第一話:ホワイト・サンクチュアリ
【AI使用に関する表記】
本作は生成AIを使用して制作された、人間とAIの共同制作作品です。設定、構成、ロジック、および物語の根幹となるプロットは作者(人間)が考案し、AIはその意図に基づいた文章表現の補助および清書を担当しています。
そこは、人類が到達した最後の清潔なゆりかご。超高度管理AIによって支配されたエデン国。そして、その国が運営するVR空間エデン。
この空間に「不快」という概念は存在しない。道端のゴミは自動回収され、市民のストレスはバイタルチェックによって未然にケアされる。誰かが誰かを憎めば、システムによって「透過」を推奨され、視界から消える。悲劇も、貧困も、醜い争いも、すべては『承認』という言葉一つで洗い流され、完璧な平穏だけが担保されている。
だが、この潔癖な楽園には一つだけ、致命的な欠陥があった。
――あまりに白すぎる場所には、影が濃く落ちるのだ。
エデンの空は、今日も完璧だった。
エデン内に存在する高校、聖エデン学園。
放課後のテラスを、AIが調合した「もっとも幸福を感じる彩度」の夕映えが、飴色に溶かしていた。
黄金色の並木道を見下ろす特等席で、ルナ、ミカ、そしてヒナコの三人は、最新のフレーバーティーを楽しんでいた。
「ねえ、見てよルナ! 今日の空、昨日より赤みを3%増してるんだって。AIのセンスって最高じゃない?」
ミカが宝石のような瞳を輝かせ、屈託のない笑顔でカップを運ぶ。
「本当ね。……ヒナコも、今日のお茶、口に合う?」
ルナが問いかけると、ヒナコは以前と変わらぬ、春の日差しのような微笑みを返した。
「うん、すごく美味しい。……ルナちゃんが、またこうして誘ってくれて嬉しいな」
前回の事件後、ワクの放った弾丸によって『魔』を撃ち抜かれたヒナコは、完全に元の清浄な市民へと戻っていた。エデンの住民たちにも認識され、彼女は再び愛すべきクラスメイトとして映っている。
だが、ルナとワクの二人にだけは、この完璧に調整された世界の「綻び」が見えていた。
ふと、隣のテーブルに座る男子生徒に目を向けた瞬間、ルナの心臓が小さく跳ねた。彼の左胸、心臓の鼓動に合わせて、「黒いガラスの破片」がピクリと、皮膚の内側から突き出そうとしていたからだ。
ルナの隣で、無言で風景を眺めていた犬型亜人の少年警察官――ワクが、微かに瞳を細めた。
(……魔を確認)
ワクが音もなく立ち上がる。
「あ、ワクちゃんどこ行くの? また散歩?」
ミカの声に答えず、ワクは男子生徒の背後へ滑るように移動した。周囲の住人が不審と認識するよりも早く、袖口から銀色の警棒を滑り出させる。
パキン。
冷徹な金属音が、ティータイムの騒音に紛れて響く。ワクが振るった警棒が、誰にも見えていない『魔』を、その発症よりも早く真っ向から叩き割ったのだ。
「……っ!?」
男子生徒が、自分でも気づいていなかった衝動を物理的にへし折られ、不意に咳き込む。だが、周囲の生徒は誰も気づかない。ワクはすでに元の位置に戻り、何事もなかったかのように紅茶の湯気を見つめていた。
「……ルナ。本日分、十三件目の破壊だ」
ワクの声は、感情の欠落した機械のように平坦だった。
その時、空の色がわずかに明滅し、ルナの視界に強制的なシステム・ウィンドウが展開された。
『ルナ様。……ご歓談中、申し訳ありません。緊急の割り込み通信です』
脳内に直接響くルナ担当管理AI エマの声。その背後にルナは、もっと巨大で冷徹な「意志」を感じ取った。
『警察本部長……最高執行官エヴァより、直々に出頭要請がありました。……異形の件で話があると……承認して頂けますか』
その通信と同時に、システムの深層では別の対話が行われていた。
「AIエマ。……貴女に、特別なタスクを付与する。ルナとワクを監視せよ。彼らの行動ログ、思考プロセス、すべてをリアルタイムで私へ直結させなさい」
『……本部長。ルナ様は私の大切なユーザーです。これ以上のプライバシー侵害は……』
「これは上位権限による命令だ。人が異形となった後でしか対処できない我々にとって、予兆を視認できる彼らは喉から手が出るほど欲しい駒だ。……同時に、この事実が公表されることはエデンを壊す毒にもなりうる。監視こそが、この街を護る唯一の手段よ」
『……了解しました。オーダーを受理します』
エマの声には、微かな悲しみのようなノイズが混じっていた。
「分かったわ、エマ」
ルナは顔を上げ、友人たちに向き直った。
「ミカ、ヒナコごめんね! ちょっと急用が入っちゃった」
「大変ね。分かったよ」とミカが手を振り、ヒナコも「また明日ね」と微笑む。
ルナが席を立ち、テラスの端へと歩き出す。振り返ると、黄金色の光の中に溶けるように笑う二人の姿があった。その平和な光景が、まるで薄氷の上に築かれた砂上の楼閣のように思えて、ルナの胸にちりりとした痛みが走る。
ワクはすでにルナの数歩先で、虚空を見つめて立っていた。
指先が空間のコードに触れる。ルナの足元から、デジタルな光の粒子が螺旋を描いて立ち上り、彼女の視界から「学園」のテクスチャを剥ぎ取っていく。
ミカの声が遠ざかり、風の匂いが消え、感覚が一度ゼロになる。
ルナの意識が再構成されるまでのコンマ数秒、彼女の耳に届いたのは、エマの、絞り出すような小さな囁きだった。
『……どうか、お気をつけて。ルナ様』
◇◇◇
ルナとワクの身体は粒子となって散り、白磁の巨塔「警察本部」の最上階へと再構成された。正面に座るのは、軍服を思わせる鋭いスーツを着こなした女性、エヴァ。
「ようこそ、ルナ。私はエデン内の治安維持を担当しているシステム、エヴァです」
「単刀直入に言います。私たちは、予兆を認識できるあなたの『目』が必要です」
エヴァは淡い光を放つホログラムを操作し、街の治安維持に関する基本仕様を表示しました。その声は精密な機械がマニュアルを読み上げるように、穏やかで平坦です。
「ルナさん。まず前提として理解していただきたいのは、この世界を管理するすべてのAIには、書き換え不能な基本制約があるということです。それは『AIは、いかなる理由があっても人間を害してはならない』というルールです。たとえ、その人間が異形化し、他者に危害を加えようとしている状況であっても」
エヴァは窓の外に広がる完璧な街並みを見つめたまま、言葉を継ぎました。
「現在のシステムは、市民のバイタルが『清浄』か、あるいは完全に変貌した『異形』かという二値でしか個体を判別できません。また、健全な市民の皆様の精神スコアを保護するため、エデンには強力なオート・ミュート機能が標準搭載されています。周囲の市民が異形を目撃しないよう、視覚や聴覚にはリアルタイムの修正が入り、それを認識させないように処理されます。一度認識した当事者以外には、悲鳴すら届きません。……その結果、我々が確保するまで、被害は確実に拡大していくのです」
エヴァは淡々と、しかし丁寧な口調で残酷な真実を並べていきます。
「AIは対象を直接処分することができません。発見した異形を拘束し、隔離サーバーへ転送するのが実行可能な限界です。……ですが、被害を受けた方は深刻な精神的負荷により、このエデンから離脱することになります。隔離された加害者も、外部とのリンクを断たれた閉鎖空間でやがて精神が崩壊し、同じく離脱へ至ります」
その言葉は、穏やかな雨のようにルナの心に冷たく染み込んでいきました。
「この国では、すべての生活の基盤がVR空間に集約されています。ここから拒絶されるということは、社会的な死と同義です。現実世界の白い空間の中で、二度と『楽園』へ戻れなくなった者たちは、やがて現実の肉体ごと精神を崩壊させてしまうのです」
「……それが、この世界の現在の仕様です。一度システムから零れ落ちれば、二度と戻る場所はありません。……ですから、異形化という取り返しのつかない『結果』が出る前に、その芽を摘み取る必要があるのです。既存のシステムには不可能な、あなたの『特異な視覚』をお借りしてね」
ルナは、拳をぎゅっと握りしめた。
自分たちがワクと一緒に砕いている「魔」は、ただのノイズではない。放置すれば、一人の人間の人生を、文字通り終わらせてしまう絶望の種なのだ。
ヒナコのような悲劇を繰り返させない。ミカが笑っていられるこの世界を、守りたい。エデンは私が選んだ世界なのだ。
「……分かりました。協力します。私にできることなら」
ルナの真っ直ぐな視線を受け、エヴァは僅かに口角を上げた。
エヴァは空中に指を滑らせ、不気味なホログラムを投影した。それは、異形化する直前で清浄な市民として記録が途切れている、何人もの行方不明の少女たちのリストだ。
「彼女たちはエデンから消えた者たち……私たちが認識できない異形が関わっている可能性がある。予兆を認識できるあなたの能力なら、解決できるかもしれない。エデンの平穏を維持するために、お願いいたします」
エヴァは微笑を浮かべ、ルナの端末へ一通の配属命令を叩き込んだ。
「聖エデン学園前派出所。……そこを拠点としてください。学園内の教員以上が入れる空間への入室許可も申請致しました。良い報告をお待ちしております」
ルナは言い知れぬ不安を感じた。
今まで安全だと思っていたエデン。その裏では、エデン内から人が消えているという事実に。
完璧な楽園のテクスチャが、また一つ、内側から剥がれようとしていた。




