9.ペアデ国
翌朝、私はずいぶん早い時間に目が覚めた。
お父様とお母さまの愛した、ペアデ国に戻る……一か月たったけれど、国はどうなっているのだろう……。
窓から外を眺めて物思いにふけっていると、ドアをノックされた。
「準備はできましたか?」
「……はい、ウォルター王子」
「それではまいりましょう」
ウォルター王子は私を王の部屋の前まで連れて行ったが、外で待つように告げた。
「ウォルターか? まったく、思い上がりも甚だしい……。尻尾を巻いて帰ってくるのが目に見えるようだ」
「父上……」
「早くいけ」
「全力を尽くします」
ウォルター王子は10名くらいの兵士と、2,3人の召使を連れてフォルツァ国を出た。
「リネ、ペアデ国のことは農業国であるということくらいしか、理解していない。力になってくれるか?」
「……私にできることなら」
私はウォルター王子とともに、馬車に乗り、ペアデ国に向かった。
ペアデ国に向かう道を馬車は進んだ。
ウォルター王子は遠い目をして何かを考えているようだ。
私も、何かしゃべる気になれず、沈黙だけが馬車の中に立ち込めていた。
「そろそろ、着くぞ」
「ええ」
ウォルター王子と私を乗せた馬車は、ペアデ国に入った。
私たちは緊張した面持ちで、町を眺めた。
道端には、物乞いや、身なりの汚いものがちらほらといた。
お父様たちがいたころには考えられない風景だ。
私が信じられないという気持ちを押し殺していると、ウォルター王子が先に口を開いた。
「あの、美しかった国が……こんなことになっているとは……」
「フォルツァ国のせいです……」
私は、色あせた町を見つめ、唇をかみしめた。
口の中に、血の味が、じんわりと広がっていくのを感じながら。