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4-16 変な魔剣を作りたいから金目の物を奪って売るぜ!

 ソドと呼ばれる青年は、天空都市にてとある野望を持っていた。


 ディープな層にクロスする魔剣。略してDX魔剣を作り、それを使って戦うことである。


 ただ、あまりにも自己満足すぎた野望であるため、誰にも理解されなかった。


 ある日、いつものように断られた時。奇妙な出会いをはたす。


『ふふん、こんにちは人間。私は悪魔令嬢、ルシフ! 仲良くしましょ?』

「……よし売る、すぐ売る。DX魔剣作る。魔晶玉なんぞ厄ネタじゃねえか!」


 古くから続くバトルロイヤルと魔晶玉。玉を売れば一攫千金も夢ではないと聞き、ソドは参加を決意。戦火へと飛び込む。


「やる気出てきたぁ!人狩りいこうぜ!……いや入念に情報固めて奇襲したほうがいいな。よし、参加者を暗殺しよう!」

『アンタねえ……』


 これは魔剣を振るい、日々金に喘ぐ青年と悪魔令嬢の戦いの日々を記した物語である。

 魔剣の図面と特殊な音が入った容れ物を彼は壁に叩き付けた。

 

「俺は、魔剣を作って、ほどよい戦闘の日々が欲しいんだよ……!」


 薄暗い路地裏に、羊皮紙は飛び散り、厚みのある円形が舗装されたレンガの上をコロコロと転がった。


『ピンポンパンポン~天空都市にお住いの皆様に、聖魔天使カオスちゃんがお知らせします』


 どこからか、大きな声が響き渡る。この都市特有の広域連絡手段である放送は天使が担当していた。


 ただ、男はそんなことも気にせず。低く唸っている。


『前日の予告通り、都市が雨雲に入ります。雨天決行できる種族以外はどうぞ大人しくしていてください。迷宮も開いておりますので、一攫千金もどうぞ!』


 その予告通り、雨が降り出した。路地裏も例外ではなく雨粒が降り注ぐ。

 

 そんな中、彼は。短めに切り揃えた髪を搔き。


「DX魔剣の価値がわかんねえのかよ畜生が!」


 慟哭が響く。表の道にまで届くが構いもしないとばかりに叫び散らかす。


「企画書も作った、市場効果も話した。音声サンプルまでなけなしの財産をはたいてまで作ったんだぞ」


 彼の名前はソド。外観は普通の青年。先ほどまで、とある物の制作のため。資金を調達しようと駆けずり回り、失敗に終わった男である。


 彼は雨でぬれた紙を構わず集めて、転がった媒体を探しながらぶつくさと文句を漏らす。


「商会ですら見向きもしねえ、販路とコストが見合ってないだとか。年月をかけるメリットがないだぁ?」


 道を踏み荒らすかのように歩き、目的の円型を手に取る。そしてその媒体に魔力と呼ばれる物理法則をある程度無視した力を流し込むと、快活な音楽が鳴り響いた。


「ロマンがあればなんでも突っ走るのが男心だろうが。ディープな層にクロスする魔剣……DX魔剣って名前がダメだったのか? DXシリーズの構想まで用意したのになぁ……全部終わりだ終わり」


 DX魔剣はソドの長年の目標であった。生まれた家が取り潰しとなり、様々な村や町を彷徨う途中で出会った老人に、お世話になった時聞かされた、この魔剣の大元となる構想、試作品の数々。教わった様々な事。


 それらの影響を色濃く受け、老人の死後。その野望を叶えようとこの天空都市に辿り着いたのに。


「はあ……どうしよ。素材を売るにも迷宮探索者が多すぎて素材は高く売れないし。売れないと鉄が買えねえ」


 迷宮で満足する程度の素材は集まるが。魔剣製作に必要な鉄が買えなかったのである。


 魔術媒体はこの天空都市にある、迷宮に潜む生命体、魔物と呼ばれる存在から採取できる。腕利きであるソドはそれについては何も問題がなかった。


 だが、金属が高い。天空都市なこともあり製作に必要な金属がバカ高いのである。その上、炉が使える建物も限られており。非常に厳しい状況と相成った。


 そのために伝手と制作場所と金が必要になり、商会・鍛冶屋・ギルド等の機関に赴いたが結果はご覧の通り。


「ちくしょー雨粒うめえー。帰って寝よう。そうしよう……ん?」


 ずぶ濡れ男は、先ほど媒体があった位置に何か見つけた。


 濡れて体積は凹んでいるが。何か白い袋のようである。しかも、丸みを帯びた物体が光を発している。


「光ってる……鉱物か!? 売れそうだな!」


 生き恥を晒してもいい心境にあるソドは、一心不乱に漁ろうとして、それに気づいた。


「丸い球……怪しすぎねえか」


 布に包まれても光りが漏れるそれの布をはぐり。薄く光り謎の紋章がある球を手に取り、球をのぞき込んで。


 視線が交わった。


「……!? やべ噂の魔晶玉か!? いってえ!?」


 身体を思わず仰け反るソド。傾く身体は路面状況が濡れていたのも相成って、ひっくり返り、球体が宙を舞う。


 それは、綺麗に弧を描いて額に着地し。


『おっしゃあ! 私に勝機がきたわよ! 契約!』

「はあ!?」


 中にいた何かと、繋がった。そして玉の中から可愛らしい声で。


『ふふん、こんにちは人間。私は悪魔令嬢、ルシフ! 仲良くしましょ?』


 悪魔とは思えない名乗り声をソドは聞かされたのである。


「……よし売る、すぐ売る。DX魔剣作る。魔晶玉なんぞ厄ネタじゃねえか!」

『はぁ……!?待ってお願い私の話を聞いて』

「やだよ、良い噂聞かねえんだよこれ!」


 ただ、ソドにとってはお金以上の厄介事。すぐに路地裏からでるために物をあらかた持ち足を進め始める。


 魔晶玉とは、強力な怪物が封じられており。尚且つそれ自体がとある催しの参加券である。


『1回だけ、1回でいいから私の話聞いて、ね?お願いします。滅多にないチャンスなの!』


 必死な様子に歩を緩め、屋根で雨をしのげる場所に入る。


「わかった。話を聞く。ただ……ルシフだったか?お前の命を握ってることを忘れるなよ」

『言いにくいんだけど、契約した時点で私たち運命共同体よ。破壊されない限り……大変な未来がまってるわ』

「詰んだ。この玉持ってるだけで最後の一人になるまで戦わないといけないんだろ? 逃走の日々でお金も稼げずお先真っ暗確定コースだ……」


 ソドは遠い目をして雨が降る空を見上げる。野望が潰えた瞬間である。


 彼が嘆く要因となった魔晶玉にはろくでもない話がついている。


 曰く、魔晶玉を持った最後の一人になるまで戦いが、続行されるバトルロイヤルが行われていると。過去お世話になった老人が言っていた話で。幼いソドも絶対参加したくないと思っていたほどだ。


『安心しなさい、落ち込まなくてもお先は明るいわよ。何せ開始してもう200年は経ってるから。そんな積極的にやり合ってないわ』

「……なら余裕は結構あるな」


 その話はソドからすれば青天の霹靂であった。心持ち楽になる情報。


「じゃあ金稼ぎになりそうなことないか? これ売ったら儲かるとか」

『結構俗物的ねアンタ。それなら誰かの魔晶玉を奪えばいいわ。この天空都市にある運営とか国に売れば結構稼げるわよ』

「やる気出てきたぁ!人狩りいこうぜ!……いや入念に情報固めて奇襲したほうがいいな。よし、参加者を暗殺しよう!」

『アンタねえ……まあ1つ条件があるわ』


 魔晶玉から呆れた声が聞こえる。玉にこんな態度取られるのも新しい感触でいいな、と性癖の扉を開けてるソド。


 そんな彼に気づかずルシフは条件を言う。


『いい?魔晶顕現といいなさい。ほかにも出来ることはあるけど……これがないと始まらない』

「お前それ絶対ヤバいやつだな。詳細を言え」

『忌々しい聖魔天使が納めるこの都市を破壊できるだけよ』


 迷いなく玉を地面に叩きつけた。


『いったぁ!……だってこんなチャンスないのよ!?やっと契約できたし、この瞬間しかない!封じ込めやがったあの天使に復讐出来る!』

「俺の潜在顧客もいるんだよ!罪のない人々を巻き込むなよ!!争ってる場合じゃねえ……なんかきたぞ」

『はぁ?……あ〜失敗した。このタイミング。初心者狩りよ、契約時の魔力を掴んだみたい』

「は?」


 路地の入り口から、小汚い男が歩を進める。その男の手には玉があり、ソドが持つ物と瓜二つ、魔晶石だ。


「オラの住処で何やってるかと思えば。いい獲物が釣れたポギャ……!」

「……妙に生活感があるなとは思ってたが」

『そう言えば私、盗難品だったわね』


 どうするかソド達が判断する前に、ポギャ男は魔晶玉を掲げ。


「ポギャギャギャ!見たところバトロワ初心者のお前にはできねえことしてやらぁ!!《魔晶顕現:群隊小鬼》!!」


 路地に無数の気配が膨れ上がる。


「こいつぁ、個にして数の暴力」


 緑の肌と頭に小さな角と身体を持った生き物が現れた。迷宮探索と呼ばれる稼ぎ口で、よく出現する小型生命体。


「1つの個体から無数の同種を生み出す異常性質を持ったゴブリンだギャ!まさに軍隊!俺の指揮の元なら最強ポギャよ!!」


 その生物は口角を上げると、ぶくぶくと質量を上げていく。隣接する建物に挟まれようと逆に破壊する勢いで大きなっていきやがて、割れ。


「初心者狩り、開始ギャ!!」


 バタバタと、ゴブリンの雨が降り注いだ。


「慌てすぎて警戒出来てなかったのは悪かった。とりあえず、今だけ手を貸す。勝利条件は……」

『私のオススメは、アイツの玉をぶっ壊すこと。あと、業腹だけど聖魔天使の所に逃げ込めば良いわ。主催者みたいなもんだし。手出しが出来ないはず』

「うわぁ、聞きたいことが結構増えた。なあ、この玉って上手くやれば本当に高値で売れるんだな?」

『間違いないわ』


 ソドは軽く思案する。それさえわかれば後は行動するだけだ。


「じゃあそれが勝利条件だ。魔晶顕現以外の能力を教えろ、それと俺の地力を合わせりゃ多分勝てる」

『あのねえ、勝てる算段付けるの早すぎるわ。もうちょっと良く観察して……』

「大丈夫だ、剣の腕は常人レベルには納めてねぇ」


 ソドの目標が今定まった。問題が増えたがDX魔剣の製作は。このポギャ男をぶちのめせば、道が開ける。


「……」


 腰に下げていた剣を抜く。ケタケタ笑う相手をみて。老人と交わした言葉が、頭をよぎる。


 楽しくも忌まわしい運命へと、引きずり込んだ言葉を。


(『夢を叶えろ』か……やっと、爺さんとの約束が果たせるな)


 プレゼンセットと魔晶玉をポケットに入れ。腹と剣に力を籠める、もう覚悟は決まった。


「戦いに、魔剣に、出会い。全ての夢を満たしてやるよ。爺さん」


 剣を振り、落下してきた小鬼の首を斬り飛ばし、生き残りとDX魔剣製作を賭けた戦いが始まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 決して善人というわけではないのに、不思議とソドの好感度が高いです また独特な空気感がある文章ですが、会話文と地の文のテンポがとても良く、読みやすかったです 世界観もわたしはあまり見かけない…
[一言] 【タイトル】おそらく主人公の「俺はやるぜ!」という宣言、嫌いじゃない。 【あらすじ】タイトルでもアピールした主人公のキャラクターを推し、なおかつどういう話かも分かるすばらしいあらすじ。 …
[一言] ソドは真っ当だったんですねぇ。 タイトルやばいですが、そこに引き込んだのがルシフというわけですか。不思議な悪魔令嬢さんですね。(キャラ好き) あらすじ、本文にて「人狩……ひとがり!? 一狩…
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