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第四章〜華麗なる転移 羨望の魂 出来る女 佐藤よしこの場合~「ステップ1:異世界観察」

鈴木を帰らせてしまった。

鈴木は臭すぎた。もっとエレガントに事を運ばねば。レディ。


よし、俺が呼ぶ!

「おーい。」





#01 佐藤よしこ、異世界に立つ。

はい。来ました、異世界。私はラノベの公式サイトのWebデザインの仕事をしたことがある。そんな世界観ね。

詳しくないけど。ただ、実際見てみると特殊メイクやCG映画というか、『実写版』。


街に出た私は、深呼吸をした。ひんやりとした空気が、胸を満たす。でも埃っぽい。

石畳の隙間には苔が生えていて、通りの向こうでは馬車がぎしぎし鳴いていた。


私、何したらいいの?


「多分、聖女枠。見た感じ。」


枠って何よ。しかも見た目?

このオッサン、召喚師らしいけど、随分と説明がざっくりね。


「いろいろ出来る人って条件で召喚術式書いたら君が来た。」

ってなによ。


仕事、丁寧にしようよ、と思った。

たとえば…

【よしこ式-異世界召喚基準-例】

スキル、経験、知識、性格、価値観、異世界文化への適合性


とか。


まぁ、来ちゃったんだし、今更条件云々言っても仕方がないので過去の転生・転移者について聞いてみた。


【よしこレポート「任被召喚者についてのまとめ」】

山本順   【目的】辺境魔王討伐 【条件】異世界への親和性【成果】C-

田中耕一郎 【目的】生活改善   【条件】現代知識    【成果】A-

グレート鈴木【目的】防衛力強化  【条件】骨太、タフネス 【成果】B+

佐藤よしこ 【目的】聖女枠(不明)【条件】いろいろ出来る?【成果】これから


#02 二択はどっちも選ばないのが正解。


魔法陣から現れた彼女は、大きめのシャツをラフに羽織った女性だった。中腰の姿勢から、とんと尻もちをつき、驚いたように俺の方を見ている。

周囲を見回し、立ち上がった彼女は俺に話しかける。


「ここは? 誘拐ですか?それとも拉致ですか?」


ほぼ一択の二択を迫られたが。どっちでもない。

俺はオッドアイ・サンダース。通称オッサン、召喚庁の係長だ。


俺は、ここが彼女、佐藤よしこさんから見た異世界---黄昏国のアリア藩と説明した。

召喚の度に同じ説明をするんだし、台本作っとけばいいよな。と思った。


半信半疑の様子だ。《ドッキリ企画》が何だか俺には解らんが、実際に街を見てもらうのが手っ取り早い。

よしこに街を歩いてもらう事にした。


陽光をまぶし気に浴びる横顔、かかとの高い靴が石畳に当たる音、揺れる短い髪。ちょっとタイトなパンツスタイル。


鈴木と一緒にスライムに殺されそうになった時、イメージした《何でもできる女神》が今回の召喚術に反映されてるのかもしれない。



俺はよしこさんに説明をしながら歩く。俺は良い人が来てくれたと思っていたのだが。


「帰っていい?」


俺はよしこさんの言葉に慌ててた。


#03 自立してたい よね。

「こっちに来る直前何してたか覚えてるか?」


私は…お昼ファミレスで食べてそのままwebデザインをしようとして…SNSに投稿しようかなと思ってたはず…


「あ、じゃ、大丈夫だ。無理に止める気も無いんだが、異世界人召喚は一応《国家プロジェクト》だし、ひと月ここにいても向こうじゃ1時間程度だよ。のんびり出来る事探しても良くない?」


【よしこの待遇分析】

《活動条件》衣食住の保障あり。

《仕事内容》これから考えればいい。

《拘束時間》この世界のひと月=『現実』の1時間相当。

《特記事項1》本気で帰りたくなったら帰るのもあり。

《特記事項2》国家プロジェクト。


こんなにゆるい条件でいいのかしら。まるで家事手伝いかニート。

私の一番嫌いな人たちと同じ。


私は自分の力で立っていたいの。

即決、即行動。仕事は繊細、丁寧に。これが私の生き方。


ここが何処であっても。


【佐藤よしこ プロフィールカード】

《名前》佐藤よしこ(よし姉、よっちゃん)

《性別・年齢》女・秘密

《経歴》新卒で事務職として採用された市場調査会社を2年で退社。現在フリーランス。主にWEBデザインをする。あと、頼まれたら出来る事、何でもする。

《趣味》ボクササイズ、ヨーガ


突出した能力や技術が無くても、条件が合えば、合わせれば、やっていける。

1番に成れるまで能力を磨いても時代遅れになってしまう。って先輩が言ってた。


座って考えたいと申し出ると、石造りの建物に連れていかれた。

一番清潔ではない食堂。本当に美味しいものが出てくる条件に一致してる。

夜は酒場になるところ。



【よしこレポート「私と過去の被召喚者の比較」】

《異世界知識》

聞きかじり<勇者山本 異世界オタ

《現代社会知識》

小娘<田中耕一郎 元商社マン

《格闘技》

ボクササイズ(趣味)<グレート鈴木 プロレスラー


下位互換。

私は、分析して悲しくなった。

だけど、オッサンの声を聴いていると妙に安心する。顔を見るとがっかりする。

この無駄イケボ。


なにより《国家プロジェクト》の中枢にいるという説明が、私の心を震わせる。


「頑張れよしこ!千里眼よりウィンクね!」


#04 国家プロジェクトの意味

よしこの言葉の意味は全くわからんが意気込みはすごいな。と俺は思った。

《国家プロジェクト》の本当の目的は俺にもよくわからん。

『異世界人の貢献で他国が成果を上げてるから、我が国も』みたいな認識しかない。

田中や鈴木も成果出してるんで、俺も浮かれてた。


実はよしこに何をしてもらいたいのか、考えてなかった。まぁ、そのうち何か見つけてくれるんじゃ無いかと、他力本願で思考してると。



「私の知らないところに来たんだし、現実に無い物が見たいわ。例えば…」

言いたいことは分かるがここは俺にとって唯一の《現実》だ。


「異種族?亜人とか、モンスターとか見たいわ。」


あ、そこね。切り口鋭いわ。山本も田中も鈴木も言及してない。

早速、見つけたね。それでいい。


#05 亜人種

一番馴染んでるのはエルフかな。よく見ないと気づかないぞ。


【エルフ】

《外見的特徴》

僅かにとがった耳、肉付きの薄い華奢な体躯、

切れ長の目。直毛でしなやかな髪。

《生態》

菜食を好むからちょっとだけ長寿。

《総評》

大体モンゴロイド。

最近は髪染めてる人も珍しくない日本人っぽい。


君ら日本からの被召喚者によく似てるね。


よしこさんはちょっとがっかりしてる。世界観が古典寄りだって「やまもと」が言ってたような気がする。


【フェアリー】

《外見的特徴》

4センチ大の人型。微小エルフ

15センチの羽根。

《生態》

空力で飛んでるらしい。

街中でもちょいちょい見かける

ちょっとかわいい。

《特記事項》

丈夫だけど間違って潰すと傷害罪、運が悪いと殺人未遂

《言語》

蚊の音の様に聞こえる音。よく聞くと、言葉をしゃべっている。

《知性》

あるみたい。脳で思考してるとは考えにくい。ファンタジー

《注意事項》

丈夫だけど間違って潰すと傷害罪、運が悪いと殺人未遂。



街中でもちょいちょい見かける不思議ちゃん。個人的にはかわいいと思うが。


「知らない方が良かったかも。イメージ崩れるわ~」


ハーフマンとドワーフも見るか?


「もう、良いです。亜人種も普通に生活してるんですもん。普通で当然よ…ね。」

何だか申し訳ない。切なそうだ。


紹介はしなかったが2日後にはレポート書いてた。よしこさん、まめだね。

【ハーフマン】

《外見的特徴》

ほとんど小学生。

《生態》

ほとんど小学生。

《疑問点》

成長や老いってあるの?生活どうしてるんだろう?

【ドワーフ】

《外見的特徴》

平均身長150cmくらい。骨格がしっかりして筋肉質。

《生態》

よく食べる。職人気質の人が多いかも。

《総評》

一番イメージに近い。でも現実でも知り合いに一人ぐらいは居そう。



♯ 06 方針決定、行動開始

あれから、丸一日いろいろ考えてオッサンに今後の方針を伝える。


【よしこレポート『現状分析と今後の方針』】

《現状分析》

私の強み:いろんなことによく気が付く事、多方面への関心

私の弱み:前任者たちの下位互換

《私の今後の方針》

勇者制度の改革案提示、田中路線の継承、鈴木の成果の検証~問題点の解消。

あと観光…は、もういいか。


「もう決めたのか。早いね。凄い凄い。」

なんか、褒められている気がしない。だけど具体的にはまだ何も決まっていないのも事実。


田中革命については、基本的に私が手を出せる範囲が無い。


私のここでの仕事は問題解決。一番の課題はアリア藩の最臭兵団の匂い問題ね。


兵舎へ行ってみた。もう、すんごい匂い。

基本的には汗の塩っ辛い感じ、そしてちょっと酸っぱい。さらにニンニク。もうだめ、めまいがする。


#07 チユ=タンの治癒術

「お嬢ちゃん、息はあるね。」

お嬢ちゃんにお嬢ちゃんって言われた。誰?


「ワシ、じゃなくて、チユは治癒術師のチユ=タンっていうのじゃ」

口調が安定してない。無理しなくていいのに。

私は気絶していたみたい。

チユ=タンが体をマッサージしてくれている。

「チユ、オッサンから聞いてるよ。お姉ちゃんが《よしこ》ッチ?。」

えぇ。そう。あ、そこ、気持ちいい。


「よっちゃん、随分と疲れがたまっておるのにゃ。」

私は疲れていたのか。気が付かなかった。

そしてチユ=タンの口調がブレブレよ。それには流石に気が付く。


チユ=タンの施術は確実に私を癒してくれる。治癒術って凄い。


「転移者にはよく効くにゃ。転移者の体は、剥き身の魂を変質させて作られちょるとオッサンが言っておったんじゃが、関係あるかもしれないねん。と、終りじゃよ。」


目も冴えた。空気の流れもより感じられる。マッサージ受けると、麻痺してた感覚が戻ってくるような感じ?現実でも外食前に施術を受けると得した気分になる。私の秘密の幸福感。

頭もすっきりした。あの匂い、何とかする。私が。


ねぇ、チユ=タンさん、私にも《治癒術》できる?


「術と呼べる程の習得はちょっと…でも、転移者の特性もあるから、《普通の人より効く手当て》ならにゃ。」

残念。でも活路は見えた。


ありがと、チユ=タンさん。


「チユたんと呼んで欲しいのじゃにゃ。」


#08 香りの行方 

兵舎から帰ってきたよしこは、今度は農場で何か始めたようだ。チユ=タンとも会っていたみたいだけど、今度は何するのか。俺は楽しみにしてる。


今度は食堂。葉っぱみたいなのを持ってるし、何だろうか

「今ね、香りの事いろいろやってるの。まだ、どうなるか分からないけどね。」


ふむ。あとでレポート見せてもらおう。


【よしこレポート 】

《課題》ハーブによる《最臭兵団》の匂いマスキング

-効果はありそうだが、マイナス面も露呈。

-リラックス効果が戦意低下が懸念。

《結果と今後》

断念。香りの研究を他の事に生かしたい。


#09 迷走したら瞑想すると。

宿舎に帰った私は、自家製アロマキャンドルに火を灯した。

成果が出せてないので心がもやもやしてる。

宿舎の清掃は行き届いてる。

床にマットを敷いて、軽くストレッチ。楽な姿勢で座り、目を閉じた。

呼吸を整え、体の力を抜いていく。思考も極力しないように。

スリープモード?サスペンドモードかしら?



人の声。

…「よしこ様、入りますね」

意識レベルが少しずつ戻ってくる。

扉が、開いてて、食事を持ってきてくれたおばちゃんだ。

何で座ってるんだろう。


「よしこ様、今、何を!?」

驚く様なことしてないけど、なんで腰抜かしてるんだろう?


瞑想している間、私の体が淡く光って透き通って見えていたらしい。流石異世界。

不思議現象ね。

後で試してみたけど、良くわからない。観察したり思考したりすると元に戻るみたいだし、オッサンに見てもらおうかな。


#10シースルーの女

「オッサン、ちょっと見てほしいことが在るの。今、時間ある?」


時間はある。あるよ。余ってる。いっぱい。


被召喚者がいるときは、基本的にその人の邪魔をしないで観察する以外の日常業務は無い。待機と称して暇つぶしがてら召喚術式を色々考えてるだけだ。

よしこが危ないことしない限り楽ちんなのだ。レポートもよしこが自分で作るし。


俺は、よしこに連れられ彼女の宿舎の部屋の前。数分待たされた。何の準備?

「入っていいよ」


濃いめに淹れたお茶のような、いい香りが立ち込めている。


「なにを…」


ちょっと黙ってて。と言われてしまった。

よしこが床に敷いた布団の上に座って目を閉じてる。


あ、あれ? なんかおかしくないか?


よしこの後ろ側のベッドや窓がぼんやり見えてる。これ、召喚者が帰還する時のと同じだ。

まて、帰るの?術式展開もしないで。どうなってるの?


よしこの体が淡く光っている。うっすらと目を開けた。

聖女枠というかもう、女神っぽ。


あ、戻った。

「どうだった?」

いつもの笑顔に戻ってる。ちょっと安心したような残念なような。


【よしこレポート シースルー現象】

佐藤よしこは瞑想すると光って透けることができる。

触れる事は可能。知覚、認識がはっきりすると元に戻る。

《命名》

スキル 『シースルー』

《実用性》

暗がりで小物を探せるかもしれない。本人以外が。




STEP2へ続く

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