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なろうラジオ大賞7

風鈴を鳴らす夏の風

作者: 四葉ひろ

 北の領地の夏は短い。


 だが、体を動かすのが大好きなリュシーにとっては、最も好きな季節だ。まあ、落ち着いてここで夏を過ごすのは今年が初めてだけれど。

 だからこそ、夏をとても楽しみにしていたのに、なのに……。


「奥様、起きられそうですか?そろそろ何か召し上がりますか? フルーツやスープをお持ちしますね」


 メイドの声がする。お腹は空いている。フルーツもスープも美味しそう。

 でも――。


「うー、眠い…」


 最近、リュシーは眠くて眠くてたまらない。寝ても寝ても眠くて、せっかくの夏をちっとも楽しめていないのだ。


「うーん、あとちょっとだけ寝るわ。用意だけ――お願い……」


 そのままリュシーは再び眠ってしまった。



 チリンチリン


 涼やかな音で目を覚ます。

 今度こそ目を開けると、自分の顔を覗き込んでいる夫と目が合った。


「ジェルマン様」

「ただいまリュシー。起きられそうか?」


 リュシーは頷くとそっと体を起こした。

 春先にお腹に子どもがいることがわかって、夏になる頃からは眠くて眠くて仕方ない。

 そんな妻を夫であるジェルマンはたいそう心配していた。


 仕事もなるべく近場で済ませていたが、先週、どうしても父伯爵の領地まで行く必要ができたのだ。王都で騎士まで務めたジェルマンは、早馬で行ってすぐ帰ってくると言い張ったが、従者が付いていけない。

 リュシーも説得して、渋々、不在にすることになった。


「ジェルマン様、お帰りは明日では?」

「ああ。皆は明日帰るよ。俺は馬の方が性に合うからな」

「まあ」


 リュシーは呆れたが、一刻も早く自分に会いたいと思ってくれたのは嬉しかった。


「起きたなら何か食べた方がいい。スープは温め直して、フルーツから食べようか」


 チリンチリン


 果物を差し出す夫越しに窓に何かが光っているのが見えた。

 リュシーの視線に気づいたジェルマンが笑う。


「あれか? 伯爵領にバザールが来ていてな。東方のガラス細工だそうだ。少しでも外を感じられたらいいだろう?」


 窓にかかるそれはガラスを丸く加工して綺麗な柄をつけたもので、風が吹くたびに軽やかな音を鳴らしていた。


「嬉しい! 夏の気持ちいい風が歌っているようですわ」


 歓声を上げた妻に目尻を下げて、ジェルマンはそっと果物を彼女の口に入れたのだった。

ありがとうございました!お楽しみいただけたら嬉しいです。

これだけも読めるようにしたつもりですが、実は過去に書いた「おてんば令嬢の憂鬱」

https://ncode.syosetu.com/n0564hk/

の後日談です。よろしければ合わせてどうぞ。


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