新人歓迎会当日の仕事
※登場人物※
・私=竹屋
社会人1年目、お酒とは無縁の人生だった。
・今村さん
ベテラン、新人にも優しい。仕事終わりのビールが生き甲斐き甲斐。
・西園先輩
二十代半ば、病棟リーダー業務を任されるほど仕事慣れしている。
・長澤
病棟スタッフの1人
夏の茹だるような暑さの中、操作にも慣れてきた新古車の軽のハンドルを切る。
『もう9月も近いのに、暑いなぁ、、』
エアコンをつけても職場に着くまでに冷え切らないのだが、気休め程度には送風が頬を撫で、片道数分の通勤路を辿る。この軽は、残価設定型ローンというシステムで車代を払っている。未だ夜勤が始まっていないため、月のお給料は諸々を差し引いて、(※新卒一年目で住民税が引かれていない)手取りで18万円も無いほどであるが、このローン形態のおかげで少しは余裕を持って返済することができている。車種は若者に人気のsuv軽自動車で、このご時世もあり、新車だと半導体不足で数ヶ月かかるところを、あまり人気な色でなかったことも相まって、運良く新古車を購入することができた。
『この車よくみるけど、この色のやつはあんまりないよね』
今ではこの落ち着いた色合いも、周りと違う気がして、お気に入りの要因となっていた。そんなちょっとした事でも、嬉しく感じてしまう。。自分はきっと単純なのだろう。
『この通勤路もだいぶ慣れてきたな』
住まいは病院の寮を使用しており、比較的安価で住まうことができている。病院の寮と言っても、敷地内にあるわけでもなく、少し離れた町ぞいにあるアパートのような場所で、そこから片道5分程で到着することができる。最初の方こそ、ただ左折するのでさえ緊張したものだが、今では鼻歌を歌う余裕がある。
『〜♪ もう職場着いた、、、しかも今日は新人歓迎会だ、、、いまさら新人挨拶するの、、なんか恥ずいな、、』
勤務時間開始30分前には、ほとんどの病棟職員が出勤しており、その日の業務の準備に取り掛かかっていた。
「おはようございます」
軽く会釈しながら病棟へ、仕事の準備を始める。
「あら、竹屋さん。おはよう〜」
そう挨拶を返したのは歳の近い先輩の、西園さんだ。彼女は、少し明るめの髪色を後ろでひとつ結びにした髪型が印象的だ。
「おはようございます。いつもより早いですね??」
「今日はリーダー業務なんだよね〜」
※リーダー業務とは、その日の病棟のリーダー的役割を担い、Drへの指示もらいや、その日の病棟責任者的役割をになうもの。
「今日は、何か予定が入っていましたっけ?」
「特段、何かあるわけじゃないんだけど、ほら?今日飲み会じゃん?残業したくないじゃん!!、、そうそう!さっき病棟に連絡がきてさ、今村さん、、今日、長澤さんが急用で急遽、夜勤交代したみたいで、飲み会に行けない!って残念がってたよ〜」
「あっ、そうなんですね。道理で、、、駐車場に車がないと思いました。」
「あの人、竹屋さんに、お酒の良さを教えなきゃ!!って息巻いてたから、、残念だよね〜」
「あはは、、、」
そんな話も早々に、本日の申し送りが始まった。
※申し送りとは、夜勤での出来事を日勤者に報告すること。
その日もつつがなく終わりが近づき、終業間際に夜勤で出勤してきた今村さんの愚痴を聞きながら、今夜の新人歓迎会の前にシャワーを浴びるため、帰路についた。
サブスクのおすすめで流れてきた、今時の声が高い男性ボーカルの恋愛ソングを聞き、鼻歌混じりに、帰り道に確認がてら新人歓迎会の居酒屋の前を通る。そこは田舎の寂れた商店街のようなところに、似つかわしくない外観の新しくできた居酒屋であった。
『なんだか小綺麗なところだな、、』
そんなよそ見も程々に、寮へ戻った。
最近の男性ボーカルは、本当に綺麗な高い声の方が多いですよね。