第九話...comparison syndrome
行くぜ、チャンミ育成
幼い頃から足りないモノばっかだ。成長する度に、増えて行く皺の数と限界地。
ヤニを吸う位で、少しの幸せを感じるのに、周りに与える傷害はシアワセを感じられる微々たる時間と比べるまでもなく、障害がでかい。
息抜きで飲む酒も、最新の情報では毎日少しでも体に害と解ってる。息抜きじゃない、少しでも良いからこの辛いことばかりの現実から少しでも眼を背けたい。
抜けるのは息でもストレスでもなく、感じられるかも知れなかったシアワセの時間とドス黒い人の欠陥、胃酸でドロドロに原型を留めていない食べ物。
将来アレになりたいと思っても、数ある無限の可能性と言われる二択ずつの選択肢。
成功して大きく積み上げた物は一つの失敗で、大きな音を立てながら崩れさるのに、成功は微々たる物の積み上げにしかならず、ハイリスク・ローリターンの神様の設計上、一発大逆転は天文学的確率でなければ選ぶ事が出来ない。
世代が進み、走っていた競走馬の血を引く馬がターフを走る。その頃には腕時計の価値や高級車、一軒家の憧れは崩れ落ちかけている。
彼女、経験人数、流行、収入、結婚、フォローワー数、友達の数、聴く音楽、再生数、ブランド、容姿の美醜が価値を上げ続け、人は比較を止められない病人になった。
小さい頃、色のないテレビで見たヒーローに憧れを持ったが、能力的に人を完全に救えない事を知った日、私は自分の正体に気付いた。
人を救うヒーローに憧れたのではなく、私は、ただ人の目を向けられなかった。それ知った人から、薄々と自分に対する理解度が上がって行った。
人を助ける時、一番自分らしいと思った。それもそうだと、私は他人が苦しむ姿を見て、幸せを感じる化け物だった。ヒーローに憧れたのは本当だ。正義の虎の威を借り、他者を大義名分で殴れ、最も近くで苦しむ人を見れるから。
自分らしく生きれば、不幸な人間が増える。そんな人種は必ずいる。
劣等感を感じながらも、自分寄りも不幸な人生を送ってきたホームレスの人間を見て、蔑むことで穏やかな気持ちになる人格を殺したい私がその証明だ。
いじめ、それも私と同じ系統の人間がいなければ起きないだろう。この世には、人格を殺さねばならない人間が沢山だ。
十八になり、比較しないと生きて行けないのは変わらず、それなりに夢は増えて行くばかり。
眼にクマを作り、夢を叶える一歩として自分を殺し続けた。理由は、本来の自分のに自信がなかったし、喜びを感じてみたかった。
自分を磨き彼女を作り、隣の芝生を見て煮えくり返りそうな、底知れない悪意が私を蝕む。
嫌になる。自分らしく生きたいだけなのに、この世界と違う感性を持つだけで自分らしさを忘れて生きて逝くしかない。
一生もんの劣等感、比較だけは病気として受け入れるしか無かった。
殺せない、無意識化の自分には誰であっても、決して殺せないと思う。感性を変え何て、それは不可能だ。
私が一番殺したかったのは、普通に憧れる私だ。
結果が欲しいかった。私が、自分らしく生きても良いと、他者を不幸にせずともシアワセを感じれるのか、明確な結果が。
成長して、結婚して、子供が出来て、枷を増やして逃げ道を塞いだ。
そうしないと、殺した自分が井戸から這い出て来そうだった。絶対に嫌なのだったのだ。成長する度に荷物が増え、過去の自分がそこらを闊歩しているのがわかって、比較して安心する対象と同じ下の存在になりたくない。
陰口をほざくOL、仕事を押し付けソリティアを行う部長、ヘコヘコと頭を上の人物だけに下げる係長、教える気もなく怒り、考えろと思考を放棄する課長、カツアゲする学生、詐欺師の様な人間が周りには気付けば溢れている。
相談すると「自信は持たなきゃ」だとか「考え過ぎ」だと言われる。過去は「みんな違ってみんないい」と教えられたが、点数でマウントを取り合う親同士をみて、それは違う事に気付いていた。
二人の子宝に恵まれたが、一人は小学三年生の頃に誘拐され、必死に助けようとしたが、警察が持って来たのは顔以外原型を留めていない、ぐちゃぐちゃになった長女。嫁は次女に面影を重ね、思い出す度に鼻水を流して泣き喚いていた。
不幸だとは思わなかった。嫁が悲しむ姿は見ることは出来たし、生きたまま欲望の糧となった娘の苦痛の顔を見れたのは幸福だと思い、感涙した。
嫁も私がパチ屋に行っても、キャバクラに行って遅くなっても何も言わない。
自分らしく生きたいと、五十代後半から思った。それは、次女が暴行され、子供を孕んで嫁と自殺しからだ。
己の騙し続けて来て夢は錆付き、枷であった嫁も娘も誰一人残らかった。
「どうだね?!青年っ!」
「厄介極まりねぇなぁ!!?」
「模倣・増殖・深層具現化・複合能力媚り付いた黒電話」
「ジリ貧か、その前にお前を倒す!世界停止っ!」
「ククク......無駄無駄っ!時を止めるのは解ってる!!」
世界が一度、円形に巻かれた後に灰色に染まる世界。停止、するはずが灰色の世界が砕け散り、老人が発動する媚り付いた黒電話、両手の平からおぞましい色をしたドロドロの液体が現れ、その汚い滝の中から現れる仮面を付けられた二人の人物。
一人はナイフの達人でありながら、肉弾戦が非常に強く、能力はナイフのリーチを伸ばすというシンプルな物だが、もう一人のスナイパーの弾道をスピードが0にならない限り、スピードを上げ、弾道を666回変える事ができる。
二人のコンビネーションに寄って近付く事が出来ず、魔改造によって連発出来る様になった対物ライフル、ヘカートII、擦りでもすれば肉片へと成り代わる。
それも二人ではなく、数は百を超え、時を止める事や顕現系の能力は打ち消されてしまう。使用出来るのは肉体強化と老人が認識出来ない能力のみ。
頭に流れる走馬灯が父や母の声を体に反響させる。──「妹が生まれるの、楽しみにしててね」──「俺はお母さんと妹を見てくる......待ってなさい」──「あの子は優しい子よ!」──「何度言ったら分かるんだ!足手まといは必要ないと何故分からない!!」夜中、布団に潜っていても聴こえる、嫌な声。
──ルッッセェナ......うるせなぁ!!!
強化された蹴りを片手で受け止めるも、老人は異力の肉体強化に加えて異能を同時発動することに寄って本来の強化系以上の威力を発揮、紅はイオンから投げ出され、大きな駐車場へと投げ出される。
宙を当然の様に駆け、間髪入れずに連打を繰り出す。
老人が移動した影響なのか、建物に穴を空けた影響か、絶叫した人の顔が埋め尽くす暗闇の水が駐車場へと流れ始める。
──九州新幹線......駅に此奴を近ずかせるのはマズイ!!一撃で、削り切る!!
両手を組み合わせると掌から大量の水が現れ、大きな金棒にも長い球体にも似た形状を形作り、老人へと強力な一撃を与える。住宅へと吹き飛ぶ老人に龍型へ変えて水を放出する。
斜陽十二炎神武天・勾龍陳怒、流石に喰らえばマズイのか、莫大な風を手両手に纏い、うち放つ。
勾龍陳怒は敗れ、大量の水は紅へと直撃、線路へと叩き付けられる。
「なぁ紅、お前は将来何になりたいんだ?」──「お母さんの事、どのくらい好き?」
大きく引きを何度も吸い込み、肺に入った水を出そうと咳き込む。
「黙ってろ......!!──もう、待たない、待ってられない。死ぬかも知れない!それなのに、あの窓では待てない......何言ってんだ、俺は......」
「走馬灯でも見ているのかな?君の人生は悲しいものだったな」
「違う!この世には俺より不幸な人達が沢山いる。俺は、親に捨てられただけ何だ。虐待も受けてないし、何より......大切な家族をもう一度手に入れた」
「待っているんだろう?君の心は。あの大きな窓で」
「──るっせーな!人の過去をゴチャゴチャ評価しやがって!」
「君も比較している。他人と人生を比べて、シアワセになりたがってる。演じているんだろう?自分らしく生きたいだけなのに、強い楓になりたがってる!」
咄嗟に内冷外撚を放つも軽々と避け、「君は失敗作」と言葉を続け「何故たら自殺さへミスった!」と舌を出して、線路で立ち上がる紅を見下し笑う。
ハハハと笑う老人は自分の瞳の能力に付いて話、自分の身の上話を話した。
全て、私は壊したいんだ。私寄りもシアワセな者の家庭を、家族を殺し、娘を襲った男達も、歪んだ会社も、社会も、能力を見せるのが怖いこの世界構造さへ、私は全てを壊したい。
娘達が死ぬなら、私がこの手で殺してやりたかった。
犯人達に憎悪を抱かない訳ではない。
悔しかったであろう娘達の心は、冷えきった体は600Wと3分では温める事はもう出来ず、命はコンビニでは買う事は出来ない。並ぶ事も。ない。
「君には私の能力は見えているだろう?そう、私の能力は人のトラウマ、恐怖を能力にしてしまう能力。それは死者も例外無くだ」
「能力の開示、セコイ手を使うな」
「君は私が知る能力者の中で最強だ。だが!君は弱い、弱過ぎる。セーブしているんだろう?人を巻き込まない様に、なんて優しい魔王なんだ?!!」
「お喋りが好きなやろうだ」
「君は知ってるかな?特質系の能力の手に入れ方を」
「は?」
能力者なら理解出来ない、老人の言葉。
生まれながら系統は変わらず、変わるとなると心臓移植や心変わりし、自分の核が変わった時の場合のみのはず。
それもレアな特質、誰であろうと喉から手が出るほど求められる、ルールの法則を唯一、捻じ曲げられる者の共通点さへ誰も知らない。
それも、あの男は知ってるに加え、手に入れる条件さへ知っていると言うのだ。到底信じられるものでは無い。
「それは、自分を偽る者だ」
「そんなの、誰だってそうだろう」
「違う。名前を持つ事だ。楓、君の様にな。もう一つの名は、大切でなければならない。君の母の炎天家は代々と炎の家系だが、紅葉は違うだろう?」
「そうだ。......姉貴も、兄貴も、樗も銀杏も大切な二つ目の名前を持ってる」
「それに、私も君も自分を殺してから特質の能力を扱い始めた」
「っ!?」
確信、話す理由などない紅に語るのは、彼に思う所があるのか、それとも──。
紅はイアホンを三度叩くと音声操作に切り替え、自分の半径100メートルの避難を伝えると自身の身体を炎に包み、足元の炎を噴射することで老人との距離を詰める。
老人から生える巨大な手が連なる触手にも見える腕を股関節から大量に伸ばし、拳を振るう。
二人の拳が重なる瞬間、衝撃波が生まれ、建物の窓ガラスが砕け散る。
方や特質が持ち合わせる最高の領域、方や強化系を更に超えた領域に存在する、既に人間と表現してもいいのか分からない、名状しがたい存在。
紅と老人の攻撃は六千を超えたたありで互いに目の色を変え、両手の平に属性能力を纏わせ、同タイミングでうち放つ。衝撃で地盤を揺らし、大地に大きな亀裂を入れ、亀裂の中から二人の闇と炎が溢れ出て、空を黒と青に染める。
互いの攻撃が相殺、次の攻撃に畳み掛ける時間はコンマ一秒も無駄にせず、宙には炎が舞う。
五芒星、一筋の光、幾何学模様、あらゆる形の技を互いに繰り出し、五分経過する頃には紅の体はボロボロになり、右腕なく、左目は潰れて血を流している。
口から垂れた血を拭い、左手に蒼炎を纏い向ける──「斜陽十二炎神武天・青虎九龍」背後から青き龍が九体現れ、老人の黒ずむ稲妻の球体へと向けられる。
重なると空が割れ、無闇矢鱈に周囲に降り注ぐ雷撃がコンクリートの地面を剥がし、宙には何重と数え切れない波紋が広がり、その波紋の中で拳が重なると新たな波紋として広がって行く。
彼らの戦いは正に神々の戦いと後に語る者が多く、理由は天翔る龍や、大地をかける馬が不死鳥に昇華する現実離れした光景から来たものだった。
手で兎の影絵を作り、影を媒体として筋肉質の身長190cm以上の人型兎を六体具現化する。強化、具現化、操作の複合技の一つ。
──六兎結合
身体能力は術者本人を超え、術者が使用する技を記憶、修得する。
老人が発動した媚り付いた黒電話、増殖した二人に向かわせ紅は本体を叩くと決め、炎の馬を具現化する。
──朱馬雀焱
地上では馬、空では不死鳥のように舞う炎。強化、具現化、操作、変化の複合技の一つ。
テニスコートと同じ大きさを誇る不死鳥形態に乗り、老人が放つ雷や黒い炎を手加減無しの内冷外撚で相殺する。
結界内でも大き過ぎる異力量の相殺は難しいらしく、そう何度も能力を打ち消さる事はない。
──ならば、こちらも全ての手札を見せるつもりで!手数で攻める!!デメリットなど今から気にしてられるか!!!
天猪女后は水がなければ発動出来ない。だがしかし、水がある所では何処でも発動出来るので勾龍陳怒を放ち、水の龍の中から鮫型の龍や古の海の支配者達を模した式神が宙を泳ぎ、スピードが落ちれば地面に落下するので、そこらかしこで大きな衝撃音が響く。
「ここまで斜陽十二炎神武天を見せる事になるとは」
「君の本来の戦闘スタイルは必ず勝てる場面、能力を揃えてから戦う事だろ?」
「騰蛇紅蛇」
「流石はヱヰ家と言いたいが!君はただのチュートリアルだ!!」
「っ!?斜陽十二炎神武天・白猿虎喧!!」
猿の足に脚を変えた紅の雷撃を纏った蹴りが後頭部を捉え、老人が防御したものの地中にめり込む威力を見せる。地面には大量の電流が流れ、電化製品を全てショートさせる。
地面が大きく揺れ動き、老人が落ちた穴を中心として亀裂が広がったと思えば亜音速で飛び出す老人に紅は炎を逆噴射してトドメの一撃を振るう。
「白猿虎喧!!!」
「終焉・心ノ亀裂」