだけだ。
特筆すべきは、行方不明者の共通点だった。
彼女たちは皆、成績優秀で、かつ目立った友人関係を持たない「孤高の優等生」ばかりだった。頼れる身内も少なく、学園というシステムの中で、彼女たちの居場所は極めて限定的だったのだ。
ワクは、少女が最後の日まで使っていた机の前に立ち、無言で指先を這わせていた。
「……痕跡はゼロだ。……だが、不自然だ」
「何が?」
「彼女たちは、いなくなる最後の一週間、『誰か』から一方的にミュートされている」
行き詰まる二人に、脳内のエマが静かに語りかけてきた。
『ルナ様。……通常のログ解析ではAIであろうと他者の個人情報を閲覧することはできません。ですが、この机のローカルメモリに蓄積された「残留思念……いえ、微細な操作履歴の断片」を深層から復元すれば、何か見えるかもしれません』
「そんなことできるの?」
『……推奨はされませんが、本部長から付与された最高権限があれば可能です。解析プロセスを開始します』
ルナの視界が、一瞬だけノイズに包まれた。
エマがシステムの最深部へ潜り、机を操作した際の入力記録から、少女たちの最後の叫びをサルベージしていく。
やがて、網膜に浮かび上がったのは、宛先に届くことのなかった、何通もの「未送信メッセージ」の断片だった。
復元されたログは、どれも支離滅裂で、激しい愛執を伴っていた。
『先生、どうして会ってくれないんですか? メッセージ、読んでくれてますよね?』
『私、先生に言われた通り、他の子たちとの繋がりを全部捨てました。私を見てくれるのは、先生だけだって信じてるから』
『お願いです、一言だけでいい。私の名前を呼んでください。ミュートを解いてください。……先生、愛しています……!』
ルナはそのテキストを追いながら、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
相手から存在を消されていることに気づかず、あるいは絶望しながら、彼女たちは最期までその先生へ愛の言葉を綴り続けていたのだ。
「……こいつだ。エマ、この『先生』って誰?」
『……照合完了しました。……学園の教師、ヤリス。……最も高い学習実績を持ち、生徒たちからの信頼も厚い優秀な教師です』
その名前が読み上げられた瞬間、ルナは自身も登校している学園の教師の顔を思い返す。
「ヤリス……。あんなに優しそうな先生が?」
「……ヤリス。……不可解だ。あの男に、異形化の予兆である『魔』は存在しなかったはずだが」
ワクが小さく呟き、警棒の感触を確かめた。
少女たちが最後に縋り、そして拒絶された人物。
その正体を突き止めたのとほぼ同時に、ルナの通信端末にミカからのメッセージが着信した。
『ねえルナ! 私、ヤリス先生に成績アップの相談に乗ってもらえることになったの! 明日、一緒に会ってみない?』
心臓が、嫌な音を立てて跳ねる。
次の標的は、ミカ。
完璧な楽園のテクスチャの下で、怪物の舌が、ルナの親友に伸びようとしていた。




