学園パロ 第五話 下校の寄り道
『学園パロ 第四話』の続編になります。
_____________________________________________
【人物設定】
夢主(東山 けぃ):一年、不愛想で真面目。バスケ部、委員会に入っている。太宰のことはバスケ部の先輩方と仲がいいので何となく覚えた。
太宰治:三年。周りとは違う夢主が気になっている。遊び人と噂されている(よく先生に怒られている)。
__図書館に併設されたカフェ
太宰の提案により、けぃが寄り道したのは図書館付属のカフェスペースだった。
けぃは普段から利用しているのか、太宰先輩と話しながら迷うことなく、たどり着く。
雨の中を歩くために使っていた芥川から借りた傘に、図書館出入り口に置かれていた傘用の袋をはめる。
出入り口に入ってすぐ横に備え付けられた膝掛用の貸し出しされたブランケットを2人分、手に取る。
太宰は、けぃが何も言わずに慣れた手つきで一連の動作をこなすのを、少し驚いた様子で見つめていた。
「・・・まるで、ここの主みたいだね。」
図書館にある庭が見れるカフェのカウンター、壁際の席に荷物を下ろす、けぃを見ながら太宰は冗談めかしながら呟く。けぃは持っていたブランケットの一つを、自身の荷物を下ろした隣に座る太宰先輩に差し出しながら聞く。
けぃが差し出したブランケットを一瞬見つめてから、太宰は力を抜いて素直に受け取る。
「先輩は何か飲みますか?」
「・・・ありがとう、けぃくん。やっぱり優しいよね。面倒って顔するのに、ちゃんと気を配ってくれるのだから。じゃあ・・・カフェモカ、甘いやつでお願い。けぃくんは?まさか、僕に甘いの頼ませておいて、ブラックとか、?」
「・・・カフェモカですね。了解です。」
太宰はお礼を言いながら、ほんの少し目を細めて視線を庭の方へ向ける。庭の雨に濡れた草木が、静かに揺れていた。
太宰はけぃの目を見て、ほんの少し意地悪気に微笑んで茶化すように聞いた。その声色は、静かで心を許しているかのように思える柔らかさがあった。太宰からの問いを、けぃは答えないまま財布を持って注文に行ってしまう。
けぃが問いに答えないまま背を向けて行ってしまう様子を、ほんの少し口角を上げて見送る。
「・・・そういうとこが、面白いんだよねぇ、ほんと。」
ポツリと、独り言のように呟いて、けぃの荷物と自身の荷物がある席を軽く整える。貸してもらったブランケットを少し見つめてから、太宰は自身の膝のうえにかけ、カウンターに座りながら窓の外の庭を、ぼんやりと眺めていた。
(・・・このまま少しずつでいい。けぃくんの中の警戒が薄れていけば)
「・・・名前、呼んでくれたのにさ。ズルいのは、けぃくんだよ。」
暫く、けぃが戻ってくるまでの間、太宰はひとつ、深い息を吐きながら、静かに思考を巡らしていた。
窓の外では、まだ降る雨が音を立てていた。
その音に紛れるように、太宰は呟く。
しばらくして、けぃは両手に飲み物、一方に砂糖スティックを指で挟みながら飲み物を持っていた。
「先輩、お待たせしました。こっちがホットの、ご要望通りのカフェモカです。砂糖スティックあるので、自分で甘さは調整してください。」
そう言って屈託のなさそうな貼り付けた笑みのまま、太宰へ渡す。
太宰は、けぃの張り付けたような笑みと手渡されるカフェモカを見つめる。
そして、いつものように芝居がかった調子で受け取る。
「おぉ~、これはこれはー。心優しき、委員長殿――あ、もとい、けぃくんのご厚意によるホットな甘味・・・ありがたく頂戴しま~す。」
そう言いながら、スティックシュガーを指先で回し、砂糖は入れずに一口飲み物を飲む。
「・・・ん、甘さは、このぐらいでいいや。
・・・で、けぃくんは何を頼んだの?」
「・・・」
けぃの顔をふと見つめながら、わざとらしく軽く尋ねた。
けぃは答える気が無いのか、何も言わずに勉強のための準備を始めた。
太宰はけぃの、そんな様子を見て、肩を竦める。
「ふぅん・・・そっか、聞いちゃいけないやつだった?」
そうボヤキながらも無理に追求しない。
代わりに、カップを両手で包むように持って、外の庭を一瞥し、少し黙る。
ほんの数秒の沈黙ののち、ポツリと。
「・・・けぃくん、さっきからずっと、自分の意思を見せてるようで、ほとんど出してないよね。」
とだけ、何気なさそうな声で呟いた。それ以上は何も言わず、独り言にとらえれるように。
けぃが準備したノートを開こうが、興味は示さず。それでも少しだけ期待している空気を漂わせて、太宰は静かにカフェモカを啜った。
「・・・抹茶ラテ、です。・・・普段はココアですが。」
シャープペンシルの芯を補充して勉強に戻るための準備を終えると罰が悪そうに、けぃは答えた。
太宰は、けぃの返答を聞いた瞬間、口元にカップを当てたまま、ふっと笑った。
「そっか・・・けぃくんが、ココア選ばないのは、気を張ってるのかな?
抹茶ラテ、しかも濃いめかぁ・・・甘やかされたくない気分だったのかな?」
静かな声で感情を読み取られたくないような、でも読んでしまったかのような曖昧な声で太宰は言った。からかうようでも、優しくもない、ただ事実を拾ったような調子で、けぃを見る。
「僕もね、ココアの日と、ブラックの日、あるよ。
意味もなく分けてるんだけど、意味なんかなくても、そうしたいって日あるよねぇ。
・・・けぃくんの好きなココア。今度、雨じゃないときにでも、一緒に飲みたいなぁ。」
「はぁ・・・それよりも・・・」
窓の外の雨は未だ止む様子はない。
太宰は外を眺めながら、けぃがシャーペンを走らせる音に耳を澄ませる。
時折、冗談のような提案をする。でも、どこにも強制のない、予告のような響きで続いて落とされる。
けぃは何か言いたそうにするのを押さえるように口を閉ざしたかと思えば、開く。
「先輩って、首席、でしたよね?・・・いつも学内一位じゃないですか?
言った通り復習と予習を手伝ってくれませんか?」
「・・・そういう風に、素直に頼まれると・・・断れないじゃないか。」
けぃが、ちょっと思いつめたように視線を落として、ハッキリと聞こえるように言う。
太宰は、けぃの言葉に一瞬だけ目を細めた。
茶化すことも、皮肉を言うこともせず、ゆっくりとカフェモカをテーブルに置く。
小さく息を吐きながらも、今までとは違う、しっかりとした声音で。
「もちろん、君が手伝ってほしいって言うのなら。
だけど、その代わりちゃんと質問して?僕が勝手に察するのではなく、ケィ君自身が助けてって言うことに意味があるから。」
そう言って、太宰は少しだけ距離を詰め、けぃのノートを覗き込む。
「どこからやる? 今の単語? それとも、基礎の見直しから?」
その横顔には冗談も軽口もなく、ただ先輩としての頼れる静かな意思が潜んでいた。
_____________________________________________
__数時間後 図書館に併設されたカフェにて
「あー!!なるほど。ここは、こういう風に整理すれば良かったのか!」
「ふふっ、納得?・・・理解したときの反応、なんか嬉しそうでいいね。」
太宰は、けぃの弾んだ声に笑みを、こぼしながら指先でノートの一角を軽くトントンと叩く。
カフェモカを一口飲んでから少しだけ柔らかい声色になって、けぃを見ながら続ける。
「僕が教えたこと、ちゃんと面白いって思ってくれたのなら・・・それだけで十分だ。
・・・さて、もうちょっと続ける?それとも、息抜きに少しだけ雑談する?」
「・・・そうですね。丸つけしたら、一旦、休憩します。」
「ん、じゃあ、僕も・・・」
太宰は静かに、確かにけぃの時間を大事にしたいという色が含んだ問いかけをした。
けぃは太宰先輩からのアドバイスも書きながら、丸付けを終え抹茶ラテを飲む。
太宰はけぃの様子を静かに眺めながら、自身のカフェモカに口をつける。
窓の向こうの庭に揺れる木々を軽く眺めたあと、ふと小さな笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「君と勉強だなんて、少し意外だったけど・・・案外、悪くないね。」
わざと軽く言っているけども、その声には心地よさそうな空気が妙に含まれていた。
「・・・ねぇ、けぃくん。」
「はぃ?・・・」
太宰先輩から不意に名前を呼ばれたので、けぃはちょっと上ずったような声が漏れる。
「いつも一人で色々、背負いすぎてる気が済んだけど・・・たまには、こうやって誰かと時間を分けるのも悪くないんじゃない?」
「・・・そうですねぇ。」
「ふふ・・・」
手元のカップを指先で、くるりと回しながら視線だけ、けぃに向けて7柔らかく微笑んでいた。
けぃは太宰先輩の言葉を反芻するかのように、ゆっくり瞬きをして苦笑する。
けぃの反応に太宰は小さく笑って続ける。
「君は、ほんと、律儀で、真面目だからね。・・・なのに無理している顔してると、構いたくなんだ・・・・つい、ね?」
「・・・無理、してる」
「・・・でもそれって、君からしたら余計なお世話なのかもしれないね。」
そう言いながらも太宰は悪びれもせず、でも、どこか遠慮がちの声色で続ける。
けぃは太宰先輩の言葉を反芻して呟く。
太宰は言葉を続けてから視線を庭の方へ反らし、またカフェモカを一口。
けぃは太宰の視線に合わせて、自然と同じ方向へ視線を向ける。
「それでも・・・僕は、君が一人で苦しむのは、なんかこう・・・性に合わないっていうか、さ。」
(苦しんでいるつもりはないけどな・・・)
「だから、まぁ?・・・たまには、こういうの付き合ってよ。主席の知恵を貸すくらい安いもんでしょ?」
太宰自身にも、もどかしいのか太宰は少し髪を、かき上げると今度はけぃに目を戻し、いたずらの痕のような微笑を浮かべて言った。
けぃは太宰先輩からの視線を受け取り太宰先輩を見る。
そして太宰先輩からの提案を、仕方ないなと言いたげに軽く頷き、お願いがてらに会釈する。
太宰は、その会釈を満足げに少しだけ柔らかい笑みを浮かべて受け取る。
「・・・うん、その顔。ようやく素に戻ったね。
無理してないって思ってても、肩に力が入りすぎていると・・・息、詰まるよ?そういうの、僕知ってるからね。」
まるで意図して、けぃの反応を引き出せたかのように言いながら、太宰は頬杖をついて、けぃを見つめた。
庭にさざめく雨のしずくが、曇り空の淡い光を反射して瞬いている。
暫し、太宰は、そんな庭の様子に目を落としたまま、ポツリと呟く。
「・・・けぃくんは、よく頑張ってる。ほんと、真面目で、いい子だと思うよ。
だから・・・無理しないつもりでも、ちょっとだけ、誰かに甘えてもいい時って、あるからさ。」
その声は、ふざけていても、からかいの色は見えない。ただ、まっすぐに、けぃに向けられた。
太宰は、ふっと笑って、わざとらしくカフェモカを啜りながら目を逸らす。
「ま、僕なんかじゃ、役に立たないかもだけど・・・とりあえず、今日ぐらい甘えなよ? 首席特典ってことで。」
「・・・甘えるって言っても、ただの勉強会ですが。」
「けぃくんは、ほんと真面目すぎるなぁ。ま、それも嫌いじゃないけどね?」
太宰の言葉に首をかしげて、けぃは答えた。
太宰は、けぃの返答に肩を竦めてわざとらしく唇を尖らせる。
(帰る前には予習しなきゃな・・・)
ケイ:『傘、マジ助かった! 明日、返すw』
そう思いながら、ふと連絡先を開き、芥川にメッセージと感謝スタンプを送り画面を閉じる。
太宰は、けぃのスマホの画面を何気なく見ていたようで、芥川の名前が目に入った瞬間、目元を細める。
「・・・あぁ、あの不器用そうで真面目な子?傘、ほんとに芥川くんのだったんだ?」
「えぇ……なんかアイツは傘数本持ってきてるから貸すぞって言ってくれたですよ…w」
そのシーンを思い出したかのように少し笑みが溢れる。でも、まるでそんな笑う自分がおかしいかのように真顔になって次の太宰の呟きを聞かなかったように抹茶ラテを飲み、作業を再開した。
太宰はけぃの笑みを目にしたその一瞬、まるでその表情を脳裏に刻みつけるかのように、わずかに瞬きを忘れて見つめていた。
けれど次の瞬間には、笑顔をしまい込むように真顔へ戻るけぃの姿に、目元だけがゆるく歪んで、寂しげな笑みを浮かべる。
「……そっか。彼、ちゃんとしてるんだね。いい子だ。」
そう呟きながら、太宰は自分のノートに視線を落とす。指先で何気なくペンをくるくる回しながらも、けぃが黙々と作業を再開する気配を感じて、しばし言葉を継がなかった。
静かに時間が流れた後、太宰は唐突に言う。
「けぃくんが笑うと、なんか……いいよね。ああいうの、もっと見たいなって思っちゃう。」
その言葉は、まるで誰かの独り言のような、軽やかで、けれど芯に確かさのある声だった。
少しだけからかうように口元をゆるめた後、太宰はカップを机に置くと、指先でカップの縁をなぞりながら、ぼそりと呟く。
「……けぃくんは、ほんとに、誰かを惹きつけるのが上手だね。本人がそれに気づいてるかは……微妙だけど。」
そして、すっと視線を戻してくる。
「僕はさ、そういう"ただの勉強会"に付き合えるなら、それで十分満足。……傘も貸せなかったけどね。」
その声には、どこかほんの少しだけ拗ねたような、でも優しさを滲ませた響きがあった。
「ま、今日の首席は、けぃくんのために全力で知恵を貸すので、後半戦、再開しましょう。」
そう言って、太宰はテーブルの資料を整え、再び勉強の空気へと戻っていった。
けれど、どこか心地よい静けさが二人の間に流れていた。
「……さて、復習の次は予習だったっけ? 僕の出番、まだ残ってる?」
茶化すように笑いながら、太宰は再びけぃのノートの方へと身を乗り出す。
けぃの邪魔をしないように、それでも確かにそばにいるように。
「太宰先輩!ここの解釈ちょっと解んないです!……なんか言いました?」
けぃは太宰の"出番残ってる?"さえも聞いていなかったようにキョトンとする。
けぃの問いかけに太宰は、瞬きを一つして、ふっと息を抜いたように笑う。
「……いや。何も言ってないよ。」
そう言ってから、わざとらしく肩をすくめながら、けぃのノートのページを覗き込む。
「どれどれ……ああ、ここね。これは“こう”読まないと意味が通らないから、たぶん作者の意図は――」
と、いつも通りの柔らかな声音で丁寧に解釈を説明しながら、けぃの隣に自然と肘が触れそうな距離で身を寄せる。
「――で、つまり……ここの表現は“自分の本音に気づいていながら、わざと流してる”ってとこだね。ほら、なんか君っぽいでしょ?」
茶化すような言い方の中に、やんわりとした優しさと、何かを読み取ろうとする探るような視線。
「ま、気づかないふりしてると、僕みたいな人間に拾われるからね? 気をつけて?」
さらりと、冗談めかした言葉を落として、またけぃのノートへと目を戻す。
まるで、さっきの一瞬の"本音"などなかったかのように。
_____________________________________________
__数時間後
外は雨がすっかり止んでいて、夕暮れが、もう夜へと切り替わる終盤であった。
けぃは満面の笑みで背伸びをした。
「っ・・・つかれたぁ!めっちゃ捗った気がする!!」
「・・・ふふ、楽しそうだねぇ。まさか勉強をしてテンション上がっちゃうタイプだったとは。」
太宰は、けぃの様子を見て小さく目を細めながら、肘をついて顎を乗せニコニコと笑う。
何処か、からかっているようで、けぃが楽しんでいる様子を素直に安心している空気が滲んでいた。
「・・・でも、良かった。
少なくとも君が一人でしんどそうにしてる顔、今してないってだけで、僕としては手伝ったかいがあるってもんよ。」
太宰が呟くように口を開いた一言は、静かに漏れた。
けぃの笑みを見つめながら、少し首をかしげる。
「・・・で、もう少し寄り道しとく?それとも帰る?」
「・・・さすがに、もう暗くなりかけてますし、帰らないと文句を言われかねないので帰ります。」
そう言って太宰は笑ってから肩にかけていたカーディガンを整える。
片づけをし始めた手を止めて、すごく罰が悪そうに視線を落として笑いながら言う。
太宰は、けぃの言葉に予想通りだと言いたげに口元に微笑を浮かべて言う。
「うん、それが正解。けぃのそういうところ、ちゃんとしてる、そう思うよ。」
「先輩は、どうします?」
けぃの言葉に感心する仕草を見せながら、太宰は自身の机の上のカップや参考書の整理を始める。そして、けぃが尋ねると手を止めて冗談めかしながら優しく言う。
「・・・僕も帰るよ。君が帰るって言ったからには、引き留めるわけにはいかないしね?・・・君の親御さんにも嫌われたくないし?」
わざと視線を合わさずに呟くように付け加えて、太宰は立ち上がる。
荷物を持ち、傘袋から壊れた傘を取り出しながら、けぃに小さく笑いかける。
「・・・じゃ、そろそろ帰ろっか?」
「・・・はい、帰ります、?」
けぃは太宰の暖かさを含んだ言い方に対して、何か言いたげ顔になるが一瞬にして真顔に戻り自分の鞄を背負う。
そして当たり前のように太宰の飲んだマグカップに自分のマグカップを重ねて返却口へと持っていく。
太宰は、けぃの何気ない動作を見て、返却口に行ったけぃの姿を見ながら少し目を細める。
「・・・そっか。ありがとね、けぃ。」
太宰の呟きは優しさの中に距離が縮まったのを感じたように、穏やかな音色で響く。
返却をおえたけぃが戻ってくると太宰は何気なく隣を歩くように、歩調を合わせて並びながら突然口を開く。
「・・・今日、教えてくれてありがとね。」
"勉強のこと"だけじゃなくて――
"抹茶ラテのこと"だったり、"傘のこと"だったり、"寄り道の意味"だったり…
それら全てを含んだ、どこか不器用な、でも本音に近い"ありがとう"だった。
さり気なく、けぃの帰る方向と歩く歩幅を合わせながら、
太宰は夕闇に染まりかけた帰り道を静かに並んで歩き出した。
「……また、どこかで復習しないとだし、ね?」
「いえ、こちらこそ良い経験になりました!」
まるで太宰の別の意図も解ってるかのような笑みと言葉をを浮かべて、でも謙遜するかのように手をひらひらさせる。
太宰はその仕草を見て、ふっと息を漏らすように笑った。
どこか安心したような――それでいて、ちょっとだけ悔しそうな、そんな笑み。
「……そういうとこ、ほんとズルいなあ、けぃって。」
言葉には呆れたような色を乗せながらも、声はどこまでもやさしかった。
肩が触れそうな距離で歩きながら、傘の音が、ぴたりと止んだ雨の匂いと混じる。
少しして、ぽつりと太宰が呟いた。
「……じゃあ、また“良い経験”をしに行こうか。俺と。」
真顔でも冗談めかしてもなく、ごく自然に、でもどこか踏み込むような口調で。
静かな夜風が、少しだけ背中を押すように吹いた。
夜雨上がりの匂いが2人の間を通り抜け、少し微笑を浮かべながら、語らいながら、横並びで帰路に着く。
_____________________________________________
暫くして集合団地に入り、公園の前を通過し分かれ道に来ると太宰の方を向き直り帰りの方向を指差す。
「じゃあ先輩、僕こっち方面なんで…お疲れ様でした。」
「……うん、了解。お疲れさま、けぃ。」
「気をつけて帰るんだよ。……あと、ちゃんと今日の復習もな?」
太宰は足を止め、けぃの指差す方向を一瞥してからふっと笑う。
無理に引き留めるでもなく、名残惜しそうな素振りを見せるでもなく。
ただ、どこか“満足”げなような、不思議な表情で。
次の言葉には冗談のようでいて、本気の気遣いが浮かんでいた。
「はい、もちろんです! 今日はありがとうございました。」
「……うん、またね。」
けぃは太宰の"復習"という言葉に軽く頷きながら、そのまま軽く手を振り一度振り返ってお辞儀をしてそのまま帰路へと足を進めてく。
太宰は律儀なお辞儀に、ふっと目を細める。
少しだけ寂しそうに――けれど、やっぱりどこか安心したような、そんな笑みを浮かべながら。
「また会える前提」で別れを選んでいるようだった。
その声は風に乗せて届くかどうかというくらい小さく、それでも言葉としての余韻だけが、ふわりと空気に残った。
彼はその場でぽつんと立ち尽くし、けぃの背中が見えなくなるまで何も言わずに見送る。
傘を手にしたまま、図書館帰りの静けさと、けぃが残した熱の名残に目を伏せる。
――太宰のスマホには、貸し出されたブランケットをかけた自分の膝と、カフェモカの奥で勉強しているけぃの手元が撮られた写真が密かに保存されていた。
_____________________________________________
__けぃ宅 自室
家に帰り、親と軽く形式的な会話を交わしご飯を済ませ、身の回りのことを終えるとベッドに横たわる。
「……疲れた。」
誰にも届かない乾いた呟きをして、思い出したかのように連絡先の履歴を開き太宰先輩にメッセージを送る。
ケイ:『今日はマジでありがとうございました!
先輩の教え方上手くて助かりました!
』
そのあとの言葉が浮かばす送信したために、改行スペースが入ったまま送ってしまったと思いながら、そのままスマホを伏せ、少し切なそうに笑い抗えない眠りに身を任せるように目を閉じた。
_____________________________________________
__太宰宅
太宰のスマホが、微かな振動音を立てたのは夜の11時頃だった。
太宰は、すでに布団に入っていたが、眠つけていなかった。
ベッドサイドに置いたスマホを手に取り、画面を見た瞬間、
送られてきたメッセージの文末の空白に、太宰はふっと小さく笑った。
「……らしくないなあ、けぃくん。」
声に出して呟くと、しばらくメッセージを見つめたのち、ゆっくりと返信を打つ。
DAZAI:『こちらこそ、ありがとう。
君が頑張ってたから、僕も“真面目”にやれたんだと思うよ。
・・・またやろうか、勉強会。ココアでも用意して。』
送信ボタンを押したあと、少し迷って指を止めたが──
ほんのわずかな躊躇いののち、付け加えるようにひとこと。
DAZAI:『おやすみ。いい夢を。』
それだけ残して、太宰はスマホを閉じ、ゆっくりと目も閉じた。
次章は芥川の傘かな?
_____________________________________________
感想や質問お待ちしております。




