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隣の国はよく問題を起こす国だ  作者: 猫又湖太郎
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沈没船の宴1

ナリアの心肺停止までおよそ9分———


(やるしかない!コイツを殺してナリアを救う!)


タッ、タッ、タッ!

 カルロは男に近寄る。


「近づいてくるか。いい度胸だ!なら俺も近づいてやるよ」


 男もカルロに近づき、お互いの攻撃が届く間合いに入る。


「こいよ、ノーストアリア人!」


 男は安い挑発し、それに応えるようにカルロは拳を仕掛ける。

 普段のカルロならこんな見え見えの安い挑発には乗らないが、今のカルロは冷静では無かった。妹の生死が関わる戦いだ。それまで培ってきた経験値がゼロになるほどに焦りを見せ、当然ながら勝利を急ごうとする。


「攻撃がすり抜けることを忘れたのか?」


 攻撃は透かされる。カルロの腕が男の身体を貫通する、奇妙な光景が広がる。


「初めて能力者に会ったが、ここまで弱いと拍子抜けだな!」


 男の拳がカルロの心臓を捉える。


「あと3発!」


 再びカルロは男と距離をとる。


(クソ…何をやっているんだ僕は…。相手のペースに呑まれるな!僕が負けたらナリアは助からない!一旦落ちつくんだ…)


「なんだ?もう終わりか?こうしてる間にも現在進行形で少女は呼吸が出来ずにもがいているぞ!」


 再び男から挑発を受け、思わずカッとなり頭に血が昇ったが、冷静に深呼吸をし、酸素を吸い込み血液を循環させ、頭の歯車をフル回転させる。


(まだ時間はある…。奴の能力を理解しないと奴には勝てない…。

考えろ…奴の能力は自身や物を透過させる能力。ナリアは恐らく奴の能力によって地面に触れられずに下へ落ちたんだ。ナリアが落ちたのなら攻撃された僕はなぜ透過されない?透過させるには何か条件があるはずだ…)


「なにボケっとしている?今は戦闘中だ!」


 痺れを切らして男が襲いかかってくる。


 男も喧嘩慣れこそしているが素人の動きだ。カルロにとって男の攻撃をかわすのは造作でもない。

 カルロが元軍人で、軍から学んだ格闘術を駆使して相手を牽制する。対して、男は喧嘩で培ってきた独自の技術を活かした喧嘩殺法で応戦する。

 殴り合いの場面では、カルロが優位に立っている。カルロの攻撃は緻密で威力があり、技術的に男よりも高い水準を持っているからだ。

 だが、男には透過の能力があり、殴り合いの最中でもその能力を行使してカルロの攻撃はことごとくかわされる。

 殴り合いで勝ち目がないと分かり、すぐさま守りの姿勢を整え、相手の攻撃を捌く。


 二人の激しい攻防が続く。


(コイツ…狙っているのか…?)


 攻撃をかわしながら、ある特定の行動に違和感を覚える。


「どうした!逃げ回ってばかりじゃ俺は倒せないぜ!?」


「あぁ、ナリアも苦しいだろうし、そろそろ反撃とさせてもらおう」


 カルロは逃げの姿勢から攻撃の姿勢へとシフトチェンジし、男に攻撃を仕掛ける。


 男も待ってましたと言わんばかりに能力で自身を透過させてカルロの攻撃を交わし、すぐさま素早い反応速度でカウンターを仕掛ける。


「は!俺の沈没船の宴(グリーフ・ダイバー)は無敵だぜ!」


 3度目の心臓への攻撃がカルロに入ろうとした時…


「な!?」


 心臓への攻撃を華麗にかわし、一瞬の隙に男の腕を掴み、そのまま素早く身体を捻り、背負い投げの形で地面に男を叩きつけた。


「カハ…!」

 

「狙い通りだ。どうやら攻撃する瞬間は透過を解除して実体化しなくてはいけないらしい。それにさっきから僕の心臓を執拗に狙ってきてるよな?狙いさえ分かっていれば、あとはタイミングさえ合えば攻撃は当てられる」


 カルロは男の攻撃パターンを冷静に分析し、『心臓を狙ってくる』という特徴を見抜いた。


「ヒュー、ヒュー…ケホ!ケホ!」


 地面に激しく叩きつけられた衝撃で呼吸がままらない状態になる。その隙を見逃さないカルロは追撃を仕掛け、止めを刺そうとした瞬間に男が地面から消える光景に遭遇する。


「消えた…」


 男が透過の能力を使い、非実体化をして地面へと落ちて姿を暗ます。


「自身を透過させて地面に逃げたか!このまま逃げられたらナリアは…」


——透過した世界——

(くそ…舐めていた。あの野郎、素人の動きじゃねー。アイツ何者だ?…このまま逃げれば俺の勝ちだが、それは俺のプライドが許せねー!)


——実体した世界——

「奴はどこだ…奴自身も透過すれば呼吸できないはずだ。そんなに長くは潜れないはず…」


「ああ、そうだぜ。俺自身も透過すれば呼吸はできない」


 どこからか男の声が聞こえてくる。声はするものの、発信源は見つけられない。


「どこだ!隠れてないで出てこい!」


「隠れる?俺は勝つ気でいるんだぜ?これはお前に勝つために必要な行動だ。()るからには一切の出し惜しみはしない!能力の特性を生かして、全身全霊を持ってお前に勝つ!卑怯だとは思うなよ」


 ドガ!


「?!」


 何もない所からの突然の攻撃に困惑する。


ヒュン!


 再び拳の攻撃が飛んでくる。

 それを辛うじてかわす。


「拳が飛んできた!?いったいどこから!?」


 固唾を飲み、カルロは周囲を見渡す。狭い路地の壁がカルロを取り囲む。戦慄がカルロの身体を駆け巡った。


「壁をすり抜けて攻撃をしているのか!?ここはまずい…周りは壁だらけの路地。すなわち奴のテリトリーだ!急いでここから離れないと!」


 ダッ!カルロは一瞬の判断に身を委ね、地面を蹴って走り出す。この狭い路地を抜け出せば、平地へと辿り着ける。平地さえ行けば透過による攻撃の脅威は少なくなる。カルロは壁の向こうに広がる平地を目指し、全力の筋肉を駆使して駆け抜ける。


「壁からだけじゃない!当然、下からも攻撃を仕掛けられる」


 地面から突如として伸びた手がカルロの足を掴む。カルロは咄嗟のことに対応しきれずに横転して体勢を崩す。その瞬間に男は透過を解除させて姿を現し、体勢を整える前を狙い容赦のない一撃がカルロの心臓へ打ち込まれる。


「カハ!」


「あと二発…」


真実の贈り物(トゥルー・ギフト)!」


 カルロは一瞬のうちに立ち上がり、周囲に散らばっていた新聞紙や雑誌の束を手に取り、能力で男に与えた。


「ゴミなんか投げて何になるんだ!?」


 男の言う通りゴミクズを与えた所で、大した威力にはならない。そのまま男は透過せずに追撃をしようと突っ込んでくる。


ボッ!とカルロの手元が光りだし、暗い路地に一つの光が灯る。


「いつも携帯しているマッチに火をつけて、さっきお前に与えたゴミに引火させる」


 火で灯されたマッチ棒は空中に散らばっている新聞紙や雑誌に引火し、男の身体を包み込む。


「熱っ…!だが自身を透過すれば熱をも感じない!」


 自身を透過させて、包まれた炎から逃れる。自身を透過すれば熱でさえもダメージを与えることはできない。

 無敵。沈没船の宴(グリーフ・ダイバー)は攻守共に隙がなく、さらには炎のような自然の力でさえ彼を倒すことはできなかった。


 炎の熱から逃れた男はカルロに追撃を試みるが…


「いないだと?」


 燃えた物質は偶然なのか、必然なのか、近くに落ちていた大量のゴミに燃え移る。瞬く間に炎が広がり、視界が奪われるほどの黒煙に覆われる。


 黒煙が立ちこみ、黒煙を振り払って周囲を見渡し、カルロの姿を探す。しかし、カルロは既にいなかった。


「黒煙に紛れて逃げたか…。だが、お前の考えていることはお見通しだぜ。この立地から逃れたいんだよな?普通の奴なら壁からのすり抜け攻撃を嫌い、どこか壁のない平地へと行く」


 男は冷静な分析でカルロの意図を読み取り、カルロが逃げた方向推測する。


「確かに平地なら、透過の能力の脅威は半減する…。いいぜ、お前が望んだ通り、平地のステージで戦ってやるぜ」


 男はカルロが逃げたであろう方向へ向かう。



—————————


「ハァ、ハァ、なんとか平地までやってこれた…これで壁からの攻撃が無くなる」

(それよりも不可解なのは執拗に僕の心臓を狙ってきてるということだ。ナリアは透過された…僕が能力で与えた荷物もだ…。僕が透過されない理由は一体?透過するには条件があるはずなんだ…。奴は頑なに僕の心臓を狙ってくる…もしかして、心臓への攻撃が透過する条件か?)


「狙い通り平地へ来たな、ノーストアリア人」


「ハ!」


 うしろを振り返ると男が余裕そうな笑みを浮かべながら歩いてくる。


「お前の物を投げつける能力じゃ、俺の透過の能力に勝てないぞ?背負い投げをされた時は、ちと焦ったが…体術以外は脅威じゃないってことだ」


「心臓への攻撃だろ?」


「ん?」


「心臓への攻撃が透過をする条件だ。いや、物質の核…物質の中心への攻撃の方が正しいか」


「ほぉ」


「最初の荷物での攻撃…よく見たら荷物が拳に触れていた。そしてナリアとぶつかった時も背中に触れていたな?ナリアの胸元を触りやがって…この変態が」


 最後のはただの私怨だった。


「そして、炎での攻撃。炎は物質の中心がないから自身を透過させて炎から逃れた」


 パチパチと男が手で賛辞を送る。


「ご明察の通りだ。物質の中心に拳を当てることが透過させる条件だ。荷物くらいだったら一発。女だったら3〜4発。成人男性なら5発だな。物質の質量によって回数は増えていく。炎や空気のような実体のない物は透過できない」


「つまり、僕が透過させられる残り回数は…」


「2発だぜ。あと2発、心臓へ拳を叩き込めば少女と一緒に透過した世界へといけるぜ」


「……お前があと2発拳を入れる前に、僕がお前を倒す」


「お前にこの戦況を覆すほどの実力はねーよ」 


「……平地へ来て大丈夫か?透過能力は確かに強いが、平地ではその能力はあまり活かせない」


 ニヤリと男は不敵な笑みを浮かべる。勝ちを確信した、傲慢ともとれる笑みだった。


「あっははは!まんまと来たわけだ!この平地へ!お前は俺のことを平地へきたマヌケな奴だと思っているようだが、平地へ来たマヌケはお前の方だぜ?平地では能力を活かせない?笑わせるな!」


 男は声を荒げて、カルロから少し距離をとる。

 勝ちを確信する何かがあると察したカルロは身構え、守りの姿勢をとる。


沈没船の宴(グリーフ・ダイバー)!透過を解除する!」


ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン!


「カハッ…!」


 何が起きたのか理解ができかった。それを体感するまでは。


「地面から…石が…」


 何もないはずの地面から、不意に石が姿を現し、空へと向かって放たれていく。投石のように飛んでくる攻撃がカルロに直した。


「透過させた石を解除させた!解除した瞬間に透過した世界から物質は弾かれて地上に戻っていき、地面から勢いよく投石みたいに飛んでくるんだぜ!」


 地面からの奇襲。予想だにしない攻撃に、流石のカルロもガードをしきれずに大ダメージを受ける。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

能力情報

所有者:カルロ・マクロイ

能力名:真実の贈り物(トゥルー・ギフト)

能 力:触れた対象もしくは視認をしている対象に贈り物を与える能力。



所有者:???

能力名:沈没船の宴(グリーフ・ダイバー)

能 力:人や物、自身を透過させる能力。所有者は透過した世界と現実世界を自由に行き来することができ、また透過させた物質を元の物質に戻すことができる。透過した世界ではありとあらゆる物質を受け付けず物体をすり抜ける。

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