かみさまの失敗
雑な創造神の、雑な世界創造。
「今回の世界は、管理しやすいと聞く数字ステータス式でやってみるか……」
ここにとある創造神が在った。
その創造神はそれほど偉いものではなく「こんな世界を創ってみたら、その世界でこんな凄いことが起きたよ!」と周囲の神へ言って回って自慢したがるタイプの、俗っぽい創造神である。
身なりは如何にも神! みたいな格好ではあるものの、ネックレスやチェーンブレスレット等をしていて、妙にチャラい印象を持ってしまう。
「今まで創ってきた世界は能力がファジーな世界ばっかりで飽きがきてたし、新しい方式でやってみようかな」
そんな神によって、新しい世界が想像の時を迎えた。
どっかのSF世界で見たような仮想モニターや仮想キーボードにしか見えないモノを呼び出した創造神は、これまた仮想ソファにしか見えないモノに座り、それらを使って世界の創造を行っている。
「人類の種類は…………今回はお試しだから、特徴の無いヒト種だけ投入して挙動を確認してみるか」
いわゆるファンタジー人種は出さない方向らしい。
「ステータスは……割とメジャーな筋力・持久力・打たれ強さ・素早さ・器用さ・魔力・運とかかな? まあ後で調整しよう。 それとレベルの上限は100にしとくか」
ステータスの種類は、どこかで見たようなのが採用されるらしい。
「ステータスの上昇は…………レベルアップ型が基本か。 それとレベルアップ時の上昇値の設定は…………うん。 テストだからな。 そのレベルが上がるまでにどんな行動をしたかで上昇するステータスが変動する形にして、データを取ってみるか」
補足すると、そのレベルから次のレベルになるまでの間にとった行動の割合で、ステータスで上昇する数値が変わる。
体を動かす事が多ければ体力が多く上がり、動き回っているなら素早さが多く上がる等。
ステータスの合計上昇値は固定なので、代わりに上昇値が小さくなるステータスの種類も当然ある。
「レベルアップでステータス上昇値を、知能のあるもの自身で振ってもらうタイプもあるが、それはその内って事で」
ステータスポイントで自力振り分け式は、この世界には存在しないらしい。
「知能が無くて、本能で動くタイプの動物とかは…………まあそれぞれの種族で設定した数値で固定しとけば良いか」
結構ザツな仕事の創造神だった。
〜〜〜〜〜〜
「………………ん? あ、やっべ! 1度に2レベル以上あがった場合のステータス数値上昇が0になってる!!」
必要なデータ入力が終わってしばらく。
「あ〜……レベルアップして何もしない内に次のレベルへ上がったから、その時にどんな傾向で成長させるかの判定をすり抜けてエラーが出ちゃって、ステータス値上昇処理が出来なくてエラーしてステータス値の上昇処理を飛ばしたのか。 条件追加……分岐条件から漏れた時は平均数値上昇パターン……っと」
こんな些細なミスを見付けては修正しつつも、世界はそれなりに育ち、様々な冒険譚が生まれ、神々にそれを自慢して回った。
「そうだ。 今は実数で上昇させてたけど、連続レベルアップの平均値は嫌われているみたいだし、大幅な修正をしてみるか。
種族固定……は流石に楽し過ぎか。 まず種族ごとに基礎ステータス値を用意して、ジョブとレベルでステータスの補正値を計算して、ついでに性別でも僅かな補正があると面白いかも? うん」
そしてこんな思い付きで世界を引っ掻き回し、色々実験して遊んでいた。
〜〜〜〜〜〜
そんな日々が過ぎてしばらく。
「周りの神にこの世界の出来事を言って回ってたけど、なんか反応が悪くなってきたんだよなぁ。 刺激に慣れてきちゃったんかなぁ」
頭を深くかしげる創造神がそこに居た。
どうやら壮大な冒険譚も上限がいつも同じでは派手さに慣れてしまうようで、どれだけ大変な戦いだったと言っても反応が薄くなってきた様だ。
………………自慢して回っている創造神の言動に、いい加減ウンザリ来ている可能性もあるがそこには触れない。
「よし。 世界にパワーのインフレを起こそう。 レベル上限の開放だ! レベルアップによるステータス上昇は係数として計算式で管理してるから調整の必要は無いし、安心して踏み切れる」
そんな決断から、レベル100が上限だった世界は、200が上限の世界へと変化した。
が。
創造神の目が仮想モニターを見てまん丸になった。
「は? なんだこれ」
なにか問題が発生したらしい。
「レベル110位で、レベル100の2倍近い数値になってる。 なんでこんな大きな数値になる訳?
こんなのレベル110の大型の魔物を討伐するのに、人類はレベル100を30人は用意しないと倒せないぞ? しかもそれで半数以上が犠牲になってやっと倒せる難易度って悪夢だろ」
慌ててモニターにかじりつき、仮想キーボードを叩きまくる。
そしてさっきより大きくまん丸な目になった。
「シミュレーションでレベル200にしたら、レベル100の頃よりおよそ80倍!? なんで!!? 想定と違う!!!
なんなんだ、このスーパーインフレは!?
200レベルに1番最初に到達した生き物が、この世界の覇権を掴むレースに突入しちゃうじゃん!」
創造神はもはやパニック寸前。
仮想キーボードだから音はしないのに、ガチャガチャ……いや、ダダダダダとキーボードを叩く音が聞こえてきそうな位に慌てた。
「これだ!」
隔離された世界でしばらくアレコレ試してみて、ステータス数値の原因を見つけたらしい。
「ステータスに補正をかける係数が悪さしてる!」
創造神が係数をいじる度に、ステータスの曲線がブンブン動く。
それはまるで犬の尻尾みたいに。
「は? なんで? 計算式の数字を1動かすだけで、ステータス数値の曲線がなんでがっつり変わるんだ? しかも結局、最後にはインフレどころかスーパーインフレするのは変わらない……」
とぼやいた創造神が数字を調整していく。
あと少しで想定通りのステータス曲線になるぞと言う所で、それは起きた。
「………………は? 曲線がマイナスへ振り切ったぞ?」
今度は数値を下げ過ぎて、ある数値からレベルを上昇すると逆に弱くなっていく珍現象と遭遇した。
「もっと低い、小数点以下の部分を導入してみるか」
と試してみるが。
「ダメだ! 細かくすると、それはそれで曲線に悪影響が出て結局、想定している成長にならない!!」
もう、メチャクチャである。
「こうなりゃ全パターンの各レベル基本ステータスを、全部手打ち入力しないとか? ……でもそれは面倒過ぎる」
大げさに、とても大げさに頭を抱える創造神。
「うーーん…………ヨシ」
そして長らく悩み抜いて、創造神が出した答えは……。
「もう良いや! 変更なしでスーパーインフレを認める! ド派手になるんだからオールOK!!」
最悪の丸投げであった。
蛇足
この世界の人類
生きているレベル100到達者は、片手で数えられる量。
この世界の人類以外の生物等
レベル100到達者は各種類ごとに片手で数えられる量。
この世界に魔物みたいなのは?
います。 通常の環境適応進化なんかでは説明できない、異形の怪物みたいな人類のみならず動物にとっても敵対行為をする存在を、魔物と呼ぶ。
細かい設定は読み切りだし、設定を創るのがメンドイので未設定ですが。
それも人類以外の生物等の枠に放り込んであります。
どちらが早くレベル110以上になりそうか
人類以外の生物達。
常に食べる物を求めて戦い、生きるか死ぬかの極限野生生活なので、経験値を得る機会が多いから。