4-25 我らペンギン探検隊! ~南極ダンジョンから始まる地球一周の旅~
現代の知能が高く生まれたペンギン、群れの長でもある。
地球に突然現れたダンジョン、それは南極にも現れていた。
アデリーペンギンの群れの先頭に、彼は居た。
蒼く小さい、時には妖精のようだとも言われる可愛らしいコガタペンギンである。
けれども、彼は小さな身体に見合わぬ大きな野望を持っていた。
「我ユールは、この世界を獲る男なのだ!」
偶然知能が高く生まれたユールは、自身を特別な存在と信じて疑っていない。
こうしてペンギンの群れのリーダーとして振る舞っているのも、その自信から現れたものであった。
ペンギンには最初に行動したものに着いていくという習性を持っているおかげであるのだが、触れないのが彼のためであろう。
一方、首を傾げるペンギンたち。
勿論のこと、言葉は伝わっておらず、「何故こいつは立ち止まっているのだろう」と考えていた。
「分からないか、我の偉大さを
ふんっ、見ていろ。我の華麗な飛び込みを!」
不敵な笑みを浮かべながら、ユールは高らかな宣言をした。
しかし氷塊の端っこから海を眺めるのみで、一向に飛び込もうとしない。
そう、ユールは怯えていたのである。
だが高いプライドはその事実を依然として認めようとしない。
そのような恐怖心はペンギンとして当然のものであるのに、ユールは絶対に認めようとしない。
結果、海を偉そうに見下して早10分。
動きはなく、時が止まったかのようであった。
「え、ええい! どうとでもなれっ!」
意を決して飛び込んだ彼に待ち受けていたのは、途方も無い魚の群れの数々だ。
他のペンギンであれば喜び勇んで狩りに行くであろう光景。しかし彼は飛び込んだ際の浮遊感を引きずり、ただ悠然と水面へ浮かび上がる。
ユールの無事と安全を確認し、次々と飛び込んでくる仲間たち。
ボトン、ボトン、と僅かな水飛沫と共に海の世界へ旅立ち、ユールの背を悠々と越していく。
「なっ、お、お前ら! 我の先を行くなっ!」
自分のみが遅れているという事態に、ユールは大急ぎで海中を潜行を開始した。
慌てたせいか、彼はいつもより勢いよく潜っていった。
それは、他のペンギンたちに負けたくない! という気持ちの現れかもしれない。
華麗な泳ぎで、ユールは順調にオキアミを食べていく。
どうやらお腹が空いていたらしい。周りを気にせず、グングンと泳いでいく。
キラキラと食事に目を輝かせていた食いしん坊。
彼はいつの間にか、岸の近くまで来ていた。猪突猛進で食べていた結果だろう。
水深はかなり深いうえに長時間の単独行動により、仲間のペンギンの姿はどこにも見当たらなかった。
「やらかした……」
こうなっては仕方ない、とユールは浮上して再度仲間と合流しようとする。
だが、そんな彼の前に奇妙な魚が現れた。
「むっ? なんだあの魚は」
ユールの眼前の小魚からは、ヒレ部分から一対の純白の翼が生えていた。
恐怖心、不気味さを感じるな見た目にユールは怯えながらも、さらに目をキラキラとさせる。
なぜなら……
「いいなあ、あの翼」
実は彼、空に憧れを抱いていたのだ。
大昔のユールは、自身も翼を持っていると信じて疑わなかった。いや正確には持っているのだが、彼からして飛べない翼に価値は無い。
海の中、そんな理想の翼を持った生物に出会う。
これは運命ではないか。ユールはそう考える。
身体はいつの間にか動いていて思考が終わったころ、すでに彼は奇妙な魚の目の前であった。
くちばしが開き、魚を頭から丸呑みする。
喉元に通った僅かな異物感は、すぐ消えてなくなった。
すると彼は満足したのか、再度浮上を始めた。
《Lv上がりました。種族進化が可能です》
「は? な、なんだっ!?」
聞いたこともない人間の声が、海の中であるのにクリアに聞こえてきた。
ユールであっても、そんな明らかな違和感には気づく。
戸惑う彼を置き去りにし、さらに奇妙な出来事は続いた。
「ひっ!? な、この、離れろっ! なんだこの視界にあるものは!」
ユールの視界には、海中を背景に半透明の板。
そして、そこには彼自身のことが書かれていた。
--------------------
Lv20
種族:コガタベンギン[次の種族に進化可能です]
名前:ユール
称号:【はぐれ者】【皆の弟分】
獲得スキル
【潜行Lv9】【環境適応Lv7】【飛行Lv1】
----------------------
「な、んだ。この文字は……」
戸惑いは収まらず、むしろ加速的に増えていく。
ユールは今更になり、あの奇妙な魚を食べたことを後悔した。
多分"カメラ"が近くにある。
『翼の生えた魚の前にペンギンはどうするのか?』
なんて、人間の考えそうなことだ。
その策に自分は堂々とハマってしまった。
彼はプライドが傷つけられながらも、視界に入り続ける鬱陶しいナニカを振り払おうと、ひたすらにその場をグルグルと泳ぐ。
しかし消えることはなく、最後まで一切のブレもなく目の前に存在した。
もう埒が明かない。そう諦め、やっと地上へ戻ろうとした。
彼の視界端に、奇妙な暗い影が写り込む。
岸の方面……というよりも、岸そのものにぽっかり穴が空いたような。
ユールは怖いもの見たさで近付こうとするも、流石に1回地上に戻って状況を整理した方がいい、と理性でなんとか好奇心を抑えこもうとする。
理性と感情の間で揺れ動きながら、彼の視線はぽっかりとした影から離すことはなかった。
だからだろう。あの奇妙な魚たちが大量に出てくることを目にしたのは。
数十……いや数千とも思える、奇妙な翼を生やした小魚が穴からニュルリと生えてくる。ユールは一瞬固まっていたが、脳内の危険信号に従って急ぎで地上に戻った。
ユールは海面から顔を出し、チラチラと海底を伺う。
どうやらあの魚の群れが気になり、なんだか落ち着かないらしい。
気休め程度だが、彼はこの場からなるべく遠くへ離れようとする。
湧いていた好奇心も、もうすでに恐怖でかき消されていた。
「しかし……なんだったのだ、あの群れは」
答えの出ぬ問いを口に出し、心を落ち着かせるユール。
視界端にある半透明の板も気にならないようで、彼は必死に泳ぎ続けた。
だが移動は遅々として進まない。
理由はユールがあの魚たちに怯え、海の中へ潜ることができていないからだ。
気持ちははやり、焦りも出てくる。
気が逸れて、ふと半透明の板を何気なく見た。
----------------------------
Lv20
種族:コガタベンギン[次の種族に進化可能です]
名前:ユール
称号:【はぐれ者】【皆の弟分】
獲得スキル
【潜行Lv9】【環境適応Lv8】【飛行Lv1】
----------------------------
「飛行、か。まさか、な」
飛び込む前のあの崖へ飛んでいけたらどうだろう。
そう考え、試しに翼をバタバタと動かした。
「うお、お、おおおおおおお!!」





