同じ泡沫
私の友達はいつも言っていた。
ネット恋愛なんて絶対に信用できない。
顔も知らない相手に好きなんて言われても気持ち悪いし、文字だけで人を好きになるなんて、どう考えてもありえない、と。
私はそれを聞くたびに、まあそういう考えもあるよね、と適当に相槌を打っていた。
正直に言えば、私もネットの関係には多少の不安があるほうだったし、友達の言うことにも一理あると思っていた。
でも、ネットが当たり前の時代になったこの世界で、それを完全に否定してしまうのも、どこか無理がある気がしていた。
そんなある日。
放課後のカフェで、友達が当たり前のようにスマホを開いて、何かを眺めていた。
私はそれを気にもとめずに飲み物を吸っていたけれど、ふと横から見えた画面のアイコンに目が止まった。
画面の一番下に、色鮮やかなハートのマーク。
それは間違いなく、某マッチングアプリだった。
「使ってるの?」
私は思わず聞いてしまった。
友達は少しだけ驚いたような顔をしたあと、特に隠すでもなく、
「ああ、暇つぶしみたいなもの」
と、まるで当たり前のように答えた。
「別に会うかどうかもわかんないし。話せればそれでいいって感じかな」
私はその返事を聞きながら、何も言えなくなった。
だって、その言葉はまさに、私がこれまでネット恋愛と呼んできた関係そのものだったから。
友達の画面には、写真と短い自己紹介と、知らない誰かから届いたメッセージが並んでいた。
「どこに住んでるの?」とか、「休日は何してるの?」とか。
それはただの雑談のように見えたけれど、その言葉の奥には、相手を知ろうとする気持ちが確かに潜んでいた。
友達はそれを読みながら、小さく笑っていた。
まるで相手の存在が、そこに実在しているかのように。
私はその様子を見ているうちに、心のどこかが少しだけ冷えていくような感覚を覚えた。
もちろん、友達を責めるつもりなんてない。
マッチングアプリが悪いとも思わない。
むしろ、誰かと繋がろうとする気持ちを否定する気なんて全くない。
ただ私は思ってしまったのだ。
ネット恋愛は嫌いだと言いながら、マッチングアプリを使うことは、果たして矛盾ではないのかと。
写真越しの笑顔に好意を感じたり、文字だけの会話に期待したりすることは、本当にリアルな恋愛と言い切れるのだろうか、と。
もちろん、友達にそんなことを言うつもりはない。
言ったところできっと、「違うよ」の一言で終わるに決まっているし、そもそもその違いを言葉にしようとしても、きっと私たちは納得しあえないだろう。
だって本人は、ネット恋愛なんて自分とは無縁だと思っているし、マッチングアプリという形を“リアルに繋がるための入り口”だと信じているから。
その信じ方を、私は否定できない。
けれど私は心の中で、静かに思った。
知らない誰かと文字を交わして、写真の笑顔に安心したり、不安になったりするのなら、それはもうネット恋愛とほとんど変わらないのではないかと。
そう思ったところで何かが変わるわけではないのだけれど、私の中には小さな疑問がゆっくりと沈んでいった。
まるで表面には出てこないまま、海の底に沈んでいく泡みたいに、音もなく。




