5.ウォルター王子の来訪
私が部屋でぼんやりとしていると、ドアがノックされた。
「はい?」
「私だ。ウォルターだ」
私はドアを開けた。
「夜分に済まない。メイドたちとは仲良くやっていけそうか?」
「……そうお思いですか?」
私は面倒な説明をする気にもならず、簡単に返答した。
「……何かあったのか?」
「何も」
ウォルター王子は「そうか」と言うと、しばらく何も言わずに私を見つめていた。
「何か?」
私が少しいら立って、ウォルター王子に問いかけると、ウォルター王子は部屋の中に入ってドアを閉めた。
「父上が……こんどはフェロウ国に攻め入ろうと考えているようだ」
「……私には、なにもできません」
「そうだな……」
ウォルター王子は力なく笑った。
「あの大国に攻め入るなんて、恐れ多いと思わないのでしょうかね」
私の言葉にウォルター王子は頷いた。
「父上は……先の戦に勝ったことで、高揚しているようだ」
ため息交じりの告白をするウォルター王子に、私は冷めた目を向けた。
「なぜ私に教えたのですか?」
私は眉間にしわが寄るのを隠そうともせず、ウォルター王子に問いかけた。
「何か、戦争を避けるための妙案がないかと思って」
「それが分かれば、私の国はまだ栄えていたでしょう」
私はため息をついた。ウォルター王子はそれを見て、苦笑した。
「フェロウ国は戦に慣れている。軍備にも優れた大国だ。我が国はまだ新興国のようなものだ。父上には無謀だと伝えたのだが……」
「そしてまた、血が流されるのですね」
私は冷たい目でウォルター王子を見据えた。
「それを避けるため、私は父上を説得しているところだ。……邪魔をしたな」
ウォルター王子はそれだけ言うと私の部屋を出て行った。
「また戦が起こる……」
私は小さな窓から、外の景色を見ようとした。けれどもう外は暗く、月明かりに照らされた庭が冷たく輝いているだけだった。
「私に何ができると言うの……?」
握りしめた手に、爪の跡がついていた。
私はため息をついて、冷え切ったベッドにもぐりこんだ。