学園パロ 第三話 遊び人と下校
こちらは、『学園パロ 第二話』の続きになります。
_____________________________________________
【人物設定】
夢主(東山 けぃ):一年、不愛想で真面目。バスケ部、委員会に入っている。太宰のことはバスケ部の先輩方と仲がいいので何となく覚えた。
太宰治:三年。周りとは違う夢主が気になっている。遊び人と噂されている(よく先生に怒られている)。
_放課後、体育館にて
「はぁっ・・・」
今日、けぃは委員会が無いのでバスケ部で部活動の活動をしていた。
体育館に響くバッシュの音。空気が熱を帯びて、夏らしい特有の匂いが混ざっている。
けぃが放つボールがリング内を回るようにして入る。ボールがリングに吸い込まれる瞬間、誰かが体育館の二階観客席スペースから身をのりだすように膝を手すりについて、静かにその光景を眺めていた。
「へぇ・・・あんな顔もするんだ。」
制服のまま教科書を持っている様子もなく、ただ軽く呟いた。その声は、太宰自身にも聞こえるかどうかほどの小ささであった。しかし、太宰の目線はコート内を動き回るけぃを追いかけるように動いている。
走って、汗をかいて、真剣にプレイしているけぃ。
そして
休憩時間には、誰かと水を飲んで談笑している姿も。
「・・・さて、と。」
太宰は手すりから体を離して、静かに立ち直し手練れにも見られることなく、その場を後にした。
_____________________________________________
「先輩、お疲れさまでした。お先です。」
「おう、おつかれぃ。」
部活を終え、早々に着替え終わったけぃは、部活の先輩や部活仲間に形式的な挨拶を交わして下駄箱へ行く。
_体育館 出入口
体育館の出入り口に備え付けられた下駄箱に向かう途中。夕方の柔らかい光が、校舎の廊下を黄金色に照らして、延々と続いているように思わせてくる。
けぃの髪の毛先にはうっすらと汗が残っていて、体温がまだ完全には落ち切っていない。
カツ・・・
体育館用のバスケットシューズの足音が廊下に響く。
すると、下駄箱の前、壁に背を預けて立つ見慣れた影が口を開いた。
「・・・やぁ?お疲れさん、頑張ってたね。」
「お疲れ様です・・・ってまた先輩ですか。」
けぃは部活の先輩かと思って少し元気そうに返答したが、太宰先輩だと解り怪訝そうな顔になる。太宰は制服を脱いで、自身の腕にかけていた。いつものように少し緩められたネクタイをして、片手をポケットに突っ込んでいた。さも、当たり前のようにけぃを待っていたような顔をしている。
「ほら、委員会なかったんでしょ?」
「委員会じゃないですね・・・先輩は暇人なんですか?」
そしてまるで当然であるように、けぃのスケジュールを言い当てる太宰。けぃは少し罵ったように返答しつつ、下駄箱から内履きの靴を取り履き替える。そんな一連の動作を邪魔にならないように少し横によけたまま、太宰は目を細め、けぃを見守る。
「僕は暇じゃないよ?ただ、君の知らない一面知りたかっただけ・・・水、持ってきた。要る?」
そう言って、コンビニのロゴが入った冷えた状態のボトルを片手で持ち上げて見せてくる。
太宰はどこか優しさと茶目っ気が混ざる瞳でけいの反応を見ている。
「・・・はぁ、ありがとうございます、?」
何を考えているんだと言いたげに太宰の顔を見てから、先輩からのを無下にできずに受け取る。
太宰は、けぃの少し刺々しい反応を見て、まるで慣れちゃったと言いたげに、薄く笑ったまま肩を竦める。
「うん、それそれ。ちょっと癖になりそうだよ、君のため息。」
水のペットボトルを受け取ったけぃの指先がほんの少し触れた瞬間、太宰は目を細めて、少しだけ真剣に近い声色で、少しだけ優しく。
「・・・でも、感謝を口にできるの、ちゃんとしてるね。」
そのあと、照れたのを隠すようにすぐに言葉を紡ぐ。
「で、帰るとこだよね?一緒に歩いても、追い払われない範囲でなら、ついて言ってもいい?」
少しクスリとしたように太宰は笑いながら言う。けぃは太宰の返答をさも、聞いていないかのように、履き替えた内履きを結びなおし鞄を持つ。
「・・・そうですか、好きにしてください。」
凄く嫌そうな顔をして、先輩からの頼みは無下にできないので、顎で指し示すように太宰を急かすように先に体育館を後にする。
太宰はけぃの冷ややかな反応に、それあえて楽しんでるように、わざとらしく肩を竦めてから小走りで追いつく。
「はいはい、お言葉に甘えて・・・好きにさせてもらうねぇ。」
苦笑交じりにけぃの横へと歩み寄り、ほんの半歩後ろをついて歩く距離感を保ちながら歩き出す。
「ねぇ、君ってば・・・怒るのも、冷たいのも、人付き合いちゃんとしてるからこそなんだよね。礼儀はあるけど情は見せない感じ?」
「・・・はぁ?」(やっぱり、好きにしろなんて言わなければよかったか?)
太宰の言葉はからかっているように聞こえるのに、その声色はけぃに興味を持っている、興味深そうで。
太宰はけぃの輪郭をなぞるように、じっと横顔を盗みみて。
けぃは横からの太宰の視線を感じながら、ため息に似た声を漏らす。考え事をしつつ太宰先輩の半歩前を歩く。
「・・・ところで、バスケ部だったんだね。あの綺麗なフォーム、目立ってたよ?」
「・・・どうも?」
太宰は褒めているのか観察していたのか、どちらともとれるような声で。
けれど、ほんの少し本音が混ざっているような、そんな不思議な重みをもっていた。けぃは太宰先輩がバスケ部に入っているのが意外そうに言うもんだから、素直に受け取りたくても受け取れずに曖昧な返答を返した。
少し怪訝そうな顔のまま、重々しく口を開いたように尋ねる。
「・・・そういえば、なぜ僕に構うんです?」
太宰は足を止めずに、だけど歩調は緩めた。まるでけぃの問いを吟味するように少し間を開けて、いつもの太宰らしいチャけた様子はない。
「さぁ・・・なんでだと思う?」
問いを問いで返した。その声色は淡々としているようで、でも探りを入れているようでもあって。だがすぐに、太宰は笑う。ただ、今度は皮肉も茶化しも含まぬ、妙に静かな笑みだった。
「・・・君みたいに、わかっているようでわかっていない人って、放っておけないんだよね。
・・・俺がそうだったから、かな?」
何気ない一言のように見えて、その言葉の底には、自身を重ねているような響きが含まれていた。
ふと目を伏せるように視線を落としたかと思えば、半歩前を行くけぃの横顔を覗き込むようにして見る。
「だからまぁ・・・無視されようが冷たくされようが、飽きるまでは勝手に付きまとうと思いますんで、よろしゅう、後輩くん。」
「・・・そう、ですか。」
太宰は軽く頭を下げて、にやりと笑って見せる。けれど、その笑顔はどこか寂しそうで。けぃの問いに対して真面目に答えた自分に、ほんの少しだけ照れくさそうに誤魔化しているようにも見えた。けぃは先輩なりに色々考えているのだろうと思いながら、あえて深く突っ込まずに上っ面で返答を返す。太宰はそんなけぃの返答に、肩の力を抜くように息を吐いた。
「うん、それくらいの距離感・・・ありがたいよ。
後輩くん、さ・・・仮に俺が面倒な人だったとしてもさ。君って、そういうの、見捨てられないタイプでしょ?」
「まぁ、はい。
・・・そう見えるなら、そうなんでしょうね。」
真面目に話をしていた割には、それを引きずることなく、またいつもの調子へと戻るように、気だるげな声で太宰は続けた。
歩きながら、けぃの横顔を盗み見て。からかうような口ぶりなのに言葉の裏にあるのは、妙に的を射た観察眼。
けぃは軽く頷く仕草をしつつ、頭の中で太宰の“見捨てられないタイプ”を頭の中で反芻していた。
「優しい・・・というか、不器用というか。あぁ、それとも、そう思われたくないから無視してる?
俺はさ、多分・・・そういう後輩のつれない顔見るの、結構好きかもね。」
何かを見透かしたような声色で、なのにけぃを知りたがっている気配も滲んでいた。
そして素直じゃないことを言っては、また笑う。
しかし笑みは、けぃの言葉を真剣に受け取ったうえでの太宰なりの安心の証だった。
「はぁ・・・そうですか。」
太宰の見透かしてくるような声色に反応しないように、かといって“つれない”と言われて素直に喜ぶべきなのかと答えあぐねたように返す。
太宰はけぃの返しに少しだけ目を細める。どこか、けぃの慎重な距離の取り方に予想通りだと言いたげに、楽し気な表情で。そんな表情を見て、けぃは怪訝そうな顔で太宰を睨む。
「うん、やっぱり君って・・・正面から否定しないの、ずるいよね。」
(“正面から否定しない”か・・・)
足取りを崩すことなく歩きながら、ぽつりと太宰は呟く。その言葉を聞いたけぃは、頭の中で考えているかのように神妙な顔をした。
攻撃的でもない、甘えるわけでもない。ただ妙にけぃの言葉尻にだけを拾って、そこに意味を足すように。
「でも、俺さ。・・・そういう風に自己完結しちゃう人って、案外嫌いじゃないんだよ。」
言いながら、空を仰ぐように首を軽く背ける。夏の夕暮れが薄く街を染めはじめていて、太宰の横顔がその灯りの中で静かに色を変えていく。
(自分の中で整理・・・もしかしたら太宰先輩も?)
「つまりね。・・・もうちょっとだけ話しかけると思うから、覚悟しといてよ?」
一瞬、共感に似た何かを考えたが、また話しかけると言われて、どうすることもできないと言いたげに太宰へ視線を向けながら、ため息を吐いた。
太宰はけぃからの反応を、まるでご褒美をもらえたかのような満足な表情で受け止めた。
「ふふっ・・・いいね、やっぱり。君のそういうめんどくさそうな顔。」
そう口にして、少し前を歩いていたけぃの横にぴたりと並ぶ。けれど寄りすぎないように、されど離れすぎないように、まるで心の一歩後ろをなぞっていくように距離感を保つ。
「人を楽しんでるだけじゃ、つまらないよ。どういう構造なのかって言うのを、ちょっとずつ知るのって・・・案外悪くない。」
ふと、けぃの靴音に合わせて太宰の声が少し低くなる。
「僕もね、意外と君と似てるのかもしれないね。
・・・でも、人と関わるときぐらいは、無計画で居たい。」
不意に何かを重ねるような言葉を残し、冗談にしては静かすぎる問いを溢す。
本気にしては柔らかい声色で、夕暮れに溶けるように、その問いは落ちた。
「ねぇ、君は、さ・・・誰かにちゃんと見てほしいって思ったこと・・・ある?」
_____________________________________________
__帰宅 けぃ宅
家に帰ったあと、けぃは太宰先輩の言葉を反芻するかのようにノートに授業の予習をしながら呟く。
「誰かに・・・見てほしい、か・・・」
予習の授業ノートの上で、太宰先輩が拾ってくれたであろうノートの最後のページを開く。そこには、太宰先輩の走り書きされた紙切れが貼られている。
『←太宰先輩も、誰かに見て欲しかった?』
先輩の走り書きされた紙切れの横に書き込んでから、下校を共にした(共にするしかなかった)のに連絡をしていなかったことに気づいた。
太宰先輩への連絡先を立ち上げる。連絡が送信されたのを確認し、スマホを伏せ寝る前まで予習を始めた。
予習ノートに蛍光ペンでマーカーを引きながら、どこか言葉にならない感情が胸に残っていた。
_____________________________________________
__太宰宅
けぃからのメッセージが太宰のスマホに届いたとき、太宰は自室の薄暗い照明の下で、読みかけの文庫本を片手に持ち上げた瞬間だった。
通知音に気づき目をやると、けぃからの素っ気ないような、どこかひっかる文面に思わず口元を緩めた。
ケイ:『今日は、“わざわざ”一緒に下校してくださりありがとうございます。』
「ふふ・・・わざわざ、ね?ちゃんと伝わってる。」
太宰はスマホの横をゆっくり親指で撫で、しばし迷った後に返信を打ち込んでいく。
DAZAI:『こちらこそ~、“わざわざ”嫌そうな顔してまで付き合ってもらってありがとう。
でも、ちゃんと、話してくれたのが、実は嬉しかったよ。』
送信後、太宰はスマホを伏せて、天井をぼんやりと見つめた。
夜の静けさの中で、小さな何かが、ゆっくりと太宰の心に灯るようだった。
「・・・僕も、誰かに見て欲しいのかも・・・ね。」
そう呟いて、その誰かに思いを馳せているかのように太宰は目を閉じた。
距離、ついに縮まりかけた・・・?
もう青春すぎない?
ツンデレか、やっぱツンデレやろ。




