第1章2 『邂逅』
外から差し込む光が暗い視界を徐々に明るくしていく。
ーー眩しい・・・ まだ眠い
変な夢を見た気がする。内容ははっきりとは覚えていないが、酷く怖く、寂しい夢のような・・・
考えるのをやめ、布団から出る。
どれだけ怖い夢を見ようとも、目に映る風景は変わらないものだ。常に一緒。
ーー常に・・・
そう思った瞬間。視界に時計の姿が入る。
時計の針は7時40分を指していた。授業の開始時間は8時。準備して、飯は・・・食ってる暇はないな。
ガタガタと慌ただしく支度を始め、階段を駆け降りる。
「母さん!行ってくる!」
母の返事は聞かずに飛び出し、学校へ走る。
ーー遅刻したら怒られるぞ。
雲一つない青空の下、全速力で走る。
彼の知らない所で地獄の門が開かれる。
彼は息を切らしながら学校の正門を通過する。現在の時刻は8時10分、余裕の遅刻だ。
靴を履き替え、教室に小走りに向かう。
扉の前で深呼吸。早くなった鼓動を緩やかにしなくてはならない。
走ったから心拍数が上がっているのか、はたまた怒られる事への恐怖か。
扉の取手に手をかけ、ゆっくりと引く。
ーーすいません、遅れました。
そんな謝罪の言葉は出なかった。
教室にいる全員がこちらを見る。それもそうだろ。遅刻してきて、授業中に入ってきたのだ自分だって気になる。
だが、そんな中でもグッと視線を引き寄せられる何かが窓の外にある。
ーー黒い霧か・・・?
窓の外には、黒い霧か靄のような物がくねくねと動いている。それは次第に見た事のある形に変化していった。
ーーあれは、サソリのしっぽか?
「待て!ここは3階だぞ!」
彼はそう叫んだ。
刹那、しっぽが鞭のようにしなり、学校を攻撃した。
いや、実際は出来なかった。空からサソリを目掛けて何かが落ちてきたのだ。
ズドンッと響く轟音と共に土煙りが立ち込める。
流石に教室にいた連中は事態に気付き、早々に逃げてしまった。
彼は走り出し、衝撃で割れた窓から身を乗り出して下を見る。
徐々に視界が晴れていき、うっすらとシルエットが浮かび上がる。
髪は長く、華奢な女性だ。身長は170センチくらいだろうか。体格には合わないであろう大きな鎌を持っている。
「あーあー。こちらデューア・ヴァイツァー。もしもし?もしもーし。」
シルエットの方向から声が聞こえる。
目の前に広がる異常な光景に立ち尽くしていると、彼女は彼を見上げるように見つめる。赤い瞳が煌々と光り、事態の把握が出来ていない人間を見つめた。
「生存者?まだ近くにいたのね。・・・あ、もしもし?こちらデューア。黒雲蠍を一体討伐したわ。じゃ」
彼女はそう言って通信機を切り、腰にあるベルトに刺した。
彼女は飛び上がり、砕け散って風通しの良くなった教室の窓から侵入し彼の瞳を覗くように見つめて一言だけ言った。
「アンタ、『才能』あるよ。」