第1章3 『紫の女』
ーー才能?この女は何を言っているんだ。
赤い瞳の女は近づけた顔をスッと離し、立ち直す。
「自己紹介がまだだったわね。私の名前はデューア・ヴァイツァー。悪魔よ。」
ーーはい?こいつ今なんて言った。悪魔だぁ?
そうだな、ここで容姿について整理しよう。
まず、彼女の身長は170センチくらいだ。ハイヒールを履いているがまぁいいだろう。
次に、髪の色は紫、腰まではあるだろう綺麗なストレートとワンサイドアップな髪型だ。
どこか大人っぽさと気品が溢れるが、言葉遣いは少々荒い風に見える。
「何言ってんだお前。」
ーーあ、やべ。
そう思ったがもう遅い。
初対面の人間にタメ口なんて普通ならありえないのだが、訳がわからなすぎて思考を放棄してしまった。そのためか、失礼な態度を取ってしまったと気づく。
彼女の眉が少しピクッと動いたのを見たが、あえて見なかったことにしよう。
ーー取り敢えず、この場を去ろう。人見知りでは無いが、鎌を背負う人間と一緒にいるのは怖い。いや、悪魔か?
「助けてくれてありがとう。じゃあ、俺は失礼して」
踵を返し、教室を出ようとする。さっきの戦闘で壁は壊れ、教室と廊下の境界線は曖昧になっているがどうでも良い。
「ちょっと待ちなさい。」
脚を上げ踏み出そうとした瞬間左腕を掴まれた。
女の子と手を繋いだのは初めてで、ドキドキする!なんて事はなかった。
ーー痛い。力強すぎです。
「なんでしょうか。僕帰らなきゃ。」
「口調さっきと違うし。アンタ、少し手伝いなさい。」
「いや、俺は戦えないんで。 武器の使い方とかわからないし! 痛い! 離して!」
全力で振り解くつもりで腕を引くがビクともしない。
これはいよいよ諦めの時。諦めはいい方だ。
「はいはい、わかっ」
言い切る前に視界が揺れた。
何かの攻撃だろうか。傷は無いものの変わったことと言えば。
ーー校庭が凄く小さく見えるぞぉー
空である。母さん、今俺は空にいます。
デューアが腕を掴んだまま空に飛び上がったらしい。落ちたら死ぬなこれ。
現実逃避の思考を探していると、ウィーンと言った機械音と共に視界に銀色の何かが映り込む。
それは鉄の板を何枚も打ち付け、無理やり球体状にしたような物体だった。
球体がゆっくりと回転し、こちらを捉えた。
鉄球の中央には紫色に光る部位がある。
まるで眼球を模しているかのような作りをしていた。
紫色に光る部位は瞳のような形をしている。
キュイーンと耳を貫く音と共に、更に強く光りを発する。明らかに何かをチャージしている。
音が鳴り止み数秒後、視界は光で包まれた。