4-01 Machinery Warriors Online
完全フルダイブ型VRゲーム『Machinery Warriors Online』
ハードな世界観に、自由度の高いオリジナル機動兵器の設計と自分で操縦する楽しさで一部のゲーマーから高評価を得ているロボットアクションゲームだ。
自他共に認めるゲーマーの大学生ヒロトも熱烈なファンの1人であり、発売初日から【グリムリーパー】のプレイヤー名でやり込んでいた。
だが、ある日、突如としてデスゲームと化して運悪くログインしていた8000人近いプレイヤーが閉じ込められ、2カ月と少しの間に約3000人が死亡する。
それでもヒロトは生き残るために戦っていた。
2152年9月3日08:47(ゲーム内時間)
デスゲーム開始より79日目 プレイヤー名:グリムリーパー
戦闘エリアE5-5 旧香港地区
特殊な大型ブースターを背面に装着した俺の機体(人型機動兵器)はマッハ1.8の超音速で戦闘エリアに侵入し、降下予定地点を目指して飛行していた。
「0時方向、距離45000に敵機、数16」
複数のカメラ映像を組み合わせる事で外の景色を自分の目で見ている感覚にさせてくれるコクピットの中、身体はハーネスでシートに固定されているが頭部に装着したHMD上にマーカーが出現し、無機質なシステム音声が敵機の存在を報せてくる。
ここで複数の敵機が出現すると最初から分かっていたので、タッチパネル式の兵装選択画面を慣れた手つきで操作して『フェニックス』EAAM(発展型対空ミサイル)を選択した。
すると、HMD上の敵機を示すマーカーが次々に緑から赤に変わって音も変わり、2~3秒で全ての敵機のロックオンが完了する。それを見て俺は、右手で握るサイドスティック式操縦桿のトリガーを引いてミサイルを発射した。
そして、ミサイル発射の演出と共に敵機に向かって飛んでいくミサイルの群れが見え、やがて敵機を示すマーカーが全て消失して撃墜を確認。ゲームとしては追加ボーナス獲得なのだが、何度も繰り返しているせいで何の感情も沸かない。ただの作業だ。
「降下ポイントまで残り5・4・3・2・1、ブースター分離」
眼下に荒廃した(という設定の)香港の市街地が見えてきた頃、システム音声が目標地点への到達を報せ、機体背面の大型ブースターを切り離す演出が入った。それに合わせて自動で機体下部のブースターが作動し、降下速度が調整されつつ機体は慣性の法則に従って前進を続ける。
だが、のんびりと景色を楽しんでる余裕はない。上級者向けのステージというだけあって降下地点には多数の敵が配置されているのだ。
そこで兵装選択画面から『ERG-1200C』レールガンを素早く呼び出し、まずは1時方向の下方にある高層ビル屋上にいる敵機動兵器に狙いを定め(細かい照準や周辺環境に伴う補正などは機体に搭載する火器管制システムが自動で行う)、これを一撃で破壊する。
続いて狙いを10時方向の下方にある別の高層ビル屋上の敵機動兵器に変え、同じようにレールガンの一撃で破壊した。難易度の高い射撃になるが、この2機は降下中に撃破しておかないと少々面倒な事になるからだ。
だいぶ高度が下がってきたが、次は片側2車線の幹線道路上に展開する敵の地上部隊を攻撃するために兵装を『M308』ロケット弾ポッドに切り替える。そして、隊列を組んで移動する敵部隊を上空から爆撃するみたいにロケット弾の一斉射撃でまとめて吹き飛ばした。
この攻撃で敵の機動兵器4機とMBT12両、IFV6両と装軌式自走榴弾砲4両、軽装甲車両とトラックを合わせて5両破壊できた。
また、弾薬の尽きたロケット弾ポッドは自動で切り離されて(拠点へ帰還した際に自動で補充されて出撃前の状態に戻る)機体重量が軽くなり、僅かだが操作性が向上する。
その後、敵地上部隊がいた近くに着地するのだが早速、2機の機動兵器が道路上を高速で移動して接近してくるのをレーダー画面で確認。破壊を免れた3両のトラックは非武装なので後回しにし、兵装を接近中の敵に有効な『エクスカリバー』プラズマキャノンに切り替えた。
さらに、こちらも敵の高速機動に対抗するため背面スラスターの推力を最大まで上げ、機体を一気に100km/h以上にまで加速させて高速機動に入る。
この高速機動と機体各部のブースターを使った上下左右に前後を合わせた3次元機動に加え、豊富な武装による高い汎用性と装甲防御を高次元で融合させたのが機動兵器という訳だ。
そして、完全フルダイブ型VRゲームとして無数に用意されたパーツを様々な方法で入手し、自分だけのオリジナル機体を組み上げて戦う事が醍醐味だった。突然、ログアウト不可のデスゲームになるまでは……。
「ミサイル接近! ミサイル接近!」
「チッ!」
システム音声からの警告に舌打ちしつつ機体を高速でジグザグに水平移動させ、ミサイル回避の機動を行う。その上でミサイルが一定の距離にまで接近したタイミングでチャフとフレアを放出、同時に機体をジャンプさせて全弾回避する。
互いに高速で接近した事で距離が急速に縮まり、滞空中に2機の敵がプラズマキャノンの射程圏内に入った。このチャンスを逃さず向かって左側の敵に狙いを定め、プラズマキャノンの2連射を撃ち込んで確実に破壊し、すぐに残った1機に狙いを変えて同じように2連射で撃破した。
降下時に高層ビル屋上の敵を排除した理由がこれだ。デスゲーム化する前、地上で交戦中に狙撃されて苦戦した経験から学んだ対抗策である。そして、引き返すと残った3両のトラックを破壊して敵部隊の殲滅ボーナスも獲得した。
だが、のんびりとはしていられない。廃墟と化した市街地には複数の敵が点在しており、それらが合流して迎撃態勢を整える前に各個撃破しないと俺が殺される。だから、レーダー画面で最も近くにいる敵を確認すると道路に沿って高速で移動していく。
「俺は死ねない。絶対に死ねないんだ……」
移動中、自分に言い聞かせるように呟く。この時、脳裏に浮かぶのは決まって2つ下の甘えん坊な妹のすがるような顔だ。それは親族とは疎遠で6年前に両親も事故で失い、悲しみに暮れる妹を抱きしめて『俺がずっと一緒にいてやる!』と約束した日に見た顔だった。
◆
高速移動中に最大推力でジャンプし、高度を合わせつつ空中で上半身だけ左に旋回させて遠方の高層ビル屋上からこっちを狙ってる敵に照準を向ける。そして、敵を捕捉すると同時にレールガンの射撃で破壊した。しかし、直後に機体に衝撃が走ってカメラ映像も乱れる。
「クソッ!」
それが被弾を意味する演出だと知っているので、悪態をつきつつも急いで機体の耐久値(いわゆるHP)を確認した。幸い、減少値は5%未満に収まっていたので安心した。
今日に至るまでリスクを承知で出撃を繰り返し、高性能なパーツを集めて重火力・重装甲の機体を高出力ジェネレーターと大推力スラスターで強引に動かすセッティングにできた事が大きい。
一応、軽量・高機動の機体で被弾しない事を前提にしたセッティングも場合によってはありだが、少なくともこのステージは被弾前提の重装甲機体の方が向いていた。
もちろん、そうまでして機体を強化するのには理由がある。デスゲームとなった今、全てのプレイヤーが恐れる緊急出撃と呼ばれる拒否権なしの強制出撃の存在だ。いつ誰が選ばれるかは完全にランダムで、対象者は強制的に高難易度の戦闘地域に送り込まれる。
普通のゲームだった頃は機体を破壊されてもペナルティは無く、破壊されるまでに獲得したパーツや資金も回収できた事からボーナス扱いだったが、今は機体を破壊されると現実でも死ぬ。事実、今までに死んだ約3000人のプレイヤーの内、8割近くが緊急出撃だった。
だからこそ俺を含めた生き残りのプレイヤー達は、いつ地獄に送られてもいいように日頃から操作テクニックの向上と機体強化に余念がなかった。
「新任務を受諾。指定ポイントに向かえ」
「どういう事だ?」
市街地に展開していた敵の掃討が完了した直後、システム音声と共にHMDにも内陸の方角を示す表示が現れる。このタイミングでの新任務出現など1度もなかった為、疑問が声に出てしまう。
本来なら揚陸艦と駆逐艦を中心とした艦隊の増援が湾内に出現する。これは数多のプレイヤーによってデスゲーム化する前から万単位で検証が行われた結果であり、記憶違いとかではない。それでも他に選択肢がない以上、警戒しつつも表示に従って機体を目標地点へと向かわせた。
そして、目標地点に近付いたところでレーダーが8機の敵機(おそらく攻撃ヘリ)を捉えたので、素早く全機をロックオンして『フェニックス』EAAMを発射して撃墜する。今回は弾薬が残っていて射程距離でも勝っていたので助かった。
だが、今の攻撃でこちらの位置も露見したらしく、4機の機動兵器が高速で接近してきた。まだ距離があって遮蔽物も少なかったので兵装をレールガンに切り替え、先頭の機体を狙撃して破壊する。すかさず、その左隣の機体に狙いを変更して狙撃、2機目も同様に破壊した。
さらに3機目もレールガンの狙撃で破壊するが、敵機も撃破される直前にミサイルを発射してきたせいでコクピット内に嫌な警告音が鳴り響く。なので、咄嗟に回避機動とチャフ/フレアの放出を行ってミサイルを回避。
しかし、その間に4機目の接近を許してプラズマ兵器を撃たれ、耐久値を15%近くも削られた。ただ、こちらも即座にプラズマキャノンで応戦して敵機を破壊したので被弾は1発だけだ。
「あれは……」
こうして全ての脅威を排除して指定ポイントを示すマーカーを目視距離で確認すると、そこには不時着した大型輸送ヘリがあった。とりあえず、マーカーに重なるよう機体を移動させる。
「うわっ!」
次の瞬間、コクピット内が強烈な光に包まれて反射的に目を瞑る。
「え……?」
膝の上に奇妙な重さを感じて恐る恐る目を開けると光は収まっていたが、1人の美少女が安らかな寝息を立てて眠っていた。しかも、その少女は別のゲームで妹が使っていたアバターと全く同じ姿で、表示されたプレイヤー名まで一緒だった。