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第四章〜華麗なる転移 羨望の魂 出来る女 佐藤よしこの場合~「ステップ2:実践と変革」

#11 聖女枠?女神枠?

変な事になってしまった。

私はここ数日、神殿併設の治癒院に通ってる。ただ座って瞑想するだけのために。

思考を深めるとシースルーが解けてしまうので仕事すすめられないし。


治癒術が神の奇跡として認知されてるので、シースルーな私が象徴として祭り上げられてしまってる。

治癒院は大盛況。アロマキャンドルの香りも効いてると思うけど。

おじいちゃん、おばあちゃんが互いに生存確認してたり。


「おむかいのシルバばあさん、最近治癒院にこないわね。どこか悪いのかしら」


どこか悪いなら、治癒院に来るでしょ。


私は、実務したいよ。


【よしこレポート 女神像】

《現状》

聖女あるいは女神枠として治癒院の象徴とし勤務。

《問題点》

非永続性(帰還、あるいは他の業務)

他の業務の遂行が停滞する。

《解決案》

御簾を垂らすなどで、存在の示唆だけにする

必要ならば銅像や石像などを置く


#12 戦闘言語

よしこは、「女神枠」から解放されたようだが、今度は何をするか迷ってるらしい。

女同士で話せば何か良い切り口が見つかるといいな。と思って女子を呼ぶことにした。

「おーい。」

ネイさんが来た。俺は女の知り合いが少ない。よく考えたら二択だったのかもしれない。

ネイさん、鈴木が帰ってちょっと落ち込んでる様子だったし、気晴らしになったら一石二鳥だね。


「貴方がネイさん?話は聴いてるけど…」

「そーね。あーし、あーし。」

ネイさん、いつも言葉足らずの気がするけど、よしこの肩をバンバンたたいてる。


え、何?二人ともボクシンググローブはめて、何すんの?

軽い《スパーリング》みたいなこと、始め出したよ。

???


「オッサン、わたし、凄いこと見つけちゃった。この人と拳でお喋りできるの。」

どういうことですか?


「あのね、あのね…」


子供のように無邪気な顔でよしこが語り掛けてきた。


突きの強弱、体の動き、視線、軌跡、立ち位置、痛み、表情等の情報をから、それだけで意思疎通ができるらしい。

そういえばネイも鈴木と《戦いのお喋り》とか何とか言ってたし。


「わたしのボクササイズなんか、まだカタコトだけど、これ、凄いよ」

「ちょっと見てて」


2人はまた軽い打ち合いを始めた。

そしてまたにっこりとこっちを向く。凛とした表情もいいが、笑顔、かわいいぞ。


「今ね、お腹空いたね、何か食べたい。って わたしが言ったの。そしたら ネイさんはイイネ何かガッツリしたもの食べようって答えたの。多分具体的な料理名だと思う。わたしには、そこまで分からないけど」


すると、ネイが俺の頭をポコポコ叩くのもよしこの肩をバンバン叩いてたのも何か意味があったってことか。戦闘民、恐るべしだな。

今思えば鈴木がゴブリンやオーガ相手に撤退させたの、これかもな。


【よしこレポート 戦闘言語】

《戦闘言語の概念》

非言語コミュニケーションの一つ。

格闘技などの闘いの以下のような要素で、意志疎通が可能になる。

攻撃の強弱、体の動き、視線、軌跡、立ち位置、痛み、表情等

極めると言語以上の伝達の可能性あり。

《実用性》

使用者の訓練が必要なので、極めて限定的。




#13 勇者とは何か。

私はお城の図書館に来ている。



【よしこレポート アリア藩周辺事情と勇者制度の問題点】


辺境魔王は自由連邦の辺境の国の元首。

黄昏共和国と自由連邦は直接戦争状態にあるわけではない。


血の気の多い辺境魔王軍が黄昏国にちょっかいをかけてくる。

勇者は、黄昏国の独立性の象徴として辺境魔王軍に挑む存在。


辺境魔王を討伐が最終目的かも知れないが、逆になされると本格戦争に突入しかねないので、現状のスタンスは結果として間違っていないのかもしれない。


今まで何十年も討伐に成功していない事を考慮して深読みすると実は討伐に成功しその後全面戦争の最悪のシナリオで勇者が死ぬ流れがあって、死に戻りによって無かったことにされてる可能性。


勿体ないのが16年の時間と国家予算での関係者の保障をかけてるのに、数か月で終ってしまう事。元勇者(の半身)をモブ兵士にするのは損失だ。


纏めてみて解った。私が解決出来る範囲の事ではない。

元勇者の人に話、聞いてみようかな。何処にいるのか聞いてみよう。

若い司書さんに声をかけてみた。


「実はボク、勇者様の器をやってました。あ、ボクはトムリンと言います。」


いきなりビンゴ。

17歳。まだ可愛い感じもするけど、この人死線をくぐってきてるのよね。


素朴で家族想い、努力家。控え目だけど秘めた実力。何故かちょっと頼りない感じもキュンとする。帰ったらこんな彼氏、探したいな。


結局、勇者制度の問題点には深く踏み込めなかったけど、彼が本を好きになったのは、彼が勇者「やまもと」として「山本順」と肉体と魂を共有した時間がもたらしたものらしい。悪いことばかりではない。



#14 実験。


「オッサン、前に私たち被召喚者の体って魂そのもので出来てるて言ったよね」

お、おう。

よしこ、この感じだと、また何かトンデモな事見つけたみたいだ。

「ちょっと怖いけど、オッサンが居れば何とかなる気がする」

いったい何だよ。

「いいから、トムリン君を呼んで。お願い。」

うん。俺はお願いには弱い。


「おーい。トームリン」


トムリンが来るまでもう少し時間がある。教えてくれないかな?


「秘密。」

あ、トムリンが来た。


「トムリン君、ちょっとリラックスしててね。」

「あ、はい。」


よしこはトムリンの肩に両手をおいて目をつむる。

よしこがシースルーになった。随分慣れてきたみたいだなと思っていたら…

トムリンが一瞬ビクッとした。


「ボク、どうな…成功!」


よしこの姿がない。

え、何?どうなったの?


「ボクが説明しますね。オッドアイさん。よしこさんは今ボクの中に居ます。というか結構混ざっちゃってるみたい。変な感じよね。」


うん、なんか納得した。口調が一定してない。


「わたしはこのままでもいいと思いますが、ちゃんと戻れるか確認も必要だからオッサン、よしこだけ呼んでみてもらえませんか。」


おーい。よしこ!


よしこが現れた。


「びっくりました。これって《憑依合身》みたいですね。勇者様と一緒だった時《漫画》で読んだ事思い出しました。」


そう言うトムリンは山本順の魂を宿して育った。そして16歳の時、勇者「やまもと」になった。山本順が去ったあと、トムリンの体、つまり魂の器は半分空家になった。そこに佐藤よしこがの魂が間借りしたという感じか。ヨーガとやらの瞑想が関係するから今のところよしこだけの技だ。

二人の証言では、トムリンが少しずつ空家を占領し始めているので、狭い感じがしてたとか。そのうちこれもできなくなりそうだ。

何でこんなこと思いつくんだ。一歩間違えば自己崩壊するぞ。


この後、俺はよしこに説教した。今後一切《憑依合身》を禁じ、叱りまくった。

戻れなくなってたら俺は召喚庁をクビになるし、トムリンの人生も狂わす。

俺は女を泣かす罪な男になった。



#15 世界は伝染する。

あー、面白かった。凄く勉強になった。

実は私、ちょっとだけトムリン君を《持ってきちゃった》ような気もしてる。

…これ、関西人と一緒にいると、何故か自分も似非関西弁をしゃべりだすアレよね。


【よしこレポート 憑依合身】

《憑依合身の概要》

元勇者(器)の内部に転移者が入り込む事。

《問題点》

元に戻る方法が完全に確立していない

対象者2人の自我の保護ができるかどうか

瞑想~シースルーの可能な転移者の選定ができるか

《展望》

元勇者(器)と転移者の高い能力の融合による革新の可能性。


#16 忘れ物。

困ったな、よしこさん、忘れ物しちゃってるみたい。どうしようかな。届けようもないし。

「借りパクしちゃえよ」と多分山本の忘れ物が言っている。



#17 俺の呼ぶ奴、すぐ帰る。

と、まぁ 佐藤よしこは前に来た異世界人の残した伏線を色々回収していってくれたわけだが、彼女もあっさり帰ってしまった。


「いろいろ ありがと。バイバイ あ、言い忘れてたオッサンいい声してるから声楽とか演劇とかしてみない?」

って。ウインクと共に佐藤よしこは居なくなった。


即決・即断。若いっていいね。


よしこのくれたアイデアをどうやって活用するかは、いぶし銀世代の仕事だ。

俺、オッサンの出番だよね。ま、気長に考えよう。



#18 現実。異業種交流会。

あれからひと月。

都市部から少し離れた田舎の古民家。私はそこに個人事務所 兼 自宅を借りた。

家賃が安い。都市部までの交通も悪くない。


私は、無駄に広い古民家を利用して、異業種交流会を企画してみた。

【よしこレポート「異業種交流会の参加者」】

【スライム鈴木】 

AWWP モンスター軍団所属 女子プロレスラー 体の柔らかさとねちっこい攻めが持ち味の新人。

【田中恵】

近所の主婦。元OLの農家。旦那さんがよく側溝に落ちるのが今の悩みの種。

【山本敦】

長距離トラックドライバー。

息子に新しい自転車をねだられてる。リメイクRPGとどっちを先に買うか思案中。


鈴木、田中、山本…まさか…ね。よくある苗字だしね。

私の苗字、佐藤もよくあるし、他人の事は言えない。


#19 またの機会に。

俺は、異世界人4人の軌跡をレポートに纏めて召喚庁に提出しなければならない。

世界を変えるほどの成果は皆無だが、それなりの変化はあった。

ボーナス、出るかな?


召喚政策のあり方、勇者制度、召喚術式の改良など、課題も色々浮かび上がっているので、俺が召喚術で異世界人を呼ぶのはしばらく先になると思う。


それまでは仕事を進めながら、他の召喚師の活躍を眺めるのも悪くないのかもしれない。


いずれ、また素敵な人が俺の召喚術に応じてくれることを祈りつつ。

俺はお茶が飲みたくなった。


「おーい。」


缶× 完?

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