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雨に散る恋の傷、星影沈みて縁を嘆く  作者: 青井朔
第二章『秋風のさざ波』
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「隠された気持ちと秋風の中で」

翌朝、キャンパスは相変わらず活気に満ちていた。

鈴木太白が教室に入って席に着いて間もなく、沖田玉妃がノートを何冊か持ってやって来た。


「鈴木君、これは昨日の課題の解答です。先生があなたに渡すようにと言っていました。」

彼女はノートをそっと太白の机に置き、柔らかな声でそう言ったが、どこかよそよそしい響きがあった。


「ありがとう。」

太白は彼女を一瞥しながらノートを受け取った。


玉妃は何か言いたげだったが、しばらくためらった後、結局何も言わずに軽くうなずいて席へ戻っていった。


太白はその背中を見つめながら、眉間にわずかに皺を寄せた。確かに、玉妃の態度は夕嬌が言った通り少し変わっていた——彼女は相変わらず優しかったが、以前のような自然さが失われており、どこか意図的に距離を保とうとしているようだった。


その微妙な変化が、太白の心に何とも言えない苛立ちをもたらしていた。彼が顔を上げると、ちょうど夕嬌が教室のドアから顔を覗かせ、彼に向かって眉を上げてみせた。彼女の目にはいたずらっぽい笑いが浮かんでいた。


「ねえ、太白、今日のお昼空いてる?」

夕嬌は教室に入り、まっすぐ彼の席へと向かった。


「何か用でもあるのか?」


「用なんて他にあるわけないでしょ。もちろん、君をランチに誘おうと思って!」

夕嬌はわざとらしく声を張り上げ、それから声を低くして続けた。「ついでに、ちょっとした謎を解いてあげる。」


太白はため息をついた。「また何を企んでるんだ?」


夕嬌は意味深な笑みを浮かべ、軽快な口調で言った。「質問はなし。お昼に期待して待ってればいいのよ。」


昼休み、三人は再び校舎裏の公園のベンチに集まった。

夕嬌は笑顔を浮かべながら真ん中に座り、両手で顎を支え、目線を太白と玉妃の間で行き来させていた。


「それで、いったい何を言いたいんだ?」

太白は横に座り、眉間に皺を寄せて尋ねた。


「別に。ただね——」夕嬌は一瞬言葉を切り、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべた。「最近、太白と玉妃の間の雰囲気がどんどん奇妙になってきてると思って。」


玉妃は一瞬で動きを止め、慌てた目で横を向き、小さな声で答えた。

「夕嬌、そんなこと言わないで……」


「どこが間違ってるの?」夕嬌は無邪気そうに目を瞬かせ、無実のふりをした。「太白、こういう時こそ君が積極的にならなくちゃ。例えば——玉妃のこと、どう思ってるの?」


太白はわずかに驚き、夕嬌と玉妃を交互に見つめながら、心の中で複雑な感情が渦巻いていた。


鈴木太白は目を伏せ、指先でベンチの端をなぞるようにしながら、夕嬌の遠慮ない視線を避けているようだった。一方で、沖田玉妃は少し俯き、緊張でスカートの裾をぎゅっと握りしめ、頬を赤らめていた。


「玉妃に対しての気持ちか……」

太白の声は小さく、独り言のようでもあり、夕嬌の問いに答えているようでもあった。「たぶん……すごく安心できる存在かな。」


その言葉に玉妃はぱっと顔を上げ、驚いたような目で彼を見つめた。何か言おうと口を開いたが、結局言葉にはならなかった。


「安心?」

夕嬌は眉を上げ、探るような目で彼を見つめた。「それどういう意味?曖昧に言うから誤解されちゃうよ。」


「そのままの意味だよ。」

太白は顔を上げ、表情を落ち着かせながら答えた。「一緒にいると、なんだか緊張しなくて済むというか……柔らかな風みたいな感じ。」


玉妃の顔には複雑な表情が浮かび、口元がかすかに動いたが、最終的には小さな声で「ありがとう……」とだけ言った。


夕嬌は太白を見て、次に玉妃を見てから、口元に笑みを浮かべた。

「まあ、今回は合格ってところかな。でもね、玉妃、そろそろ君も答える番じゃない?」


玉妃は少し驚き、目に一瞬の躊躇いを見せた。

「私の質問って……?」


夕嬌はニコニコしながら彼女に近づき、軽快な口調の中にもどこか真剣な響きを含ませて言った。

「簡単な質問だよ——もし願いが一つ叶うとしたら、何を願う?」


その質問に玉妃はしばらく沈黙した。目を伏せ、考えているようでもあり、表情を隠そうとしているようにも見えた。


「もし願いが一つ叶うなら……」

彼女の声は小さく、しかし決然とした響きがあった。「もっと勇気が持てる自分になりたい。」


その言葉に夕嬌は少し驚き、太白もまた何かを考え込むような表情を浮かべた。彼は何か聞こうと口を開きかけたが、玉妃の視線に遮られた。


「もう行かなきゃ。」

玉妃は立ち上がり、スカートの裾を整えながら言った。彼女の声にはいつものような優しさが戻っていた。「昼休み、もうすぐ終わっちゃうから。」


夕嬌はしばらく彼女をじっと見つめていた。まるでその心を見透かそうとしているようだったが、最終的には立ち上がり、服についた埃を払って笑った。

「仕方ない、今日はここまでにしとく。でも、次はこんなに簡単に済ませないからね!」


太白は何も言わず、立ち上がって彼女たちと一緒に校舎へと向かった。木漏れ日が地面に降り注ぎ、影が風に揺れていた。


しかし、別れる直前、玉妃は突然振り返り、太白を見つめながら静かに言った。

「鈴木君……今日はありがとう。」


太白は驚き、一瞬固まったが、返事をする間もなく玉妃は足早にその場を去っていった。その足取りには、一見軽やかさがあったものの、どこか微かに急いでいるような様子があった。


夕嬌はその場に立ち尽くし、腕を組みながら玉妃の背中を見送り、やがて太白に目を向けた。彼女の笑顔は徐々に消えていった。

「太白、実は一つ聞きたいことがずっとあったんだけど。」


「何だ?」

太白は彼女に顔を向け、少し不思議そうな表情で聞き返した。


「ねえ、人を好きになるってこと、すごく深く隠せるものだと思う?」

彼女の目にはどこか複雑な色が宿り、その声には形容しがたい感情が滲んでいた。


太白は驚き、しばらく黙った後、低い声で答えた。

「たぶんね。でも……隠しすぎたら、誰にも気づかれないかもしれない。」


夕嬌は何も答えず、ただ小さく笑った。それは自分を嘲笑しているようでもあり、見えない運命を嘲笑しているようでもあった。


「まあいいや、今日はこの辺にしておく。」

彼女は顔を上げ、再び明るい笑顔を浮かべた。「太白、教室に戻ろう。午後の授業があるから!」

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