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4-23 【魔王を討伐した勇者のその後】って、知りたくないですか?

「勇者」が「魔王」を倒しました。

世界に平和が戻りました。

めでたしめでたし。

――じゃあその先、勇者って……何をしてると思います?


私の名前は、メイ。16歳。

職業は、なんと勇者! まあ、自分で勇者だなんて言うのもおこがましいんだけど、もう一回。

私の職業、【勇者】だから!!

世界中の人々の憧れの的になる、そんな、職業だから!


転生して、勇者になって、魔王を倒して。

そして。


これは「勇者」に転生した元アイドルオタ女の私が、ゲームの中みたいなファンタジー世界で「借金返済をしていく」お話です。


もう!

なんで私、こんなに借金があるのよ!!


 突然ですけど!


 子供の頃に読んだ英雄たちの物語。

 ワクワクした冒険譚のその先って、どうなってると思います?

 例えば、魔王を封印して世界を救った【勇者】なんて――当然、幸せハッピーエンド確定!

 称えられちゃって、崇められちゃったりもして、もちろん一生お金になんて困らない。


 ――って思うよね?

 だよね?!

 私間違ってないよね?!



「さぁ、勇者様、はじめますわよ」

「……ううう。魔物退治より緊張する」

「大丈夫ですわよ。前回の放送も大好評でしたわっ!」


 私は覚悟を決めて笑顔を作ると、目の前の“魔法カメラ”に目線を向けた。


「こ、こんにちは。今日もこのお時間がやってまいりました。勇者メイと……」

「みんなのアイドル、王女アイリスがお送りする」

「「夢の勇者ネットショッピング~!!」」


 うううう、恥ずかしいよぉ。絶対笑顔ひきつってる。

 このカメラ、実は王家の秘宝で、世界中に映像を送信できるんだよね。

 偉大な魔道具の無駄遣い……ううん、気にしたら負けだから、私!


「さて、今日の商品はこちらです」


 私が箱から取り出したのは、今使ってる剣と似た形の――長い棒。


「こちらはなんと、私、勇者の聖剣をイメージした……」

「イメージした?」

「キラキラ光る、ペンライトです! この棒は、振ると色とりどりに光るんです!」


 そう、今回出品するのは【聖剣】ならぬ【アイドルグッズ】。

 前世で推し活一筋だった私の必須アイテム。


「この輝きはもう、聖剣超えちゃってますから! このペンライトで、みんなの推しを応援しましょう!」

「さすが勇者様ですわ。これで、世界の平和は約束されたも同然ですわね!」


 ……やっぱりアイリス姫が勝手に売り文句を変えちゃった。

 でも! 魔王も倒したんだから、この世界が豊かになれば、きっとオタ充ライフも充実するはずっ!!


「なんと今なら、2本買うとおまけでもう1本ついてくるキャンペーン中!」

「保管用と鑑賞用も含めて、最低3本は必須ですものね。すばらしいですわ、お得ですわ!!」

「さぁ、今すぐ夢の勇者ネットでお申し込みを!」


 うう……私、勇者なのに、勇者なのにぃ。なんでこんなことしてるのよぉぉ。



 ◇ ◆


 ――3か月前。


 魔王を倒して王都に戻った私は、なぜか旅の仲間たちとは別の部屋に通されていた。

 ピンクとホワイトを基調にした空間で、ベッドや机にぬいぐるみがいくつか置いてある。

 どうやら、ここは目の前にいる彼女のプライベートルームみたい。


「勇者メイ様、よくぞ魔王を倒して戻られました――こちらが請求書・・・ですわ」


 にっこり微笑むアイリス姫。

 金色の柔らかそうな長い髪に、大きな紫色の瞳が印象的。

 同性の私でも、思わずドキッとする美少女なんだよね。


「あ、ありがとうございます。無事魔王を討伐して…………え、あれ?」

「どうかされましたか?」

「アイリス……様、今【請求書】って言いませんでした? 感謝状とか報奨金ではなくて?」

「請求書ですわよ?」


 私は慌てて、彼女から手渡された書類に目を通した。


----------------

■魔王討伐報酬 金貨50000枚


<以下請求費用>

■聖剣のレンタル代(保険代込み) 金貨10000枚

■宿代(スイートルーム 365日分) 金貨3650枚

■建物修復代 金貨8500枚 銀貨5枚

■その他 金貨100000枚

----------------


「……何か不備でもございましたか?」


 小首を傾げるアイリス姫。その小動物のような愛らしさはずるいけど、それとこれとは別問題。

 私は王女様の目の前に、請求書をつきつけた。


「不備だらけよ!! そもそも、魔王討伐の旅費は王国が出してくれるって話だったでしょ?!」

「宿代は別ですわよ?」

「じゃあ、聖剣のレンタル代っていうのは? 私聖剣に選ばれたんだし、当然勇者の物になったのよね?」

「聖剣は古から受け継がれた王国の秘宝ですわよ? むしろなぜ自分の物だと思ったんですの?」


 アイリス姫は“何をいまさら”って表情。


「じゃあ……この建物修繕費っていうのは?」

「魔物との闘いで、町や村の建物を壊しましたわよね? 修理はタダじゃあませんわ」

「……建物の修復って、私のせいなの?!」

「もちろんですわ」


 私は頭を抱えた。

 いや確かに、魔物との戦闘で、門とか家の壁とか……橋を壊したりとか……いろいろ心当たりはあるけどさぁ。


「そ、そんなこと事前に聞いてないし!」

「お城に出る前にサインされた書類に書いてありますわよ?」

「……え?」

「ほら、ここですわ」


 アイリス姫が差し出した書類を慌てて確認した。

 あ、あった……本当だ。


「ご確認いただけましたかしら?」

「じゃ、じゃあ、この“その他”っていうのは? これが一番高いんだけど!」

「それについては、こちらの映像をご覧くださいませ」


 アイリス姫は、手を叩いて部屋のカメラに向かって合図する。

 すぐに光の精霊が集まり、コックコートの男女が部屋の壁に映し出された。


「おーい、メイ見てるか~? 遅くなったが16歳おめでとう!」

「元気にしてる? おなか空いたりしてないかしら?」

「……お父さんと、お母さん?!」


 そこに映っていたのは、転生したこの世界の、私の両親。

 2人は王都から離れた村で小さなカフェレストランを営んでいるんだよね。


「嬉しい知らせだ! 勇者の実家として恥ずかしくないように、店を大きく建て直したんだ!」

「あなたの銅像も作ったのよ。とっても誇らしいわ」

「もちろん勇者の活躍を描いた壁画もあるぞ。今後はレストランの裏に“勇者ランド”も作る予定だ!」


 映し出されているのは、まるで王都の高級ホテルのような大きな建物と、その手前にある剣を掲げた女の子の像。


 ……。

 …………。


「あの……これ?」

「もちろん、王家からご両親にお貸ししておりますわ」

「私、関係ない……よね……?」

「いえいえ、素敵なご両親ですわね、わたくしも応援しておりますわ」


 にっこり微笑む王女様。

 ちょっと。なんで勝手に私の借金にされてるの?!


 ……終わった。

 ……終わったわ、私の人生。

 魔王討伐でもらえる報酬を完全に超えちゃってるもん、この請求額……。


「……ごめんなさい、今すぐには払えません……」

「あら? そんなこと最初から理解しておりますのよ?」


 彼女は人差し指を口元に当ててウィンクする。小悪魔っぽくて可愛い――って違う!


「勇者様には、選択肢が2つあります」

「2つ?」

「1つ目は、わたくしのおススメ。王族と結婚して、借金を帳消しにすること。はるか昔の勇者様も、王族と結婚しましたのよ?」

「えええっ!」


 結婚って、私が?

 そんな、いきなり結婚て言われても……あれ?


 今の王様の子供って、王子様2人と、王女様1人の3人だけど。 


「でも、王子様は、お2人とも婚約者がいらっしゃいましたよね?」

「はい、ですから。わたくしと結婚いたしましょう!」


 頬を赤らめてもじもじするアイリス姫。あの、今なんておっしゃっいました?


「あら。聞こえませんでしたか? ではもう一度。わたくしと結婚いたしましょう!」


 え? なんでアイリス姫が私と? っていうか、え?


「え? ええええ?!」

「わたくし、お会いした時から勇者メイ様のことが、ずっとずっと大好きでしたの! ああ、推しとの結婚なんて……幸せですわ!」


 アイリス姫は、私の両手を掴むと、キラキラした瞳で見つめてくる。


「ぱっちりとした大きな青い瞳も、バラ色のほっぺも、サラサラの綺麗な桃色の髪も、舞うような剣術も……ああもう、すべてが最高ですわ」

「ちょっとまって、顔近いから。いったんストップ!」

「……わたくしとでは、お嫌なのですか?」


 アイリス姫は頬を膨らますと、うるっと瞳を潤ませる。

 負けるな、私。


「と、とりあえず、もう1つの案を教えてもらえませんか?」



 ◇ ◆


 画面上では、購入数のカウンターが勢いよく回っている。かわりにアイリス姫はちょっとつまらなそう。


「また借金返済に一歩近づきましたわね。うーん、わたくしは結婚でも全然良いのですけどぉ~……」

「……ちなみに、送料はすべて勇者ネットが負担いたします!」

「まあ、なんてお得なのかしら!」

「あ。一応魔族の国だけは送料を頂きます。でもさすがに、私のグッズが欲しい人なんて、魔族の国にはいないと思うけど」


 だって魔族の王を倒したのは私だもんね。いわば、仇だし。


「そんなことありませんわ。さっそく魔族の方からも購入コメントが届いてますわよ?」

「え……魔族の人、ホントに買ったの?!」

「まぁ、あの方達は強さがすべてみたいなところがありますし」


 アイリス姫は魔法を詠唱して、購入者のコメントを空中に表示させた。


『こんにちは、前回の勇者様抱き枕、とてもよかったです。おかげで封印も解けて、傷もすっかり治りました』

「まぁ、そんな効能もあったのですわね」


 ないから。

 抱き枕にそんな効能つけてないから!


『今回のペンライトも最高です。城内の照明をすべてペンライトに変えて、愛しの勇者様への推し具合をアピールしたいと思います』

「え? 城内って?」

「まぁ、わたくしと同じことをしようなんて、どちらの国かしら」

『今度は僕からデートにお誘いしますね、貴方の魔王より』


 ……。

 …………。


 あれえええええ?

 ちょっと待って、魔王復活してるんですけど?!

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[良い点] おもしろかったです(こなみ) 途中まで読んだところでいっしゅん毒親に寄生されているのかと思いげんなりしてしまいましたが、アイリス姫のいいがかり策謀とわかり一気にコメディとして読めるようにな…
[良い点] 大好き過ぎた。いいですね、勇者ネットショッピング!魔王様最高です。姫からも魔王様からも推されてるの、さすが勇者様。
[一言] 【タイトル】JRPG的な世界観が好きな人をターゲットにした作品らしい。個人的にはいまいちだが、人によっては刺さるタイトルだろうか。 【あらすじ】合わない作品ではあるが、「あらすじをメタ視点…
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