第3話 慕う
四季ちゃんの周りには、人が集まって来ました。
新入部員を茶道部は受け入れます。でも、その中には・・・
茶道部の稽古は、仲の良い部員達が、楽しくお茶とお菓子を頂く時間。
「茶道とは、亭主がお茶を点て。客人をもてなす。客人は、振る舞われたお茶を頂く。決まった作法が有り。お庭や、茶室、茶道具の拝見等・・・」
望月先生は、新しく入った四季の為に。茶道の歴史を、黒板に書きながら話してくれた。
特別講義だ。
「お茶の歴史は、紀元前。古代中国の帝 神農という、医療と農耕の神様が。発見したのが始まりと伝わります。
日本での、お茶の歴史は。今から、1200年程昔の平安時代、遣唐使。天台宗を開いた最澄や、真言宗の空海達によって、唐から持ち帰られた所迄遡り。
鎌倉時代になると、臨済宗の開祖 栄西が、宋から茶の種子を持ち帰り。著書に抹茶の飲み方を記しました。
室町時代には、侘び茶の珠光という人物が登場します。
堺の茶人で、茶の湯名人、武野紹鴎が、千利休を弟子にし・・・」
「武野?あ、私と同じ苗字です」
「ええ」
先生が優しく頷く。
「安土桃山時代。今井宗久、津田宗及、千利休の三宗匠が、織田信長、豊臣秀吉の茶頭となりました」
「茶頭・・・」
黒板の内容を、ノートにメモして行く。平安、鎌倉、室町、安土桃山。
「茶頭は、お茶を点て、茶の湯で、主に仕える人です」
「織田信長と、豊臣秀吉は、茶の湯を好み。茶器の蒐集と、褒美として、配下武将への下賜をします。
茶の湯は、武将達の心を捉えました。
天下人が、茶会を開いた事。使われた茶器等、歴史資料も残っています。
豊臣秀吉の、北野大茶湯や。本能寺の変で、明智光秀に討たれたとされる前日も、織田信長は茶会を開いていました」
時代劇、歴史大好きな、四季にとって。ご褒美の様な講義。しかも、講師は着物姿。
「当時の茶器、茶道具は、今でも現在する物も有り。僕も、師匠と一緒に、博物館や、美術館に見に行きます」
(茶道具、美術館。私も見てみたいです)
「茶聖 千利休は、侘び茶を確立。その弟子には、利休七哲と呼ばれた戦国武将がいます。
利休は、豊臣秀吉の勘気を受けてしまい。69歳の時、自刃させられるという、非業の死を遂げます。
でも。千利休の、侘び茶の精神は、子孫が、表千家、裏千家、武者小路千家の、三千家を興し。連綿と、現在迄伝わっています」
(豊臣秀吉、やっぱり怖い・・・)
ゾッとした。プルプル震えてしまう。
豊臣秀吉と言えば、農民から、天下人。関白に迄、なった出世人。猿に似ていたとも伝わる。
時代劇でも見たが。朝鮮出兵したり。幼い女の子が好きだったり。千利休を殺したり。特に、晩年の印象は良くない。
お茶の歴史を習い。その後も、先生と、先輩達の導きで。所作と、決まり事を覚え。
四季は、茶道に浸って行った。
家庭科部だった2年生の美少女が。家庭科部から、茶道部に入部した!
武野 四季のそのニュースは、四季は、疑問に感じたが。新聞部から、校内新聞で、掲示板に貼り出される程、注目のトピックスだった。
同じく、茶道部の望月先生の写真と共に、記事になっていた。
5月下旬の定期テストが終わった頃。動きが有った。茶道部に、入部届を出した生徒達がいる。
恐らく、四季を追って来たのだろう。
3年生・・・男子3人
2年生・・・男子4人、女子3人
1年生・・・男子5人、女子4人
茶道部に入部届けを出した。
四季ちゃんの人気の高さを、実感する。男子は勿論、女子もいた。
「19人も!?」
「うわ?鬼村達がいる!」
顧問の小泉先生、部長佐々木、副部長狭間は、彼等がちゃんと活動するのか、疑問には思ったが。
やる気が有るなら、良いのでは?と。望月先生とも話して。許しを出した。
四季が、家庭科部にいた時は。家庭科部に男子が入るのは浮くのでは?と、後を追えなかった者も。茶道部なら追えた、という事だろうか。
生徒が揃い、それぞれ自己紹介。広めの部室だけど、かなり凄い事になっている。
特に、新聞部の記事にもなっていた、着物姿の望月先生と、セーラー服の四季に、好奇の視線が集まる。
稽古が始まる。部員が、真剣に茶道に打ち込む姿に。一部を除き、浮ついていた生徒も、見様見真似で真似を始めた。
お客の代表、正客を務める人(今回は、佐々木部長)から順に、掛け軸を拝見して、席に着く。亭主(今回は、望月先生)が、正客にお菓子の乗ったお皿を渡し。正客がお菓子を頂く。
今回は、落雁と言う干菓子を食べ。亭主が点てた、お抹茶(今回は、薄茶)を。
薄茶は、お茶碗に、茶杓2杯のお抹茶で点てたお茶です。
次客に、
「お先に頂戴します」と、声をかけ。
亭主に、
「お点前頂戴します」と、お抹茶を頂く。
飲み干した後は、飲み口を、指で拭いてから、懐紙で指を拭き。お茶碗の景色を拝見する。
次客がそれに、順番に続いて行く。
お茶を楽しむ。佐々木束紗部長、狭間浩一副部長、3年生古参部員。
2年生1年生にも、良い影響を与える。
ただ、例外が。
四季の番が来た。先生、先輩の教えを、忠実に守る四季。一挙手一投足が、見つめられる。
そんな四季に、新たに加わった、3年生3人は。見た目がそうだし、学内では、浮いた不良達。
鬼村、朔野井、原田は、四季にアプローチをかける。
「超ウケる!このお菓子、スゲー甘い!」
「四季ちゃん。手握って良い?」
「隣来なよ。一緒に茶道しようぜ」
「俺の家に遊びに来いよ」
「いや、俺の彼女になってよ」
「後輩だから、四季って呼び捨てにして良いよな?」
次々と話しかけられ。四季は、茶道に打ち込めず。一つ一つ生真面目に答えるが。遂に涙目。
見るからに、危ない見た目の3人に、強くは言えず。
茶道に、全く集中出来ない。
時代劇だと、身分を隠した偉い人が助けてくれたりするのだが。
調子に乗る不良達に、場が白ける。
部長の佐々木、副部長の狭間、3年生の茶道部員が、庇ってくれるが。
同級生、下級生の女子も、
「先輩、四季ちゃんに絡むのは、やめて下さい!」と訴えるが。
望月先生と小泉先生も、言葉を尽くしたけど。不良達は聞かない。
その後の稽古でも、何回もそんな事が続き。
「雪、茶道が出来ないよ・・・私のせい?皆んなに、迷惑が・・・っつ」
ストレスが、少女にかかって来る。帰宅後、亡き祖母の遺品。棗に語りかける。
四季は、それまで学校も、茶道も頑張っていたが。2日間続けて、休んでしまった。
休み明け、職員室に顧問の小泉先生を訪ねた。
小泉先生の顔を見たら、泣いてしまった。退部届を見た先生は、ハッとした。
小泉先生は、
「武野さん、大丈夫だよ?今日の茶道部には、来て。お願い。任せて、ね」
気を重くしながら、放課後向かった茶道部で。一幕起きる。
世の中には、長い目で見て、更生を期待するのも教育だと、もっともらしく言う人がいるが。それで、他の生徒を犠牲には出来ない。
断が下った。
先生達が動いた。風紀を乱すので。6月下旬のこの日。
不良達は、強制退部させる事になった。と言う。
退部させると伝えた、小泉先生の前に、望月先生が立ち。鬼村達と対峙。
部員は、その後ろで。固まっている。
怒声を上げ。望月先生にメンチを切る不良達。凍り付く様な緊張だ。
心が弱っていた四季は、震えて、真っ青になる。
だけど、望月先生は。いつもの低く、渋い声音で。中折れハットを触りながら。淡々と告げた。
「卒業前に、停学か・・・。場合によっては、退学もあり得るらしい。進学は、もう出来ないかもな」
「「「!?」」」
職員会議にも出席し、3人の担任に確認を取って有る。3人は、付属高校への進学を希望している。
不良は、冗談だったと言う様に、愛想笑いを浮かべて。あっさり退散した。
・・・暫くして。
「望月先生・・・凄い」
場が湧く。
心細い少女にとって。ある種の異性には、苦手意識を抱いてしまう出来事。
(でも・・・望月先生は)
茶道を教えてくれて、着物が似合って、格好良いだけで無く。頼りになる男性!
(・・・先生の為にも、もっと茶道頑張りたい)
頬をほのかに染め。瞳を閉じ、胸に手を当てる。
多感な時期に、心酔したと言って良いのかも知れない。初恋・・・。
祖母、雪の好きだった茶道を知る事が目的だった少女に、茶道に取り組む理由が、もう1つ追加された。
その後、2年生男子3人と、1年生男子2人も。辞めて行った。
「減ったね」
「仕方ないよ」
部長、副部長がポツリと言う。
でも、四季を追って入部した残りの生徒は。少女達が、この時間と場所を、大切にしていると知って。
価値を感じた。
茶道。自分も、やってみたい。と。
茶道部員は、『31人』になった。
「茶道に興味を持った子が、11人も残ってくれた。武野さんのおかげだな」
笑いかける望月先生の、優しい言葉と笑顔に、四季は高揚した。
(・・・・・・♪)
照れている少女に、
(((可愛い♡)))
と、久しぶりに場が和む。
新入部員の内、2年生の女子はと言うと。
実は3人全員、家庭科部から四季を慕って追って来た、かつての仲の良い仲間だった様だ。
「「四季ちゃんは、私たちが守らなきゃ」」と、あの不良達にも、意見してくれていたのだ。
彼女達は、四季と同じく、茶道部と、家庭科部の掛け持ちをする事にしたらしい。
1年生女子達は、四季のファンもいたが。着物姿の望月先生に、惹かれて。と、いう子もいる様だ。
6月下旬、梅雨。校庭では紫陽花が咲く季節になっていた。
(続く)
◆3話あとがき◆
四季ちゃんの、人気の高さを表現しようと思ったのですが。不良を出してしまったら。四季ちゃんがへこんでしまい。申し訳なかったです。
望月先生の見せ場が、1つ出来てしまい。四季ちゃんの初恋が始まりました♪