第一章『旅には問題がつきものだ』 プロローグ『真実の贈り物』
「ユクロス行きの切符を大人と子供一枚ずつお願いします」
「ユクロス行きですね。大人と子供合わせて24000ハウになります」
駅員と男の金銭のやり取りが行われる。男はお金を駅員に渡して手続きをする。
「フィオガルム国に行かれるのですが?」
「はい。妹と一緒に旅に出ようかと思って」
「そうですか。この時期のフィオガルムは名物であるフルーツがよく熟れて甘いのでオススメですよ。こちらがユクロス行きの切符になります。楽しんできてください」
駅員は切符を男に渡す。
「ありがとうございます。是非フルーツを食べたいと思います」
「それとこの辺りでひったくりが頻発しておりましてここ最近後を絶たないので気をつけてください」
切符を渡すタイミングでチケット売りの駅員さんが注意喚起をしてくれた。
「ひったくり…物騒だな…。急いでナリアのところへ戻らないと」
男は買った切符を片手に待ち合わせの場所として約束していた中央広場掲示板前へ向かう。途中で目に入った綺麗な花屋の出店があったので男は立ち寄る。
「綺麗な花ですね。花束をください」
「あら〜、誰かとデートをするのかしら?」
「え?えぇ、まぁそんなところです」
「お兄さんかっこいいから花がよく似合うわよ〜、素敵よ。はい、花束ね」
色とりどりの花々を抱えて待ち合わせ場所に向かう。
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ノーストアリア国東部に位置する主要都市の1つカナリア。別名、『世界の改札口』。その名の通り列車事業が盛んで毎日多くの人で賑わっている。列車事業が盛んな理由として、ここカナリアを中心に5つの国を経由できことから多種多様な人種が入り混じり交易都市として盛んだからだ。名物は各国のシェフが集まったことによる競合性が高まった駅弁が人気で、どれを選んでもハズレないくらいに美味しいらしい。
—中央広場掲示板前
ここでは人々の待ち合わせ場所として多くのの人が利用しており通行量がとても多く、日夜通行人が行き来している。そんな掲示板前に一際美しい少女が立っている。だれもがその少女に向けて目のスポットライトを当てる。
身長158センチの小柄な体格をして若干焼けた肌の健康的な褐色肌をしている。髪色は青色でセミロングくらいの髪の長さに右側にサイドテール、透き通る湖のような水色の神秘的な瞳をしている可愛らしい容姿をしていた。掲示板前で誰かを待っている様子だった。
「あの子可愛い…」 「結婚したい…」
「俺、声かけてこようかな?」「バカ!お前じゃ断られるに決まってんだろ!」
男たちがこぞってだれが少女に声をかけるべきか言い争ってる。仮にもここは『世界の改札口』。ナンパをする馬鹿な男が一人くらいいてもいいのだが、あまりにも可憐でこの世の穢れを知らなそうな純白な少女に、決して汚してはいけないと思いとどまるほどに少女は美しかった。
そんな中、アフロ頭とモヒカン頭が特徴的な世紀末風の男二人組が少女に近づいていく。
「そこの可愛いお嬢ちゃん〜。暇なら俺らと一緒に遊ばない?ここら辺でいいところ知ってるからさ〜、一緒にきてよ」
アフロ男が話しかけてくる。ハッキリいって少女とは不釣り合いなほど品性のかけらもないような男たちだ。
「…」
「ちょっと無視はひどくない?俺らも勇気を出して君を誘ってる訳だからさ〜、それ相応の返事があってもいいと思うんだけど?」
「…」
ここまでしつこく迫られたら「結構です」の一言を言う状況だが、少女は相手にするだけ無駄だと言わんばかりに無視を決め込み毅然とした態度をとる。そんな態度に反感を買ってしまったのか、男たちの態度が豹変する。
「おい!無視してんじゃねーよ!高嶺の花ぶりやがって!てめーの相手をしてやるって言ってんだよ!無視はYESと捉えるぜ!ついてこい!」
アフロ男は少女の細い手を掴んで強引に連れ込もうとする。少女もまさか手を出されるとは思っていなかったのか、咄嗟のことで一瞬状況を掴めず慌てて抵抗をする。
「離してください!」
「おいおい喋れるじゃねーかよ!可愛い声だね〜」
少女を傍観していた通行人たちも慌てた様子で止めに入ろうとする。
「おい彼女が嫌がってるだろう!」「だれか警備員を呼んでこい!」
「黙れ!この子に声をかけられなかったチキンの癖によ!」
もう1人の世紀末風モヒカン男が傍観人に対して威嚇する。傍観人も裕福な育ちのいいお坊ちゃんが多いのか世紀末風の輩の威嚇に怯んでしまう。そんなことをやっているうちにもアフロ男と少女の引っ張り合いよ攻防が続く。
「痛っ!」
「可愛い声で鳴きやがるぜ!いいから俺たちと遊ぼうぅぅぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ」
「「「!?」」」
突然何者かに口元を塞がれたみたいにアフロ男の声が籠りだす。
傍観人とモヒカン男がその異様な光景を目にしてどよめく。アフロ男の口が何かを頬張ったように膨れ上がったからだ。咄嗟のことで少女の掴んでいた手が僅かに緩み、その隙に少女はアフロ男の手を振り払い拘束が解かれる。
「オェ!ぺっ、ぺっ!」
アフロ男は何が起こったか分からずに頬張っていたものを吐き出す。
「…おい兄弟…口からなんてもの出してんだよ…」
吐き出した物を見て驚愕する。普通なら口には含めないであろうカラフルな異物が吐き出されたからだ。
「んだよコレ!花!?」
「兄弟…いつの間に手品ができるようになったんだ!?コレで女の子を喜ばせようと…くぅ〜!兄弟は男の中の男だぜ!」
「アホかブラザー!手品をした覚えもないしこんなものを口に含めた覚えもねぇ!…まさか!巷で流行ってる未知の病なんじゃ!」
アフロの男が口から花を吐き出す異様な光景を誰もが驚愕している中、一人の男が騒ぎの現場に近づいてくる。
「おい!アンタ危ないぜ!相手は世紀末風の男二人組だ!いくらアンタが強くてもあの二人組には勝てない…」
「そうだぜあんちゃん!それに奴等口から花を生み出す特技を持っている!いくらタッパがあってもあれを捌けるとは思えねぇ…」
忠告を受ける男は身長178センチとすらっとした背筋をしており、白髪に所々黒のメッシュが散りばめられている。瞳の色はエメラルドグリーンでノーストアリア人特有の瞳をしている。顔つきは初対面の人から忠告をされるほど喧嘩とは無縁そうな優男のような印象だ。名はカルロ・マクロイ。
「ねぇ?うちの妹になにやってんの?」
「兄ィ!」
「兄ィ」と呼ばれた男こそが少女が掲示板前でまっていた人物であるカルロだった。
世紀末風の男たちの背後からカルロは現れて、少女もカルロの姿を見た瞬間に先程の毅然とした態度と打って変わってどこか安心をしきった表情している。
「てめー!兄貴かよく分からんがすっこんでやがれ!俺らはこの子と一緒に綺麗なお花を見に行くんだ!」
アフロ男が拳を大きく振りカルロに殴りかかってくるが
スカッ
それをカルロは華麗にかわして孤を描きアフロがよろめく。
「てめぇ!舐めてんじゃねーよ!」
男は再びカルロに殴りかかってこようとするがその瞬間に再び男の口が何かを頬張るように異常に膨れ上がる。まるでリスが備蓄のために頬袋に木の実を詰め込むように。
「うぉぉぉぉろろろらろろ」
口の内容量のキャパが超えてアフロ男はたまらず口に入っていた異物を吐き出す。
「ペッ、ペッ!今度はなんなんだよ!?オェ!くっせー!!!」
今度吐き出しものは土らしきものだった。
「兄弟!今度は口から土が!一体どうやったんだよ!!俺にもその手品教えてくれよ!」
モヒカン男は感激の眼差しでアフロ男に教えを問う。
「つーちー!?いや、土にしては匂いがキツイぞ?」
「あぁ、それはさっき花屋に立ち寄ったときにおまけで貰った肥料だ。動物のフンが入って栄養満点だから、使うとすごく綺麗な花が咲くらしいんだ。」
「ひりょう!?オェーー!!!!」
「まだ何か用かな?お望みなら次はもっといいものを口の中に入れるけど?」
カルロは公衆トイレをチラッと目線を送る。まるで次は便器に入った物を口の中に入れてやるぞ言わんばかりの発言だった。最初は脅しだと思っていたがアフロ男の身に起きた説明のしようのない現象に冷や汗が止まらなかった。
「ひぃぃぃぃ!それだけは!それだけは!勘便だー!!!」
「待ってくれよ兄弟!ちくしょー覚えてろよ!」
何かを察しアフロ男が現場から逃げ出し、連れのモヒカンも捨て台詞を吐いてアフロ兄貴を追っていく。掲示板前にいつも通りの平穏が戻ってくる。
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「ごめん、切符売り場混んでてさ。怪我はない?」
カルロは少女の身体を舐め回すような勢いで怪我をしてないか目で確認する。
「少し手を掴まれただけだから大丈夫だよ。怪我もしていない」
「よかった…ナリアに何かあったら僕は…」
少女の名前はナリア・マクロイ。カルロの妹だ。心配してくれる兄に対して少し嬉しかったのかナリアは顔を赤めた。
「あれくらい一人でなんとかできたし…。兄ぃ心配しすぎ…」
「いやいや、男はケモノみたく襲いかかってくるから気をつけないと。特にナリアみたいな可愛い子は。はい、これナリアの分の切符ね。」
カルロは買ってきた切符をナリアに手渡した。ナリアはそれを受け取ると「ん?」とした表情で貰った切符を凝視する。
「兄ぃ…。これは…なんの冗談?」
受け取った切符をひらひらとカルロに見せつけてアピールする。
「冗談って?」
思い当たる節がないのかカルロはポカンとした表情で困惑する。そんなカルロを見てナリアは少し不服そうな顔をする。
「私はもう16歳だぞ!いつまでも子供扱いしないで!もう結婚もできる年齢だし!」
カルロが買ってきたのは子供用の半額切符だった。だが、そんなことはカルロには関係ないと、とあるワードに引っかかる。
「ナリアが結婚!?誰とだ!?そんなどこの馬のとも分からんやつ、兄ちゃんは許さないからな!」
『結婚』。妹大好きのカルロからすればこの言葉がどれほど悲痛で残酷な報告なのか計り知れない何かがあった。
「ナリア!結婚というのは誰かと交際して夫婦になることなんだぞ!夫婦になって何やかんなあってコウノトリが子供を運んできて、夫婦で子供を育てて僕がおじいちゃんと呼ばれて、孫にいっぱいオモチャ買ってあげて嗚呼ナリアの子供はきっとナリアに似てかわいいんだろうな〜。いや!義息子似かも?イヤぁぁぁぁぁ…!いいか、夫に何かされたら僕に相談してくれ!つてを使って軍に引き渡してやる!」
ただでさえ子供扱いされたことに苛立っていたナリア。この余計なやり取りでとうとう堪忍袋の緒がプツりと切れる。
「私は彼氏もいないし結婚もしないし何で兄ィが私のお父さんになるんだ!いいから今すぐ切符を払い戻してきて!!」
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「ナリアなら子供料金でもいけそうだけどな〜」
(ムスっとしたナリアも可愛い…。尊いなぁ…。守りたいこのムスり顔)
買い直した切符をナリアに渡す。
「兄ぃ…。次、子供扱いしたら一生口聞かないからね」
それだけは勘弁と謝罪をした後に列車の搭乗口を目指して歩き始める。
「元軍人のくせに料金をチョロまかそうとしないでよ」
「いやいや、チョロまかそうなんて思ってないよ。僕の中だとナリアはまだ小さいイメージがあったからつい子供料金で買ってしまったんだ。いやー子供の成長はあっという間だな〜」
ナリアの成長をしみじみと実感するカルロ。小さいときから世話をしていた当人からすればこんなに可愛く立派に成長したナリアのことを溺愛するのも無理はない。幼い時に両親を亡くしていることもありナリアを育てたことで母性本能が目覚めてしまったのだろう。カルロにとってナリアは妹であり我が子も同然なのだ。
「私たち9歳しか歳違わないんだけど…」
ナリアは16歳、カルロは25歳ではたからみれば少し歳の離れた兄弟にしか見えなかった。何の他愛もない会話していると周りが騒がしくなる。
「ちょっと警備員さん!そこの人を止めて!鞄を盗られた!」
「「!」」
うしろから大きな声が叫び声が聞こえる。二人は声がする方へ振り向く。そこにはお年寄りのお婆さんが倒れており、そしてお婆さんのものであろう男性には不釣り合いな鞄をもった男がこちらに向かって走ってくる。状況を察するに切符売り場の駅員が言っていた、この辺りで頻発しているひったくりの犯行だろう。
「イテっ」
ひったくり犯とカルロが衝突し二人が地面に倒れ込む。
「いってなー、クソが!」と捨て台詞を吐きながらひったくり犯はすぐに起き上がり再び逃走を図る。
「兄ぃ大丈夫!」
「大丈夫、大丈夫。それよりもおばあさんを」
カルロはお婆さんの方向へ目線を送る。ナリアもカルロの無事を確認してからすぐにおばあさんの方へ駆け寄る。
「おばあちゃん大丈夫ですか?」
「あぁ、ありがとう…。でも私なんかよりも鞄が…。孫のプレゼントのために大金が入れていたんです。あれが無ければ孫にも会えない…」
「兄ぃ!」
ナリアはカルロの方へ振り向く。だが、先程倒れていた位置にカルロは確認できず周囲を見渡し兄の姿を探す。すると線路の方に人混みがでてきおり、駅員が線路に向かって何やら叫んでいる様子だった。
「困りますよ!お客さん!線路の中は危ないですから!今すぐ上がって下さい!」
「ちょっとなにあれ?投身自殺?」「まだ若いのに気の毒ね…」
駅員や一般客の民衆が線路の中を凝視して騒いでいる。まさかと思いナリアは騒ぎの原因である線路の方を覗き込むとそこには…
「何してるんだ!兄ぃ!」
線路の中にいたのは自分の兄であるカルロの姿だった。
「いや、ちょうどいいサイズがあったからさ」
カルロは線路に敷き詰められている石を手に持ち、取り出そうとしていた。呑気にしている兄の様子を見て慌てて説得する。
「危ないから早く上がってきて!」
「そうですよお客さん!これで列車が遅れたら私の責任になっちゃいますよぉぉぉぉ!」
よっこいせ、と敷き詰められていた石を列車のホームに置き、大量の石を取り出して満足したのかカルロも線路から脱出する。
「よかった客さん!あれですよね?線路から落ちてしまったんですよね?そうだって言ってください!!!」
「いや、ごめんなさい。わざとです」
「わざとぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
駅員の悲痛な叫びが列車のホームに響き渡る。
「兄ィ、犯人の姿を見失ってしまった…。おばあちゃんの鞄が…」
「もう大丈夫よお嬢ちゃん…。あとは警備員の方に相談します…。私のためにありがとうございました」
諦めの言葉を放つお婆さんはどこか悲しい表情をしていた。
「おばあさん、大丈夫です。鞄は必ず取り返します」
「どうやってですか…?この人混みじゃあ犯人を探すのは不可能なんじゃ…」
お婆さんの疑問は的を得ていた。ここは『世界の改札口』。沢山の人間が行き来している中で人探しをするのは砂漠の中でコンタクトレンズを見つけ出すに等しい行為だ。
ぷわぷわー
!?
この騒ぎに集まっていた通行人とお婆さんが不可解な現象に驚く。カルロが取り出した線路の石がひとりでに宙を浮き出したらだ。
「幸か不幸か、鞄に触れていてよかったよ」
宙へ浮いた大量の石は犯人が逃げていったであろう方向へ移動し始める。
「真実の贈り物。対象にはすでに触れている」
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タッ、タッ、タッ!
ひったくり犯がお婆さんの鞄を抱えて人混みを問答無用で走り込み、民衆を押し倒してひたすら前へ進行する。
「どけ!!道を開けろ!!俺様が通る!!」
シュン!シュン!
鞄に向かって謎の物影が飛んできて中に入り込む。それまで抱えきれるほどのサイズだった鞄が、明らかに膨れ上がり抱えきれないほど肥大化する。
ドサッ!
犯人が鞄を抱えきれなくなり尻もちをつく。今まで平気で持てていたはずの鞄が急に抱えきれない重さとサイズになり困惑する。
「なんだー!これは!急に鞄が…重たくなりやがった!それにこんな大きさだったか?」
タッ、タッ。
「あっ、いた」
ひったくり犯がもたついてる間にカルロが追いついてきた。
「その鞄はおばあさんのものだ。今なら見逃してやるから鞄を返せ」
「なんだてめーは?だれがなんと言おうがこれは俺の鞄だ!」
「重量に耐えきれずに鞄を置いたな?その中に石が入っていればお前が犯人だ」
「石?そんなもん入ってるわけ…」
ひったくり犯は鞄の中身を漁りだす。明けた瞬間…ポロポロと石がこぼれ落ちる。
「な!?こんなものいつから入ってたんだ…?」
「これでお前が犯人だな。それはおばあさんの鞄だ。返せ」
「くっ!」
ひったくり犯はポケットからナイフを取り出してカルロに刃を向ける。
「うるせー!テメーを殺して鞄を手に入れてやる!」
普通の人ならナイフを取り出されたら動揺するだろう。
だが元軍人であるカルロからすれば脅しの道具にもならない。
「最後の警告だ。ナイフをしまってカバンを返せ」
「な、舐めやがって!」
ひったくり犯はナイフを持ってカルロに特攻していく。
「触れたのはカバンだけじゃない。お前にも触れているんだ」
ビュン!
鞄の中に入っていた石がひったくり犯の顔面目掛けて飛んでいく。
「な?」
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ!
「グエっ!…」
顔面に石が直撃する。三発、四発と
「真実の贈り物、対象に贈り物を与える能力。人のものを奪うやつには鞄じゃなくて石がお似合いだ」
石とぶつかった衝撃でひったくり犯の手からナイフが離れ、その隙を見逃さないカルロはひったくり犯の手を捻り地面に身体を押さえつける。
「駅員さん!犯人を押さえつけたのであとはよろしくお願いします!」
タッ、タッ!
カルロの声を聞いて遅れてナリアとお婆さんと駅員が到着し、駅員とカルロに入れ替わり不慣れな様子で犯人を取り押さえる。
「は、犯人確保ー!!」
カルロは落ちている鞄を拾い上げてお婆さんに渡す。
「ごめんなさい、おばあさん。中身は無事ですが石でカバンが汚れてしまいました…」
そんなことはどうでもいいとお婆さんは首を振る。
「ありがとう…。もう見つからないと思ってたのに…。本当に…ありがとう…」
お婆さんは泣きながらカルロの手を握り感謝の言葉を送る。
「お礼をしなくては。何か欲しいものはあります?お嬢さんにも是非お礼がしたいわ」
「おばあさん、僕たちは何かが欲しくて人助けをしたわけではないのでお気持ちだけで十分です。そのお金はお孫さんのために使ってあげてください」
「兄ィの言う通りです!私たちは人助けが好きでやったのでお礼なんていただけません」
「そんな…それでは私の気が収まらないわ…」
ぐぅるるるー、カルロとナリアのお腹が駅のホームに響き渡る。
「そういえばお昼食べてなかったな…」
「うん…」
ナリアはお腹が鳴ったことが恥ずかしいのか頬を赤らめる。そんな二人を見てお婆さんは提案する。
「そーだわ!是非ご飯をご馳走させてください!ここら辺で美味しいレストランがあるのよ。ご飯だけなら構わないわよね?」
お婆さんの提案に最初は遠慮していた二人だがお婆さんの善意に負けて提案を受けいれてレストランに向かおうとするが…
ピンポンポーン!
ザザッ…
「まもなくユクロス行きの列車が参ります。危険ですので線の内側までお下がりください」
駅内のアナウンスが入る。
「「あ!」」
アナウンスの放送が入り、二人の顔が向き合う。お婆さんの鞄を取り戻すのに夢中で本来の目的である列車に乗車することを忘れていた。
「すみません!おばあさん!列車が来てしまったのでお礼は大丈夫です!」
「おばあちゃん!今度はひったくりに気をつけてくださいね!」
お婆さんに別れの挨拶を放って急いで列車の搭乗口を目指して走りだす二人。
「ふふ、あんなに優しい人達は久しぶりだわ。今度もし出会えたら改めてお礼をさせて欲しいわね」
タッ、タッ!
「あー、駅弁買いたかったな〜」
「いいから急いで兄ィ!列車に遅れちゃうよ!」
カルロとナリアの旅が始まる。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
能力情報
所有者:カルロ・マクロイ
能力名:真実の贈り物
能 力:触れた対象もしくは視認をしている対象に贈り物を与える能力。




