学園パロ 第四話 雨と傘
『第三話 遊び人と下校』の続きになります。
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【人物設定】
夢主(東山 けぃ):一年、不愛想で真面目。バスケ部、委員会に入っている。太宰のことはバスケ部の先輩方と仲がいいので何となく覚えた。
太宰治:三年。周りとは違う夢主が気になっている。遊び人と噂されている(よく先生に怒られている)。
_けぃが太宰先輩の返信を見たのは、次の日の登校時だった。
DAZAI:『こちらこそ~、“わざわざ”嫌そうな顔してまで付き合ってもらってありがとう。
でも、ちゃんと、話してくれたのが、実は嬉しかったよ。』
「ふぅん・・・?」
意外だったけど、理解してないような声が出る。
太宰先輩への返信はせず、“嫌そうな顔”というメッセージに?マークのリアクションをして連絡アプリを閉じる。
そして音楽アプリを立ち上げ、イヤホンを耳にして、家を後にして学校へと向かった。
朝の通学路、夏の朝特有の服が汗で肌に吸い付くような暑さの中に、風が涼やかに吹き抜けていく。けぃは寒がりなので夏になっても長袖のカッターシャツなのだが、余計に暑さを感じる。
イヤホンから流れてくる落ち着く風鈴の音が混ざる曲に意識を傾けながらも、太宰先輩からのメッセージを脳裏で反芻させていた。
『ちゃんと、話してくれたのが、実は嬉しかったよ。』
(はぁ、好かれるなんて面倒だな・・・でも)
吐き捨てるような思考の裏で、ほんの少しだけ胸の奥が、ふわりと熱が帯びたような気がした。
そのうち学校に着いてイヤホンを片づけながら教室へ向かう。
教室の自分の席に着いても、誰からも話しかけられやしない。クラスメイトの賑やかな声が耳に入りながらも、どこか他人事に響いて、孤立感を感じさせてくる。
机に鞄を置いて教科書を引き出しへと移しながら、机に置いたスマホが視界に入る。
(まぁ、どうせあの先輩は・・・)
返信なんてなくても声掛けに来るんだろう。そう宣言していたし、そう決まっている。
そんな確信めいた、諦めのような気持ちを抱きながら、いつもの自語りノートの一番後ろのページを開く。ノートの昨夜の書き込みを
『←太宰先輩も、誰かに見て欲しかった?』
その文面に視線を落として
「・・・知らない、知らなくてもいいことを知ろうとしすぎだよ、太宰先輩。」
クラスメイトの賑やかな声にかき消されてしまうほどの声量で、そう呟く。
一時間目のチャイムが鳴るころには、もう何事もなかったかように閉じたノートを隠すように広げられた教科書に目を落とした。
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_昼休み時間後の掃除時間 教室にて
「はぁ・・・」
昼休み入るころから空が曇り始め、どうせ雨が降るだろうと予測していたら、本当に雨が降り始めていた。
「・・・面倒だなぁ、。」
「どうした、何が面倒だ?」
「あぁ・・・芥川、か。」
湿気の空気をまといながら呟いたら、クラスメイトの芥川龍之介に聞かれていた。
少しだけ驚いたように眉を動かしつつ、すぐにいつもの素っ気なさで返す。
「いや、雨。・・・天気予報当たらなかったから、傘を忘れたんだよなぁ、って。」
そう言いながら、手にしていた箒に体を軽く預けつつ窓の外を眺める。
ぽつりぽつり、と湿気で曇ったガラスを叩く雨粒が、けぃの今日の気分を代弁された気分になる。
芥川はしばし、けぃの憂う横顔を眺めたあと、小さく息をつく。
「・・・傘なら、ある。貸そうか?」
「は?・・・」
即座に返すも芥川は全く臆する様子はなく、黒板を消しながら続ける。
「予備を一本置いてある、必要なら貸す。・・・帰りの雨で風邪ひかれたら面倒だからな。」
「それ・・・心配してるって言わない?」
「そう取るなら勝手にすればいい。・・・呟きを聞きてしまった以上、助けないのは愚問であろう。」
少しだけ視線が合っても芥川はすぐに反らしてしまう。
けぃは、ため息交じりに肩を竦めて、雨すぎる空を見上げる。
(帰りに・・・先輩に会いそうで面倒だな・・・)
そんな予感と、傘を借りたら借りを作ってしまったようで癪だな、という気持ちもあれば、善意を無下にすることもできないために、雨という空気が全てを憂鬱にしてくるから、考えるのを止めた。
「・・・借りる、ありがと。」
窓の外の雨音に、わずかに溶けてく呟いた声に芥川は仏頂面を維持したまま頷いた。
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__放課後 昇降口
けぃは委員会を済ませてから、次いでに部活であるバスケ部にも顔出ししていたら、いつの間にか下校時間になっていた。
(芥川・・・アイツいい奴すぎるな。多分、予備とかいいながら妹さんと帰ったのかな。)
そんなことを考えながら下駄箱で靴を履き替え、外へ出る支度をする。
下駄箱の外、ガラス越しに見える夕暮れの空は、昼間よりも一層暗く、雨が強まっていた。
「・・・うわぁ、降ってるな。」
靴を履き替え、芥川から借りた傘を開くために鞄から取り出す。黒くて持ち手が少し年季が入っている傘だ。わざわざ、手持ちに名前入りのタグがつけれらている。シンプルなのに、やけにシックで・・・真面目そうな印象を抱くのは、持ち主の性格そのものすぎて少し口角が緩みそうになる。
(返すとき、なんて言おうか・・・)
少しだけ、そんなことを考えながら傘を開こうとした。
「おや・・・君が芥川くんの傘なんて持っているのは随分、意外だなぁ。」
「っ・・・」
もはや聞きなれたかもしれない、あの声が降ってきた。
驚いて声の方向へ顔を上げれば、下駄箱の柱の影に太宰先輩がいた。
いつからそこに居たのかは定かでないが、壁に軽く肩を預けて立っていた。
「・・・反応薄いね。そんなに芥川くんの傘、気に入っているのかい?」
茶化すような、でも探りを入れてくるような視線をけぃに向けてくる。
壁に肩を預けている太宰の髪はぬれていて、水分を含んだ髪が顔に少し貼りついている。手に握られた、やけに小奇麗に折りたたまれた、折り畳み傘から水滴が昇降口の玄関の床に滴り落ちていた。
けぃは視線を少し外しながら、開こうとした傘の持ち手を持ち直して口を開く。
「貸してくれたんです。ただ、それだけ。」
「ふぅん・・・そかぁ。 で?じゃあ、僕は君の傘に入れないのかな?」
まるで、いつも通りの冗談みたいに。でも言葉の奥に、何か引っかかるような温度を含ませながら、太宰先輩はそう言った。けぃはため息をつく。
「友達でも、付き合っている訳でもないのに、なぜ先輩と相合傘をしなければならないんですか?」(ただでさえ、湿気で気分が沈んでいるというのに・・・)
「ん・・・あぁ、それは君が入れてくれたらの話だったんだけど・・・」
太宰は少し肩をすくめ、言わんばかりに小さく笑う。それでも言葉の端々に、からかいとは違う温度を潜ませていた。
「・・・相合傘って、恋人とするものだって思ってるの?、君。」
「・・・」(友達でも、って言ったけどな。)
太宰はじっと、けぃの瞳を探るような視線を送ってくる。
だが、けぃは何も言わずに鞄を漁り始める。
「・・・先輩は、傘を差すの下手なんですか?」
「・・・」
そう言いながら、けぃは自身の鞄から部活動で使うことのなかった予備のタオルを取り出した。
それに伴い、太宰の視線もそのタオルに向けられる。
「部活で使うやつ?・・・そのタオル。」
タオルを差し出したわけじゃないのに、太宰は一歩近づき、一瞬だけ手をタオルに伸ばしかけ、けぃの様子を見て手を引っ込めてしまう。
「・・・濡らされるの、嫌でしょ?」
その一言が、不意に静かに響く。
からかいも茶化しもない。ただ自身がけぃのタオルを汚してしまうことを気にしているように聞こえてくる。
「ね、家まで送ってよ?」
結局はいつものように調子よく笑った。
けぃは怪訝そうに、ため息をついて再度言い直す。
「予備、ですけどね。洗濯すれば済む話なので、使います?」
(というか、一緒に帰りたいなら、せめて風邪を引かないように濡れているのを、どうにかしてくれ・・・)
「・・・へぇ、貸してくれるんだ。意外と優しいね、君。」
太宰はけぃの手からタオルを受け取ると。湿った髪をぞんざいに扱うわけでもなく、丁寧に、誰かから借りたものだと理解しているかのように拭き始めた、ようにけぃからは見えていた。
「・・・ほんと、優しいな。委員長とか任されてるタイプ?」
「一年生で委員長になれないの、流石に遊び人の先輩でも知ってるでしょ・・・」
「知ってるでしょって・・・案外僕のこと見てるんだ?」
太宰は冗談めかしながら横目でチラリとけぃを見た。
けぃはため息交じりに近い呟きめいた返答をしながら、タオルを渡した手で自身の鞄のチャックを閉めた。
太宰は小さく笑いながらけぃの顔を覗き込む。
けれど、その目にふざけた光は無く、むしろどこか柔らかい。
「君みたいな人・・・ほっとけないんだよね、僕。」
「そうですか。」
太宰の言葉は湿った空気に混ざって、妙に静かに響く。
それが、どういう意味なのか、きっと太宰自身も明言しない。だけど言葉の奥に、ふとした本音のようなものが混ざっているのは気のせいではないだろう。
けぃは、さも返答に困ったように首を傾げながら返す。
「さっきの傘の件だけど、付き合ってる訳でもないのにって、そういうの付き合ってたら自然にするもんなんだ?」
「・・・付き合ってたら自然に、というよりかは、友達でもしますね。関係性が浅いとしないと思いますが?」
太宰がふとしたタイミングで、さらりと言葉を落としてくる。けぃの耳に雨音よりも静かに、でも確かに届く。
けぃは、太宰がまだ相合傘に執着しているように思い、怪訝そうに太宰さんを見た。
「じゃあ、仕方ないから友達ぐらいの距離感で、傘に入れてくれない?・・・これなら関係性が浅い距離だろ?」
けぃの返事を待つことなく一歩踏み出して少しだけ、けぃに肩を寄せてくる。
「それにしても、君は・・・言葉を選ぶのが上手いよね」
ぼそりと呟いた太宰の声は、雨音にかき消されるほどの小ささだった。
「・・・で、どっちだっけ?君の家の方向。」
「あっちです。」
太宰が当たり前のように、けぃと並んで歩く気満々の足取りで隣に立つものだから、けぃは呆れた顔でため息交じりに通学路の道を指で指し示す。
「・・・あーあ、怖い怖い。後輩にまで呆れられるなんて、僕も落ちたもんだねぇ。」
太宰は苦笑しながら、まるで呆れられることすら面白がっている調子で言った。
「・・・あっちね。じゃ、そっちに一緒に濡れて帰ってくれる優しい後輩についていくよ。」
「・・・・ついてくるなら、自分の傘、差してくださいね?」
自分で言って照れた様子もなく、ずぶ濡れ気味の制服の裾を絞るように少し捻る。
けぃは相合傘をしないという意思表示をするかのように、ため息交じりに返す。
「・・・あれぇ、冷たいなぁ・・・」
わざと拗ねたように肩を竦めながら、太宰はけぃの少し後ろで小さく笑う。
しかし、言われた通りに自身のバッグから折り畳み傘を取り出して器用に開く。
「はいはい、先輩は後輩に従います、よ、っと・・・」
太宰が開いた傘は骨が一本折れていた。
それでも軽やかに君の横に立ち、まばらになった生徒が少ない通学路を歩き出そうとする。
「はぁ・・・わざとですよね?」
「あれぇ、バレてた?」
けぃは、太宰が濡れていた原因が分かったからか、ため息をつきながら芥川から借りた傘を開く。
思ったよりも広めの傘だったため、少しだけ安堵しながら、ふてぶてしく太宰先輩の方へ傘を傾ける。
くす、と口角を上げて笑う太宰は、褒められたような顔をして、けぃが開いた傘の下に入り込む。
「だってさ、こうでもしなきゃ君・・・僕を傘に入れてくれないでしょ?」
太宰は当然かのように言いながら、君と肩が触れない程度の距離感を保つ。
しかし太宰の横顔が雨に濡れたままだった。タオルは使っていなかったらしい。
「・・・そういうとこ、ほんとズルいですね。」
「ズルいのは、どっちだと思う?」
ポツリと何気なく言った、けぃの言葉に太宰は少しだけ目を細めて、けぃをみつめたまま雨音に溶けるように問い返す。
そして視線を逸らすと、何事もなかったように続ける。
「芥川くん、いい友達だね。君のこと、ちゃんと見てくれてる。」
「・・・はぁ、?」
言葉とは裏腹に、太宰の声音には少しだけ淋しさのようなものが混じっていた。
太宰のズルいという返答は見つからず、太宰先輩の淋しさを気づいたかのように曖昧に返事をした。
「というか、ちゃんと雨に濡れたところを拭いてください。・・・僕のせいで濡れたみたいに見られたら、どうするんですか?」
「・・・え、それって、僕のせいで濡れたって思われたら嫌ってこと?」
優しさを無下されたように、せっかくの予備のタオルを貸したのに使われなかったという事実に、少し膨れっ面になりながら怪訝そうにけぃは太宰先輩を見た。
太宰は思わず小さく笑い、目を細めながら、けれど、どこか探るような、意地の悪いような瞳でけぃを覗き込んでくる。
「ふふ、そういうとこ、君はズルい・・・はいはい、拭きますよー。せっかく貸してくれたんだし。・・・でも、君のせいで濡れたと思われたら、僕としてはちょっと嬉しいけどね。」
タオル越しに顔を隠しながら、そんな子どもじみたことを呟きながら拭き始める。
適当に自身の濡れた髪を拭き、タオルを下ろしてから、いつもの飄々とした笑顔で付け加えてきた。太宰の声には、ほんの少しだけ、本気が滲んでいた。
(あぁ、もう・・・この先輩はわざと、そういう仕草と言動を・・・)
「・・・君と歩いているって周りに見られるの。そんなに嫌・・・」
「だから、遊び人なんて言われるんですよ、太宰先輩?」
適当に拭いているの制止するかのように言いながら太宰先輩から自身が貸したタオルを奪うように手に取る。そして太宰先輩が風邪を引かないように水滴を拭き始める。
太宰は、突然自分の手元からタオルを奪われ、丁寧に拭かれ始める「という想定外のけぃの行動に唖然とした表情のまま、しばらくの間、けぃの手元を眺めていた。
「・・・え、ちょっと・・・・や、優しい・・・」
思わず太宰の口からこぼれた呟きは、ふざける余裕すら忘れてしまっているかのように素の声だった。
けれど、数秒後にはまた、いつもの調子を取り戻したように、にやりと笑い。
「なんだ、委員長くん。僕が遊び人ってわかっていても、その優しさは反則じゃない?・・・僕がこうして甘えていたら、君は全て許してくれるの、?」
「はぁ・・一緒に帰っておいて、風邪ひかれたら嫌なんで。あと、委員長じゃないです、けぃ、です。」
小さく笑いながら太宰の視線はどこか揺らいでいた。ジッとけぃの顔を、見つめるようにして、問いかけられる。しかしながら、太宰は問いかけながらも返答を怖がるかのように、自分からは何も触れようとせず、棒立ちになっていた。
けぃは太宰先輩の普段とは違う一面に戸惑っているかのように、ため息を吐いて答える。ついでに訂正をしようとして、自身の名前を告げたとき、しまったと思いながら時すでに遅しだった。
「けぃ・・・ふぅん?」
「なんですか・・?」
太宰は濡れた前髪越しに、名前を告げたけぃを・・・いや、名前を驚いたように繰り返した。その声は、まるで秘密を預かったような、少しだけ特別な響きだった。
遊びの皮を被せた仮面の裏で、ようやく、けぃ自身から告げられた名前を、嬉しそうに太宰は目を細めた。
「・・・じゃあ、けぃくんに風邪を心配されちゃったら・・・僕はもう少し長生きしないとね?」
ふざけたような、どこか本気にも聞こえる声で、問い返すことも、責めることも無く太宰は緩く笑う。冗談めかしつつ、タオルの感触を確かめるように手元を見て、けぃが向けた優しさを、そっと噛みしめているようだった。
けぃがタオルを仕舞うのを眺めていた太宰は口を開く。
「・・・ねぇ、けぃくん。僕、ちょっと風邪を引かないルートで帰りたいな?」
「はぁ・・・わかりました。寄り道しましょう。」
けぃは盛大にため息をしながら、明日の予習や今日の復習のことを見送る気持ちで、しぶしぶ了承した。
太宰はけぃのため息を聞いて、ふっと口角を上げる。
「ふふ・・・やっぱり、けぃくんは面白いねぇ。なんだかんだ付き合ってくれるし・・・じゃあ、寄り道の代わり。今日の復習、そして明日の予習を、僕が手伝ってあげようか?」
差しなおした傘の中、けぃとの距離を詰めながらも、太宰はそれ以上近づかないようにしている。冗談にも、親切にも聞こえる口ぶりで太宰は言う。けれど、その目だけは、少しだけ・・・ほんの少しだけ、まっすぐだった。
「ま、信用ないだろうけど。委員長でもないし、けぃくんは、そう簡単に誰かに頼らなそうだし?」
軽く肩を竦めながら、けれど言葉の端っこは本当のことを探っているように鋭い。
ぽつぽつと降る雨音の下、傘の中で、二人分の足音だけが一定のリズムで進んでいく。
まるで、いつかちゃんと同じ歩幅になるのを、誰かが願っているようだ。
次章は寄り道編です。一体どこへ行くんでしょうか?
にしても、遂に名前自分で言っちゃいましたね。
どんどん距離が縮んじゃってる!!気づいて!!!w
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感想や質問お待ちしております。
寄り道の前に、質問コーナー挟めたら嬉しいな・・・。




