第三章〜魅せる必殺!砕けぬ闘志!~グレート鈴木の場合~ROUND-2
「おーい。」
俺は、召喚師。今日も呼ぶ…コロシアムにお客さんを。
鈴木コロシアムデビューから3日目。既に俺の役割はない。鈴木は今日も魅せる闘いをするだろう。期待で勝手にお客さんが集まっていく。
俺は、自分の存在感に疑問を持ち始めた…かもしれない。
#07 遠征の計画
グレート鈴木は強い。コロシアムでは既に女戦士ネイと人気を二分する確かな存在感を見せていた。
実戦に出ても死ぬことは無いよね。
魔物狩りにでも行ってみようか。上手く行けば対辺境魔王前線基地奪還も出来るかもしれない。
街の外で何度か鈴木と俺はモンスターと戦った。間違えた。俺は戦ってない。
ゴブリン数体は、全く問題にならんほど鈴木は強い。数体を一瞬で倒して、後は逃げてった。
4体のオーガが出てきた時は、正直俺はびびってた。だが、鈴木はどう処理したのか、タイマンの4戦に持ち込み、それぞれに完勝してしまった。しかも「再戦が楽しみだ」とか言ってとどめを刺さない。
いろいろ思案した挙句、アリア藩城の地下通路の湧いた魔物討伐をする事にした。
ここなら城まで戻るのに時間は掛からないし、何より俺も勇者「やまもと」一行として来たことがある。
パーティ編成は鈴木とネイさん、トムリン君、俺。
俺以外、物理火力系。バランス悪いな。
なんとかなるでしょ。
「呼ぶ」以外役に立たない俺は、松明持つ「係長」。ヒラ公務員とは一味違う。他にも荷物は持ってるけど、荷物の量が一番少ない。筋肉の民と一緒にしてもらっても困るが。
鈴木の顔が浮かないのが気にはなる。
#08 鈴木の憂鬱
魔物狩りか。
オッサンの提案だが、実はあまり乗り気でない。俺のプロレス魂が動かない。
ゴブリンやオーガのようなモンスターならまだいい。奴らなりの道、ヒール軍団との無法な抗争だと思えばやりがいはある。しかし、意思疎通の出来ない相手を相手に何が楽しいのか、オレには理解できない。ネイが楽しいと言うので、承諾した。
何事も経験だ。新たな技のヒントが見つかるかも知れん。
オレは自分にそう言い聞かせた。
オレたち4人は暗がりへと
「大丈夫、なんとかなるって。」
無責任なオッサンの言葉、少しイラつくが、言われるとそんな気もしてくるのが不思議だった。
♯09 地下通路の闘い
第一階層は緩衝地帯。大鼠とスライム、トムリン君が、ほぼ一人で片付けてしまった。
成長は喜ばしいけど、鈴木の実戦を観たいの、分かってるのかな?
第二階層。ここからが本番だ。
ジャイアントスパイダー。巨大な蜘蛛との闘いが始まっている。
巨体の割に大蜘蛛は素早く、急所を狙おうとするネイやトムリン君の剣は避けられ、蜘蛛糸で封じられる。蜘蛛糸をトムリン君の火魔法で焼くことで、振り出しまでは戻る。その間に鈴木が力技で大蜘蛛を押しかえす。
そして、俺は…何したらいいの? というかむしろ俺のところに来る蜘蛛糸を松明で焼くだけで精一杯だったりする。
気が付くと、鈴木が器用に四肢、体幹、首を使い、八本の脚のキメ、動きを封じている。
GSH、鈴木式蜘蛛固だ。今、俺が名付けた。
#10 俺は実況の人。解説トムリン君
GSHが決まった!ジャイアントスパイダー、動けない!
だが流石人外、キメてる筈のグレート鈴木も苦しそうだ!この攻防、どう転ぶか、見所ですね解説のトムリン君
「は、はい。Gスパイダーはまだ、蜘蛛糸を使ってません。あれを出される前に、仕留めないと危ないかもしれません。」
さあ、事態は緊迫しキタ、おやネイ戦士、部屋の隅で何かしてますね。トムリン君あれは?
「途中で拾った宝箱を積み上げてますね。今まであんな事するネイさん、見たこと無いです。鈴木さん指示かもしれません。」
トムリン君の解説の間に、ネイ戦士、積み上げた宝箱の上に立って、剣を掲げた!
「中ボス部屋の空間を上手く利用してますね」
おーっと、ネイ戦士跳んだ!
ひねりを加えた宙返りからの急降下、そして鋭い剣の突きだ!決まった!剣は深々と大蜘蛛の体を貫いた!グレート鈴木は大丈夫か? いや、腹筋で止まってるー!
「戦乙女刺突ですね。コロシアムでは剣の持ち手側での打撃ですけど、刺突だと迫力が違います」
瀕死のジャイアントスパイダー、苦しそう。反撃の蜘蛛糸が、ネイ戦士の左足にー。
#11 完全勝利
バキッ メリメリ…
ジャイアントスパイダーの体躯が、ネイの残した剣を始点に、真っ二つに裂けた。
「ウォー!」
鈴木が吠えた。
つい、コロシアムの実況の真似事をしてしまった。必死だ戦ってる鈴木やネイになんか申し訳無い。だが、俺に出来ることは何も無かったんだからいいよね。トムリン君巻き込んじゃたのはやり過ぎたかな。俺は反省して開き直り、また反省した。
#12 グレート鈴木の本音
生き延びた。飾りを投げ捨てたオレの実感だ。
俺のキックや、チョップ、トムリンやネイの剣撃、どれも単発の攻撃が全く効かない大蜘蛛。致命打を与える為、オレは、無我夢中で、蜘蛛を押さえ込んだ。だがオレに出来たのはそこまでだった。オレの筋肉は悲鳴をあげていた。死を覚悟した時、オッサンの《グレートスパイダーホールド》の声が聞こえた。不思議な感想だった。
ギリギリの筈が技名を認識した瞬間から筋肉の悲鳴がウソのように止まり、自然とネイにアイコンタクトが取れた。あとは、いつものリングと同じ感覚。
オレの、いや、オレらタッグの勝利の筋書きをこなせば良いだけ。
生物を裂く感覚は気持ちの良いものではなかったが、これはショーじゃない。
勝利の雄叫びで、オレは違和感を拭い去るしかなかった。
「鈴木さん、凄かったです。」
とトムリンが言った。オレは苦笑した。
♯13 大ピンチ、ネバーとギブアップ。
グレート鈴木は強いわ。
俺は、万が一の事があったら、召喚庁に何を言われるか分からないので、帰る。
人気スターをコロシアムから2人も連れてきてしまって居るので、ネイとトムリン君を先に帰らせた。とりあえず、2人のカードで繋いでもらう算段だ。
スライムが出た。勇者「やまもと」がレベル1の頃苦戦した奴。グレート鈴木なら大丈夫だろ。
油断していた。
え、えーっ!?
スライムが鈴木の頭部を覆ってしまってる。床を3回叩く苦しそう。何か訴えてるのかもしれないけど、何?俺には解らん。困った。何とかしないと…
とか考えてる間もなく無力な俺の足元にスライムが纏わりつきだした。
俺は、叫んだ。呼んだ。
「だ、だれか。助けてくれーっ!」
投げ出された松明の明かりが辛うじて辺りを照らしている。
スライムの粘液越しに見えてる。口や鼻に粘液が入り込んで声を出すどころか、もう、息も出来ない。俺も意識が薄れていく。なんかごめんな、鈴木…
—
俺、死んだな。転生できるといいな。誰か呼んでくれないかな。出来れば、俺みたいなダメ召喚師じゃなくて、賢く凛々しく何でもできる女神様あたりを希望す…?
おや、トムリン君だ。どうやら死んでないらい。助けを呼ぶ直前、勇者「やまもと」の事思い出してたから、トムリン君に声が届いたのかな。
「スライムは片付けました。もう大丈夫です。」
ホントに頼もしくなったね。トムリン君。ただ…
鈴木の髪が焼けてちょっとチリチリになってしまった。俺の頭も多分チリチリ。
鈴木はまだ肩で息をしている。トムリン君の「マッチ」の強化版「ライター」でスライムを焼いてくれたらしい。
#14 帰還後。鈴木についての考察。召喚庁へのレポート
訓練所での模擬戦や捕まえて来たモンスターとの戦闘試験で分かった事。
鈴木の強さの源が分かったような気がする。
観客となる第三者がいると、めっぽう強いが敵も含め、意思疎通が出来る相手がいないとめっぽう弱い。
ヒューマノイドモンスターや、動物系に強く、無生命や植物系、虫系モンスターに弱い。
俺はプロレスラーなる物がなんとなく分かった。
なりきり型の舞台役者に近い。
#15 誘われしファン達
グレート鈴木のコロシアムでの人気は高い。特に戦う専門職、藩の兵士達に大人気だ。
自ら攻撃を食らいに行くような無謀な動きも、それを耐えきる事で《勇気》として羨望の対象となる。大ダメージを受け、倒れ、それでも立ち上がるタフネスさ。《不死身》の鈴木は兵士の憧れだ。
個人的に教えを乞おうとするものも現れだした。
もう、いっそ先生をしてもらおう。
実戦では、相手によりムラが出るし。召喚庁が求めるのは、被召喚者個人の伝説ではなく、地に根差した改革のような気がするし。
こうして《不滅の鈴木魂ブートキャンプ》は始まった
#16 不滅の魂ブートキャンプ
オレを慕って戦士たちが集まる。感動で涙が出そうになる。魔物に殺されかけたオレでも何か伝えられるのか。
プロレスは生死を賭けた闘いである事は間違いない。だからオレがこれまで積み上げてきたものは伝わっている。ならばオレはオレ自身を信じ、すべてを伝えるだけだ。
基本は受けだ。敵の攻撃を安易に避けるな。
敵の強さを、誇りを、蔑ろにするな。そんなことをすれば巡り巡って己を滅ぼす。
敵の優位、己のピンチを演出しろ。真の戦士は逆境にこそ真価を発揮し、進化する。
罠があれば自ら飛び込め。それができる自分に鍛え上げろ。
一番重要なのが根性だ。身体を鍛え上げるのは敵も同じ。人の身の限界など知れている。
極限まで鍛え上げた肉体のぶつかり合いで勝敗を決めるのは不屈の魂、折れない精神力。
日に日に兵士達が逞しくなっていくのが喜びに変わるのに時間はかからなかった。
「田中改革」の成果であるパワーの源「にんにく」も、鍛錬を後押ししている。
そして・・・ひと月
#17 わがアリア藩の最臭兵士たち。
臭い。兵舎は戦士たちの体臭とにんにくのオーラに包まれていた。
話に聞いてはいたが、これほどとまでは思わなかった。
匂いについて兵士達に言っても無駄だった。
彼らは不屈の精神力を持ってしまった。何言われても動じない。
うん。もういいよ。鈴木そろそろ帰る?
アリア藩の精鋭部隊は、異臭を放ち、望んで棄権に飛び込み、倒れても倒れても立ち上がるゾンビ兵団として恐れられるようになるのはもう少し先の話だ。
#17 異世界引退。勇退。
「鈴木、そろそろ帰る?」
オッサンは唐突に言った。
オレは考えた。オレがこの世界でできる事は少なく、望まれる成果を出したかどうかは疑問だ。だが、オレは伝えられる事は魅せて、伝えた実感はある。
あとは俺の闘いを見てくれた人、オレの教えを受けた者たちが自分の道を見つければそれでいいのかもしれない。
オレはこの地で死を見た。それはオレの肉体もいずれ衰えを予感させた。
ならばオレが残せるものは残す。この異世界では伝えた。出来ればの元居た世界でも。
AWPのロゴに少し似た魔法陣の上に立つオレは、オッサンを見た。
顔をしかめている。不器用な奴だ。だんだんと彼の姿が薄れていく。
#18 帰還。新たなる戦いへの序章
目の前にモンスターの顔がある。おのれ、何処までも…
違う。
「鈴木さん、大丈夫ですか?」
女子プロ団体からの交流練習生。セコンドをしてくれていた娘だ。
体つきがどことなくネイさんに似ている。このヒールメイクをとると、美人だと思う。ベビーフェイスでも行けると思うが。
3時間前、オレはフォールされた後、自分で歩いて控室に帰ってきていたらしい。それは異世界3か月。夢にしてはすごい現実味を帯びていた。説明しても誰も解るまい。
オレはこの3ヶ月、いや3時間で新たな課題を得た。自己の原点回帰の為にも、後進の育成は必須。この世界は、一歩間違えば死ぬ。業界にいる限り甘えは許されない。たとえ、闘いが、本物でなくとも。
鈴木編、終わりました。
【次回予告】
鈴木を帰らせてしまった。
鈴木は臭すぎた。もっとエレガントに事を運ばねば。レディ。
よし、俺が呼ぶ!
「おーい。」
第四章〜華麗なる転移 羨望の魂 出来る女 佐藤よしこの場合~
【おーい。次の話はじまるよ。見に来てね】