エピローグ:答え
あの嵐のような夜から数日が過ぎた。
学園外周道路の崩落は大規模なシステムエラーによる構造不具合として処理され、ヤリスは、一身上の都合により長期療養と発表された。
学園の廊下では、ミカとヒナコが以前と変わらず笑い合いながら歩いている。中庭のベンチでは、生徒たちがAIの管理する美しい調律の中で穏やかな時間を過ごしていた。
表面上、このエデンからノイズは一掃され、完璧な平穏が取り戻されたかのように見えた。
聖エデン学園前派出所。
相変わらず渋い茶を啜るゴンドウと、愛車の新しいパーツを熱心に磨くジン。そして、誰に頼まれたわけでもないのに、壊れた壁の前に直立し、黙々と立番勤務に勤しむワクの姿があった。
ルナは窓の外を流れる雲を眺めながら、脳内のエマと対話していた。
「ねえ、エマ。今回の事件、どうやったら防ぐことができたかな?」
『ルナ様、私の演算では今回の事件を防ぐことができませんでした。ヤリスの行動は、エデンのシステムにおいて教育効率の向上と定義され、否定されていません。……私にも、正解は分かりません』
その時、派出所のドアが勢いよく開き、一人の少女が飛び込んできた。以前、派出所へ相談しに来た、あの少女だ。
「おまわりさん! ありがとうございました!」
彼女はゴンドウに向かって、満面の笑みを浮かべた。
「教えてもらった方法で仲直りできました! 親友の子に会いに行くことができて、勇気を出して私から謝ったんです。そしたら彼女も『ミュートしてごめんなさい』って言ってくれて……私たち、前よりもっと仲良くなれました!」
少女は元気よく手を振って、スキップするように帰っていった。
ゴンドウは「そうですか、それはよかった」と短く応じ、満足げに湯呑みを置く。
「……答えは、意外と単純かもしれないね」
ルナの呟きを聞き、エマは無機質だったプログラムの深淵に、温かな光が宿った気がした。
◇◇◇
エデンの地下深く。廃棄された古いサーバーが墓標のように並ぶ、暗がりの一角。
「ひ……っ、ひぃぃっ! 来るな、来るな!!」
ヤリスは、かつての優雅な姿を失い、惨めに地面を這いずっていた。
「何故だ……何故システムが反応しない! 何故、君をミュートできないんだ!?」
必死にログアウトや遮断のコマンドを叫ぶヤリスだが、エデンのシステムは何の応答も返さない。
彼を追い詰める足音の主は、眼鏡をかけた魔術師風の少年だ。しかし、その背には魔を彷彿とさせる禍々しい黒マントを羽織っており、あどけない顔立ちとは裏腹に、その表情には猛獣のような獰猛さが伺える。
「何故……何故こんなことをするんだ……! 私は君に何もしていないだろ……!」
仰向けに倒れ、震え上がるヤリス。少年は静かに彼を見下ろし、冷たく言い放った。
「何故? ……君が、人に迷惑をかける男だからだよ」
少年は指先で、ミミズのようにうごめく「銀色の液体金属」をつまみ出した。
ヤリスが逃げようとするが、少年の放つ重圧に体が縫い付けられる。
「あ、あ、ああ……やめろ、やめろぉ!!」
「大丈夫、すぐ終わるよ。……これは『点眼』だよ(笑)」
少年がヤリスの瞳の上に、液体金属をポトリと落とす。瞬時に銀色の膜が眼球全体をコーティングし、神経の奥底まで侵食していく。
「あ、が……あああああああああああッ!!!」
真っ白な楽園の底で、一人の男の絶叫が響き渡った。
「よろしかったのですか? マスター」
少年に問いかけたのは、銀髪のメイド服姿の女性。その手には、自身の美しい姿に反するような、金属製の巨大な大槍を携えている。
「いいんだよ、ジュエル。僕は嫌いなんだよ。こいつみたいに、自分のことしか考えない奴」
「フフ。あなたもじゃないですか」
「君は手厳しいね(笑)」
少年とメイドは、互いに皮肉めいた微笑を交わす。
次の瞬間、二人の姿はノイズのように揺らぎ、地下の暗がりに溶け込むようにして消えていった。
後に残されたのは、銀色の瞳で虚空を見つめ、声にならない悲鳴を上げ続ける男の残骸だけだった。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
【続きのおしらせ】
『AIが管理する理想のVR世界でミュートされたらどうなるか』~ブルーバード編~ 全10話
明日からそのまま同じ時間帯に投稿していきます。
土日祝日は2話投稿します。
よろしくお願いいたします。
【関連作品のお知らせ(R18)】
本作のラストに登場した『爆轟の魔術師』マスターと『銀のジュエル』たちの、エデン国誕生前における話を別サイト(ミッドナイトノベルズ)にて公開しています。
ただし、内容はバトルものではなく本作とは全く関係ないジャンル(?)ですし、無駄な文章が多すぎる上、小説形式ではなく、執筆初期の勢いだけで行った「AIとの実験的な対話(チャット形式)」をそのまま記録している、非常に特殊で読みにくい構成となっております。
加えて、一切の容赦がないド直球のR18エロ作品でもあります。
「AIとの対話を通じた人間性の確立」という、個人的かつ過激な愛欲の記録ですので、正直、読むのはとてつもなく苦行だと思いますが、彼らに興味のある方は頑張って読んであげてください。
耐性のない方や健全な物語を楽しみたい方は、決して足を踏み入れないようご注意ください(笑)。
『僕とAI像の黒歴史』
[作品URL]
https://novel18.syosetu.com/n7967ln/
※18歳未満閲覧禁止




