「迷い道で出会った微かな予感」
鈴木太白が歩く朝の道。彼の足音が、静かな街角で軽やかに響く。春の風が髪を撫で、朝日が少しずつ街を温め始めるその時間、太白は一日の始まりに向かって歩を進める。家から学校へ向かうその道は、彼にとってもはや日常となり、何気ない一歩一歩に心の中で蓄積された習慣が垣間見える。
だが、太白の心の中には常にその歩みに対する不安が隠れている。目に映る景色、人々の笑顔、そして自分の足元—すべてが心地よくもあり、同時にどこか遠く感じる。周囲との距離感を保ちながらも、見知らぬ誰かの目線を気にしてしまう自分がいる。
「どうして、こんなにも人と関わることが怖いのだろう…」
そんな思いを抱えたまま、高校生活を過ごし始めて三週間が経つ。新しい友達を作ることには、どこか抵抗があった。それでも、彼には変化の兆しが見え始めていた。それは、思いがけない場所、思いがけない人たちとの出会いからだった。
その日は、太白にとって何気ない日常の中で小さな変化が訪れる日であった。学校での授業、友達との会話、そして、彼が見逃すことなく触れる小さな出来事—そのすべてが、彼を少しずつ変えていくことを、誰が予想できただろうか。
それでも、太白の心には依然として、進むべき道が見えない不安が漂っていた。ただ、彼はその不安を胸に抱えながらも、少しずつ自分のペースで歩みを進めていくしかなかった。
「気をつけて行くのよ、太白。」母の声は優しくもどこか心配そうに、家の玄関先で響いていた。
「うん、行ってきます。」僕は小声で返事をし、振り返ることなくリュックを背負い、前の道へと歩き出した。
母は僕の背中を見送りながら、心の中でふと小さな不安を抱く。「この子、小さい頃からずっと内向的だったし……高校が始まってもうしばらく経つけど、同級生とうまくやれてるのかしら。」
今日は新学期が始まってから三週目の朝。太陽はまだ眩しくなく、微かな風が街路樹の葉をさらさらと揺らしている。僕は少しずつ高校生活に慣れてきていて、毎朝30分の徒歩通学も日課になりつつあった。自転車を使えば早いけど、この街の静けさを散歩しながら楽しむ方が僕は好きだった。
「はぁ……昨日、予習に夢中になって夜中の一時まで起きてたから、まだ寝不足だ。」腕時計をちらりと確認し、まだ時間に余裕があることを確かめながら心の中で呟く。「ゆっくり歩いて行こうかな。」
いつもの通学路を進みながら、今日はふとした気まぐれで一度も通ったことのない小道を試してみようと思った。この辺りの道は何度も通り慣れているけど、新しいルートを選ぶことで少しだけ新鮮な気分になれることもある。
歩き進めるうちに、周囲の景色がだんだんと見慣れないものへと変わっていった。目の前には古びた小さなカフェが現れる。看板の文字は色褪せており、「雨の日割引」と書かれている。汚れたガラス窓越しに中を覗くと、同じ学校の制服を着た女の子がコーヒーを手にしているのがうっすらと見えた。
「同じ学校の生徒かな?」そんなことが頭をよぎるが、すぐに今日の天気予報を思い出した——確か、今日は雨が降る可能性が高いと言っていた。もし急がなければ、びしょ濡れになるのは目に見えている。
そのまま先に進もうとした矢先、背後から急ぎ足の足音が聞こえてきた。振り返ると、同じ制服を着た女の子が小走りでこちらに近づいてきている。顔には少し焦りが浮かんでいるようだった。
「すみません!道を聞いてもいいですか?」彼女は息を切らしながら僕の前で立ち止まり、少し下を向いて呼吸を整えた後、申し訳なさそうな笑顔を見せた。
僕は一瞬固まった。彼女の顔にはどこか見覚えがあった。たぶん同じクラスの生徒だと思うけれど、その印象はただのクラスメイトという以上にぼんやりとしていた。気を取り直し、僕はすぐに頷き返して答えた。「うん、迷ったの?」
彼女は笑顔で小さく頷き、スマホを取り出した。画面には地図が表示されている。「はい……本当はここに行きたかったんですけど。」彼女は位置を指しながら、少し困ったように言った。「歩いているうちに、気づいたら道に迷ってしまって……」
画面を見ると、彼女が行こうとしていたのは「桜丘高校」だった。僕が通っている学校と同じだ。僕は前方を指差して、軽く微笑みながら言った。「ここをまっすぐ進んで、左に曲がれば着くよ。」
彼女の表情はぱっと明るくなり、感謝の言葉を残して僕が指した方向へと駆けて行った。僕はその後ろ姿を見送りながら、ぼそっと呟いた。「まだ時間に余裕があるのに……そんなに急がなくても。」
雨上がりの小道では、土の匂いが漂い、小さな水たまりが曇った空を映していた。腕時計に目を落とすと、僕自身も遅刻ぎりぎりであることに気づき、足を速めて学校へ向かった。
ここまで読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます。
作者である私は、学業の関係で執筆時間が限られており、更新ペースが遅くなってしまうかもしれません。それでも、この物語を最後まで書き上げるという決意は変わりません。その点について、どうかご理解いただければ幸いです。そして、ここで改めて皆さまにお詫び申し上げます。
この物語は、私の頭の中で何度も繰り返されてきたものです。自分の興味に従って、書き始めることを決意しました。このような作品を書くのは初めてであり、未熟な部分も多々あるかと思います。ぜひ温かい目で見守っていただければ幸いです。また、率直なご意見やご指摘をいただけると、とてもありがたいです。
きっと誰の心にも、忘れられない感情があるのではないでしょうか。その感情には、後悔や感謝が入り混じっているかもしれません。もしかすると、ある夜、再びその感情に思いを巡らせ、どうしても手放せない自分に気づくことがあるかもしれません。でも、時には手放すことも、一つの愛の形なのだと思います。
最後に、改めて読者の皆さまに心から感謝申し上げます。この作品は、私自身の興味から始まったものですが、最後まで書き上げたいと思っています。そして、皆さまにも最後まで見届けていただければ幸いです。
もし、この物語について、ストーリーや執筆に関するご意見やアドバイスがございましたら、ぜひお寄せください。それらは、私にとって大きな励みとなり、この作品をより良いものにするための力となります。
読者の皆さまの応援と励ましに、心から感謝いたします!