第三章〜魅せる必殺!砕けぬ闘志!~グレート鈴木の場合~ROUND-1
田中が帰ってしまったので、誰か呼ばねばならない。それが俺の使命。召喚庁のお仕事。
田中は優しいが線が細すぎた。骨太でびくともしないヤツが良いだろう。
よし、俺が呼ぶ!
「おーい。」
#01 リングに魔法陣。
オレは立ち上がった。敵はどこだ。脳震盪が残ってるのか。状況が掴めない。
レフリーじゃないな。誰だ?
「俺のことはそんなに重要じゃないから気にしなくていいぞ。」
そう言われても、神聖なリングに上ってこられては⋯
ここはリングじゃない。床に書かれてるのもてっきり⋯APWのロゴではない。
衝撃で記憶が飛んだか?
「君の毅さが欲しい。世界平和のために役立ててくれないか」
何いってんだこのオッサン。自慢のラリアット食らわせてやろうか。
いや、一般人にラリアットは警察沙汰になる。契約の話のようにも聞こえる。
ここは社会人として交渉する場面だ。
「ここは異世界。帰りたい?」
俺は何処だって呼ばれれば興行する。それがプロだ。
#02 何処だって興行するんですって
「何処だって呼ばれれば⋯」
なんと、俺達召喚師にとって神様みたいな人が来てくれた。
「まずは対戦相手とルールを教えてくれ、ギャラはその後考える」
えー、なにかの試合でしょうか。あ、でも力を見るには良いかもね。
とりあえずコロシアムの運営の人に来てもらおうかな。
「おーい。」この能力、便利だわ。田中に言われるまで大したこと無いと思ってたけど。
十分ほど待ってもらってる。大男と二人きり。何か気まずいね。
あ、ちょうどいいのが来た。代理かな。勇者「やまもと」の仲間のビキニ女戦士ネイさんだ。
「おぉ、いい男!オッサン、良いの呼んだね。見たところタンクの出来る武闘家ってとこね」
興奮するのは良いが、俺の頭をポコポコ叩くのはやめて欲しい。
二人は何だか意気投合してるみたいだ。バトルマニアあるあるかな?
対戦形式は勝ち抜き方式、賞金も掛け金の内、勝者7、敗者2、運営1でいつも通り。
で、あっさり決まった。
武器の使用は
「会場に壊れても良い椅子何個か置いといてくれ、適当に使う」
だ、そうだ。
このコロシアムの制度も「田中革命」の成果なんだよな。
第1試合の対戦相手は⋯
うわ、ト、トムリン君!?大丈夫か?
「やまもと」がレベル12で帰ったから、半分として6。努力家っぽいから10ぐらいか。
#03 元「勇者」宿主。トムリン
魔王は倒せなかったけどボクに大切なことを教えてくれた「勇者」様
「やまもと」様に負けないようにボクは、努力してきました。今日はその成果を見せる時。
生身に剣でちょっぴり気が引けるけど、鈴木さんは、ボクよりはるかに強い。体の周りに白いモヤモヤが見える。あれは汗の湯気じゃない。
本気で切りかかった。初段は避けられるはず…あれ。
当たった?ボクの手の方が痺れている。刃が当たったはずなのに、無傷!
「筋肉はすべてを解決する」って勇者様の言葉、冗談だと思ってた。
でも逆に安心した。この人は、ボクの全部を受け止めてくれる。
ボクは、連撃を浴びせる。フェイントはもういらない。全部全力。多分反撃が来たらその時がボクの負けだから。
#04 身体強化ラリアット
グレート鈴木。動きに迷いが無い。が、無駄だらけにも見える。
「ウォー!」
グレート鈴木が腕を天へと突き出し雄叫びを上げる。
「初歩の身体強化魔法じゃな」
俺の横にいつの間にかチユ=タンがいてかってに説明してくれた。今回は俺が「呼んだ」わけじゃない。てっきり救護室のほうで仕事してると思ってたんだけど。
なんで、魔法つかえるんだよ。
まぁ、実は解らなくもない。器のある転生の時とは異なり、転移時の被召喚者の肉体を構成するのは、剥き身の魂だけだ。魔法や魔力が魂由来なら、不思議すぎることではない。ような気がする。
えっ、何でコロシアムの壁の方へ走るの?しかも全力で。
激突間際に壁に背を向け、そのまま壁にぶつかる。その反動で更に加速しトムリンに。
どう考えても反動じゃない。単なる衝撃吸収用のクッションでどんだけの反発力なんだ。魅せの動きだが無駄が無い。型の様式美とでも言えば良いのか。
ラリアット!避けようとするトムリンを確実に追尾。
兜が飛んだ。
衝撃でトムリンくんは気絶したようだ。
#05 しゃべる剣技と硬派な筋肉。決勝 女戦士ネイvs鈴木
あーしはネイ。勇者「やまもと」のお守りしてた事もあるけど、剣闘士が本職な。
愛用のビキニアーマーは、魅せる用さーね。骨太の転移者とやりあえるたぁ、運がいい。
でっかい男・鈴木があーしを誘ってる。来い?
あーし、そんな安い女じゃあないね。
鈴木の方から寄って来た。ぉし、これがあーしの好きなスタイルさ。
わ、いやらしい、下半身は掴ませないね。
あーしはぴょん。踏んづけちゃう。
踏んづけるつもりの背中が、お腹に?素早い。じゃお腹を踏むね。
跳ね上げられた。なにこれ。弓なりの橋?
鈴木が笑ってる。
もう、これ、闘いと違う。体と体、筋肉と剣のおしゃべり。
(あーし強い?)袈裟斬り
(オ、オゥ)前に出てインパクトを反らしつつショルダータックル
(照れてるでしょ)タックルを交わし背後から横切り。
(オレは、硬派なだけだ)ガッツポーズで背筋を硬化。
(トムリン君、どうだった)下段の構えからの切り上げ
(いいな。体は小さいが、器がでかい。鍛えてるし勉強してる。)脇に挟んで受け、エルボーがらのヘッドバット
(まだかわいいよね)よろめきながらも足払い
(そうだな、だが良い男になるぞ)足払いを受けるも転ばず、背中に空手チョップ
(あーしもそう、おもう)前につんのめりながらも振り向く
(楽しいな。)捕まえてジャイアントスイング
(あーし、こんなの初めて。もっと、もっとおはなししたい…でも)腹筋で身を縮め回転力を弱めようとする。
(オレもざんねんだ。またやろう)放り投げる。
まいった。あーしの超負け。でもOK。たのしー。
#06 優勝者グレート鈴木。
鈴木、優勝しちまった。強い、強い
控え室からいつの間にかトムリン君が来た。もう大丈夫なのかな。意外とタフなのか、鈴木の手加減なのかも。
「オッドアイさん、見ました?ネイさん、一瞬だったけどボクと同じ構えしてましたよ」
いや、全然わからん。凄すぎて理解が追いつかん。
「オッサン、こんな感じで良かったか?」
派手な優勝者パフォーマンスを終え、鈴木も俺のところにやってきた。
ネイの言葉じゃないけど本当に良い男が召喚されて良かった。
被召喚者の実績は俺の実績でもある。
最高だ!鈴木。期待してるぞ。
「おおっ!任せろ。大船に乗った気でいろ。派手な闘いを魅せてやるさ」
—俺は、浮かれていた。
ROUND-2へ続く
熱量余って 前後編になってしまいました。